佐々木麟太郎のスタンフォード大進学は「あっぱれ」 OBのマーティ・キーナートが同校の学業やスポーツ文化などを解説

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2024年02月22日 10:51  webスポルティーバ

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 高校通算140本塁打のスラッガー、佐々木麟太郎(花巻東高)のフルスカラシップ(学費全額対象の奨学金)による米国・スタンフォード大進学の発表が世間を驚かせている。

 それもそのはず、スタンフォード大は「文武両道」を地で行く世界トップレベルの学校だからだ。同大の公式サイトによれば、これまでにオリンピック夏季大会だけで177名、計296個のオリンピックメダルを獲得し、2021年の東京五輪では競泳女子のケイティ・レデッキーの4(金2、銀2)を筆頭に現役を含めた同大出身者によって26個のメダルがもたらされた。プロスポーツでは、タイガー・ウッズ(ゴルフ)、ジョン・エルウェイ(アメリカンフットボール)、ジョン・マッケンロー(テニス)、マイク・ムッシーナ(野球、投手)などがいる。

学業面でもアメリカ東海岸のボストン近郊にある名門校・ハーバード大との対比で「西のハーバード」と呼ばれ、イギリス教育誌『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』発表の「世界大学ランキング」2024年版では2位と学業面でも秀でている(ちなみにハーバード大は4位)。

 今回はそのスタンフォード大で自身も野球をプレーし、その後、日米のプロ野球球団で要職を担い、現在は東北楽天ゴールデンイーグルスやBリーグ・仙台89ERSのシニア・アドバイザー等を務めるマーティ・キーナート氏に佐々木の進学、スタンフォード大やアメリカの学生スポーツ文化等について話を聞いた。

【独自にスカウティングされていた可能性も】

―― 佐々木麟太郎選手がスタンフォード大へ行くというニュースに日本のファンは驚きましたが、マーティさんとしてはどう感じられましたか?

「僕もすごくびっくりしましたね。彼は賢いという評判があったけども、スタンフォードに入る門は狭いですから。一番びっくりしたのは、彼がどうやって入ることができたのかということ。普通の(学生と同じ)ハードルを越えて入ったわけではないと思います。

 (ただし)彼も賢いから、ちゃんと、普通に勉強をすれば(授業に)ついていけますよ。学校側もチューター(家庭教師)をつけて彼がついていけるようにするはずです」

―― 例えば山本由伸投手がまだ1球もメジャーリーグで投げていないにもかかわらず、ロサンゼルス・ドジャースと巨額の長期契約を結びましたが、それは彼の球の回転数などさまざまなデータを見ての判断だったと聞きます。佐々木選手の場合はメジャーではなく大学野球です。なぜフルスカラシップ(学費全額免除)という高評価をスタンフォード大が下すことができたのでしょうか?

「それはもう、インターネットの時代ですから、映像を見て分析ができますよ。昔なら自分の目で見てみないとわからないところでしょうが、今はいろんなテクノロジーを使って分析できるようになっています。

 それに、彼はあんなに大きいですが、スイングが良くなかったら獲りません。もしかしたら彼自身を(実際に)スカウティングをしていたかもしれない。スタンフォードの卒業生は日本にもたくさんいますし、「Bird Dog Scout(パートタイムの現地スカウト)」みたいな人が日本にいて、彼を生で見てビデオとレポートを送ったという可能性も十分にあると思います」

【歴史で培われた文武両道の土壌】

―― マーティさんの中で、スタンフォードからメジャーリーグへ行った選手で、誰が印象深いですか?

「まずは、僕と同時期にスタンフォードでプレーしていたボブ・ブーンですね。彼はメジャーリーグ(1972〜1990年)で数々の記録を作った選手で、僕は彼が歴代のキャッチャーとしてもトップ5に入ると思っていますが、彼のお父さん(レイ・ブーン)も、2人の息子(主にシアトル・マリナーズで活躍したブレットと現ニューヨーク・ヤンキース監督のアーロン)もメジャーリーグのオールスター選手で、三世代でオールスターですよ。

 あとはハービー・シャンク(メジャーで1試合のみ登板)は、NBAフェニックス・サンズのセールス・マーケティング部門の上級副社長を務めました」

―― すごい経歴の人物が多いんですね。

「僕は『文武両道、日本になし』(早川書房)という本を書きましたが、スタンフォードは世界一の、本物の文武両道の学校です。日本は(アメリカのような文武両道の学校は)ゼロですよ。

 スタンフォードからメジャーリーガーになったのは過去102人いるようです。これがハーバードだと19人。ほかにもっと多くの選手を輩出している学業レベルの高い学校があるかもしれないですが、スタンフォードは本当に文武両道なんです。

 スタンフォードは野球で全米王座に2度(1987、1988年)なっていますし、ノーベル賞を獲った先生(同校の教授だけで延べ30名以上の受賞者がおり、それ以外の同校に縁のある人物も含めると延べ数十名にものぼる)もたくさんいます。麟太郎くんは最高の大学に入ったのです」

―― スタンフォードは学業の優秀さでも有名な大学ですが、スポーツでもさまざまな競技で世界的な活躍をする選手を多数生み出してきました。学業面だけ優れている学校は多いですが、なぜスタンフォードは学業とスポーツの両方ですごいのでしょうか?

「昔からそういう特別な文化が作られてきたのですが、学生のなかでもスポーツをやっているパーセンテージは非常に高い。勉強ができてスポーツにも優れた人(高校生)はスタンフォードに行きたいとなるのです。結果的に入学できる、できないに関係なく、勉強もスポーツもできる人のファーストチョイスにスタンフォードがなる確率はほぼ100%だと言ってもいいくらいです」

―― そういう文武両道の学校へ進むことで、佐々木選手は学業でも頑張らないといけないですね。

「だから、彼には勉強してほしいですし、しなければならない、ということになります。そういうシステムなんです。NCAA(全米大学体育協会)では1週間で20時間以上は練習できないというルールがあります。家庭教師もいますから(勉強はしなければならない)。

 現在、NBAロサンゼルス・レイカーズでプレーする八村塁選手の場合も日本の高校から米国のゴンザガ大に進学しましたが、昼食の時でも隣に家庭教師が座り、授業が終わってから練習までにも家庭教師がいる、飛行機に乗ったら隣に家庭教師が座る、遠征先でも隣の部屋には家庭教師がいたわけです。つまりは(大学は)塁選手に投資をしたわけです。おそらく麟太郎くんも勉強についていけるように学校が同じような扱いをするでしょう」

――野球のシーズンも2月から始まり、カレッジ・ワールドシリーズ(全米王座決定トーナメント)が6月下旬までなので、日本の感覚からすると短いですね。

「日本の場合は同じスポーツを年中やりますが、アメリカの大学スポーツはシーズン制。だからシーズンはわりと短いです。ですがこれは、3カ月はアメリカンフットボールのシーズン、3カ月はバスケットボールのシーズン、3カ月は野球というもともとの仕組みなんです。僕も小学校1年生から大学に入るまでの12年間、アメリカンフットボールとバスケットボール、野球の3つのスポーツをやっていました」

【スタンフォード大野球部の環境】

―― 佐々木選手の野球選手としての印象について、マーティさんはどう感じていますか?

「あの体格、普通だったらバットスイングできないくらい大きいですよね(笑)。友だちに彼が6フィート1インチ(約185cm)で250パウンド(約113kg)だよと伝えたら、『そんなにでかいの!?』と驚いていました。

 だから、彼を見ていて思い出すのはセシルとプリンスのフィルダー親子。メジャーリーグで本塁打王に輝いた2人の身長と体重(セシルは現役時代191cm、125kgほど、プリンスは180cm、125kgほどだった)はすごく似ていますよね。

 でもスタンフォードにはすばらしいトレーナー、ストレングス&コンディショニングコーチがたくさんいます。麟太郎くんは最高のコンディションになるんじゃないでしょうか。彼が絞ったらどれくらいの速さになるか、楽しみです」

―― スタンフォードの球場は、マーティさんの学生時代と現在では違う場所を使っているのですか?

「そこは変わっていません。1931年にできたSunken Diamond(「サンクン・ダイヤモンド)という古い野球場なのですが、最初はアメリカンフットボールのスタジアムを作るために(隣接の野球場建設地から)土を掘って、そのスタジアムを作ったんです。だから(フィールドは)浅くなっているのですが、すごくきれいで、アメリカの大学の野球場ではトップ10に必ず入るほどです。

 僕がやっていた時はセンターが深くて(約152m)、センターへ打ってホームランにするにはランニングホームランにするしかなかった。今はもう普通のディメンション(広さ)になっていて、センターは400フィート(121m)になっていますし、すごくきれいな球場だから麟太郎くんはラッキ―ですね」

―― 佐々木選手は当然、多くのホームランを期待されることになりますが、サンクン・ダイヤモンドは、ホームランは出やすい球場なのでしょうか?

「グラウンドが低くなっているから、風があってもあまり影響はないです。だから、まあまあホームランは打ちやすいですよ」

――2024年からはリーグが長年所属してきた「Pac-12・カンファレンス」という西海岸の大学が中心で構成されたところから、東海岸校中心の「アトランティック・コースト・カンファレンス(ACC)」に移ることとなりました。

「クレイジーですね。本当に理解ができない。だから、麟太郎くんも入ってから移動が大変になりますよ」

―― スタンフォードのデイビッド・エスカー監督はチャーター便の使用を示唆していました。

「多くのチームはそうしないと大変ですからね。Pac-12のチームも(さまざまなリーグへ移って)バラバラになったので、そういうチャーター機の使用も多くなるんじゃないかなと思いますよ」

―― ACCも野球が強い学校が揃っています。

「まあ、そういうメジャーなところはどこも強いです。ただ、スタンフォードは全米一に2度なっていますし、ナショナルチャンピオンシップ(カレッジ・ワールドシリーズ)には19回出ている常連です。だから、麟太郎くんがナショナルチャンピオンシップでプレーする可能性は非常に高いですね」

【"麟太郎パターン"は今後増えていく?】

―― 過去には佐々木選手の高校の先輩でもある大谷翔平(ロサンゼルス・ドジャース)、菊池雄星(トロント・ブルージェイズ)など、トップクラスの選手が高校卒業直後に日本のプロ野球を経ずにメジャーリーグへ行こうとしていましたが、今回の佐々木選手はアメリカの大学へ行くというまた異なる道を選びました。これは日本の野球界にとってどういった意味を持つことになると考えますか?

「これもひとつの方法ですね。NPB(日本プロ野球機構)のシステムではフリーエージェント(FA)になるまでに基本8年かかる(海外FAは9年)。彼は待ちたくなかったんですよ。その気持ちはわかります。

 今の若い選手たちで(アメリカに)行きたいと思っている人たちはいるでしょう。だからこういう"麟太郎パターン"が増えてくる可能性はあるかもしれないですね」

―― 日本だと時としてアスリートが大学へ行く選択をすると「高校から直接プロへ行けばいいのに」といった声も出てきて、大学で高等教育を受けられるという視点があまりないように感じます。そこを踏まえて今回の佐々木選手の、スタンフォードへ進むという選択についてはどう思いますか?

「あっぱれですよ。本来は、両方(スポーツと学業)をやるべきなんです。日本語で『二兎を追う者は一兎をも得ず』ということわざがありますが、ナンセンスなフレーズなんですよ。人間には能力があって、たくさんのことができるんです。

 ボビー・ブラウンさん(故人、スタンフォード大出身)はヤンキースの三塁手をやりながら医学を勉強し、(選手生活が)終わってからは世界的に有名な心臓手術のスペシャリストとして25年間活躍しました。その後はアメリカンリーグの会長にもなりました。文武両道なんです。やろうと思えば両方できるんです。

 日本には『一筋』であることについての美徳がありますが、こだわりすぎですね。だから麟太郎くんにはちゃんといい教育を受けてほしいです。麟太郎くんが途中でMLBに行ったとしても、その後でスタンフォードに戻って卒業はできますから」

【Profile】マーティ・キーナート(Marty Kuehnert)/米カリフォルニア州ロサンゼルス生まれ。スタンフォード大・政治学部卒業。同大では2年生時まで捕手として野球部に所属した。同大在籍中の1965年、慶応大学へ特別交換留学生として初来日。以来、太平洋クラブライオンズ(現・埼玉西武ライオンズ)で営業開発促進室室長や、米マイナーリーグ(2A)バーミンガム・バロンズで共同オーナー兼現地球団社長、東北楽天ゴールデンイーグルス初代GMなど、日米のプロ野球球団に関わる。その他、スポーツエージェントやスポーツジャーナリストとしても活躍してきた。現在は東北楽天ゴールデンイーグルスとBリーグ・仙台89ERSのシニアアドバイザーを務める。

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