怖すぎる花粉症トラブル 運転中のくしゃみで死傷事故、ホームから転落して轢死 裁判記録から読み解く

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2024年02月24日 08:31  弁護士ドットコム

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国民の4割が悩んでいるとされる花粉症の季節が、今年も到来した。環境省は、花粉が極めて多く飛散する日には、屋外での活動を避けたり、テレワークを活用したりするよう推奨する方針だ。


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国民病ともいわれる花粉症は、時に命に関わる事態も引き起こしている。薬の副作用が原因となって自動車事故を起こした人、電車にひかれて亡くなった人…。過去の裁判例を振り返ると、季節性の疾患だからと看過できない課題も浮かび上がってきた。



●くしゃみで前方不注意

【ケース1】四国地方で2017年4月、花粉症のドライバーが対向車と衝突、60代女性を死亡させ、その息子である30代の男性2人に重軽傷を負わせた。過失運転致死傷の罪に問われ、禁錮3年、執行猶予4年の有罪判決を受けている。



松山地裁今治支部判決によると、くしゃみや目のかゆみがひどくなってきて、前方注視が困難になり、対向車線にはみ出したという。判決では「たとえ事前に花粉症対策の薬を服用していても、上記のとおり現に症状が出てしまった以上、速やかに運転を中止しなければならないことに変わりはなく、過失は軽いとはいえない」と断じた。



つまり、症状がひどくなってきた時点で、直ちに運転を中止すべき注意義務があったのに、それを怠ったということになる。花粉症に限らないが、体調不良で無理を続ければ、かえって重大な事態を引き起こすことも考えなければならない。



●薬+飲酒でホームから転落

【ケース2】関西地方で2009年4月の深夜、線路上に寝ていた30代男性が特急列車に轢かれて亡くなった。大阪地裁判決によると、男性は花粉症の薬を服用しており、職場の懇親会で飲酒して帰宅中だった。途中の駅で同僚と別れ、ホームで30分ほどとどまった後に何らかの経緯で転落、9分ほど線路上に横たわっていたという。



裁判は、男性の遺族が鉄道会社に対し、駅員による監視体制やホームドア設置などの対策を怠った安全配慮義務違反だとして5400万円を求めて提訴。一方、鉄道会社側は「許容量を超える多量の飲酒という過失」により事故が発生しており、事故処理にかかった人件費や最終列車に乗れなかった客のタクシー代など84万円余の損害賠償を請求し、反訴した。



大阪地裁は男性側の請求を棄却し、鉄道会社の責任を認めなかったものの、男性の過失割合について花粉症の影響を考慮し、計28万円余に減額して支払命令を出した。



男性の症状は「目のかゆみや鼻水で夜もよく眠れないことがあり、週末には花粉よけの特殊サングラスを着用するほど」だったという。3種類の薬が処方されており、薬の添付文書には「アルコールと併用すると相互に作用を増強することがある」「眠気があらわれる」等の注意事項が書かれていた。



地裁は「注意事項の記載だけで、普段の飲酒量でどの程度の体調の変化が現れるかを予想することは困難で、医師から飲酒について個別具体的注意を受けていたとも認められない」と指摘、転落して寝ることを予見できた可能性は低いとした。



自殺をしようと飛び降りた場合は言うまでもなく、落下物を取ろうと線路に下りたり、自ら許容量を超えて飲酒し酩酊して転落したりした場合などとも事情は異なると説明した。



●花粉症を放置された受刑者

【ケース3】中国地方では2014年、刑務所に収容されていた受刑者が再三の花粉症の訴えを約1カ月放置されたとして国に50万円を求めた賠償訴訟があった。



広島地裁は「医師の診察や治療を受けられなかったことで、目のかゆみや鼻水等に悩まされた上、頻繁に鼻をかむことによる痛みが生じるなどしたことが認められ」ると説明。長期間にわたって放置されたことで精神的苦痛を受けたとして、7万円の支払いを命じた。



記録によると、この受刑者は8年ほど前から花粉症を患っていた。2013年4月には薬を処方してもらっていたが、2014年は3月に症状を訴えたものの、特段の理由なく、診断を4月に後回しにされたことが問題視された。



地裁は、花粉症の治療について細かく指摘している。



「花粉の飛散開始前又は症状のごく軽い時期から薬物を予防的に服用することで、症状の発現を遅らせたり、症状を軽くしたりする『初期療法』が有効であるとされ、(中略)業務上の支障があるなどの特段の事情がない限り、速やかに措置を講ずることが求められる」



花粉症については、当事者でなければ理解できないことも多いだろう。業務効率が著しく下がるだけでなく、一歩間違えれば、取り返しのつかないことになることもある。自分にあった対処法を見つけるとともに、周囲の理解を求めていくことも必要なのかもしれない。


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  • 山火事の煙の如く、杉林から花粉がもくもく出てる至近距離にいても何ともない我が身が、この季節はありがたく思う。
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