ギャルソン出身デザイナーが手掛ける「YOUTH OF THE WATER」がデビュー エゴではなく着用者を想う“優しさ”のある服

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2024年02月21日 17:51  Fashionsnap.com

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 コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)で「ジュンヤ ワタナベ マン(JUNYA WATANABE MAN)」のパタンナーを5年間務めた上田碧が手掛けるメンズウェアブランド「ユース オブ ザ ウォーター(YOUTH OF THE WATER)」が、2024年秋冬コレクションでデビューした。ファーストコレクションは一部取り扱い店舗で販売する。

 ブランド名は、中国唐代の文筆家、陸羽の著書である「茶経」で表現された「華」という言葉を、東京藝術大学の創始者でもある岡倉天心(岡倉覚三)が、著書「The Book of Tea(邦題:『茶の本』)」の中で「YOUTH OF THE WATER」と表現したことに由来する。「茶経」の中で描かれているのは、当時の茶人たちが「茶」を崇高なものとして捉え、茶と人間とが“対等な関係”を築こうとしている姿。その真摯な姿勢が後の茶の湯文化にも大きな影響を与えたように、上田が目指すのは、ファッションデザインを通じて、「プロダクト」「メーカー」「ユーザー」の3者の間に対等で“より良い関係性”を生み出すことだ。

 上田は影響を受けた作り手の1人に、1989年に発表されたコンピューターゲーム「シムシティ(Sim City)*」を生み出したゲームクリエイター ウィル・ライト(Will Wright)を挙げる。「従来のRPGのようなゲームは、クリエイターが用意した世界観をプレイヤーが追体験するものでしたが、シムシティはプレイヤー自身が自分の世界を創造します。プレイヤーを信用し、誰もがクリエイティブであるということを信じて作品を作り上げたウィル・ライトのように、着ていただく方を信用して、誰かのストーリーを蓄積することができる器としての服を作りたいと思っています」。(上田)
*シムシティ:都市経営シミュレーションゲーム。何もない土地にユーザー自身が自由に街を構築することができる。

 ファーストコレクションは、マサチューセッツ州ネイティックの米軍研究施設で1960年代後半から1980年代前半にかけて研究されていた、ユニフォームテーラリングの記録に着想。昨年末に会社を設立し、まだ整っていない環境で実験的なものづくりを行っているブランドの現状と、機能性を追求し試行錯誤していた研究施設のものづくりの姿勢を重ねた。研究施設があるネイティックという地名はマサチューセッツ族インディアンの言葉からきており、“我々が探す場所”という意味がある。他者視点に立つという「優しさ」を持って実用性を重視しながら独自の創作に打ち込んできたクリエイターたちの姿勢には、「エゴやパーソナリティを前面に押し出すものづくりとは異なり、人や世の中と繋がっていくという広がりがあると感じる」と上田。ファーストコレクションでは、実際にサンプルを自身で着用して生活することで、ユーザー視点で不便な点や着心地に難がある点を洗い出し改善を重ねたという。

 バイオ加工をしたエジプト綿を国内で紡績し、「生機」と呼ばれる綿本来の色や風合いを持つコットン素材をオリジナルで製作。一般的な生機は綿花由来のゴミが混ざったまだらな状態を味として表現することが多いが、織り上がった生機から手作業でゴミを取り除いた混ざりけのない生機を製作し、シャツ(4万1800円)、ジャケット(5万600円)、パンツ(4万6200円)を仕立てた。ドレスシャツは、ワークウェアで多く用いられるダブルステッチや腹部のみボタン合わせを比翼仕立てにするディテールを採用。ジャケットは空軍のラインマン(飛行機の着陸を地上から補佐する人)が着用していたアイテムのパターンを踏襲し、より腕の稼働を広くとったパターンを作成。パンツは、デニム等の厚手の生地で多く用いられる巻き縫いを薄手の生機生地に施すことで縮み皺を生み出した。
 一方通行のクリエイションではなく、プロダクト、メーカー、ユーザーの3者の関係をより良くしたいというブランドの考え方を反映したデニムパンツ(4万1800円)は、雑多に縫製された古着のデニムによくみられる、異なる色の上糸と下糸で縫われたことで箇所によってステッチの色が異なるディテールに着目。上糸を生成り、下糸を紺色で固定し、「縫い手目線で合理的な縫い方を」と縫製工場に依頼して製作することで、縫い手の利き手によってステッチの向きが異なったり、縫い手一人一人が縫いやすい向きを上にしたステッチカラーが表出する。生産者が能動的に製作に関わり、上田の意図から独立したところでアイテムが完成するというプロセスを、“育てる”ことができるリジットデニムで表現した。

 このほか、古着のディテールを採用し、インナーウェアに着想したトップス(3万800円)やパンツ(3万5200円)、フェルト刺繍でロゴを施したTシャツ(2万5300円)、オーダーメイドのテーラードジャケットに用いられる仕様を用いたニット地のジャケット(11万8800円)、セットアップのパンツ(7万9200円)、実験施設でM-65ジャケットを作る過程で実際に製作されていたサンプルを再現したジャケット(13万7500円)、オイルドの撥水生地で仕立てたラインジャケット(9万6800円)の計11型をラインナップする。

 愛着を持って受け継がれ、着用者の生活の痕跡を残す古着のように、長く大切にされる服を作るため、古着のディテールから多くの着想を得ている上田。「長く繋がる服の歴史にとって重要な遺産であり、誰もがその相続人」という考えの下、その相続人の1人として古着のディテールを噛み砕きアップデートする。そうした姿勢の背景にあるのは、現役の江戸甲冑師である祖父の存在。幼少期から培ってきた職人気質なものづくりの精神を持ち、今後はデニム以外にも、生産者の目線や着用者が自由度をもつ余白のある服を増やしていきたいと話し、クラフツマンシップが提示しうる、本質的で誠実なものづくりの多様な可能性を提示していくという。


◾️YOUTH OF THE WATER:Instagram
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