サンフレッチェ広島レジーナ 中嶋淑乃インタビュー 前編
WEリーグ・サンフレッチェ広島レジーナでプレーし、なでしこジャパンでも頭角を現してきた中嶋淑乃にインタビュー。左サイドからの突破が魅力で、昨年のアジア大会決勝の北朝鮮戦では、先制点を挙げた注目の選手だ。パリ五輪アジア最終予選の北朝鮮戦の第1戦は、0−0の引き分け。2月28日に行なわれるホーム(国立競技場)での第2戦での活躍が期待されている。
後編「人見知り? おふざけキャラ? 中嶋の素顔」>>
にこやかに、やわらかくひとつひとつ言葉を選ぶように話す。それでいて少し遠慮気味。なでしこジャパンでの中嶋淑乃はどこか所在なさげだ。そんな中嶋が今、"覚醒の扉"の前に立っている。
昨年10月、アジア大会で日本女子代表は優勝を手にした。同時期になでしこジャパンの国際親善試合があったため、そのほかの国内組やU−20世代の選手たちが招集された即席チームのなかに、中嶋の名前はあった。
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大会直前に作られたチームとあって、勝ち上がりながらのチーム作り。グループリーグでは精細を欠いていた中嶋だったが、準決勝でついにこだわり尽くしてきた動き出しが実を結んだ。
右サイドからのクロスに、ゴール前までツメていた中嶋がファーサイドで合わせてゴール。その後、中嶋は決勝戦でも先制弾を決める活躍を見せた。
アジア大会で初めて芽生えた手応え。それを確かなものにするように、なでしこジャパンでも、所属するサンフレッチェ広島レジーナでも、左サイドの中嶋のプレーは躍動しはじめた。
【得意なものがサッカーしかなかった】
――なでしこジャパンという場所は、入れたらいいなというところから、現実的な目標になってきましたか?
中嶋淑乃(以下、中嶋) 前よりは近くなった気がします。代表という括りのなかで、自分のターニングポイントになったのはアジア大会の中国戦(準決勝)のゴールでした。
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それまでの連戦が全然ダメだったんです。でも、あの時は自分の感覚で動き出せて、それがゴールにつながった。あの得点が決まったことで自分のなかの何かが変わりました。その後、ブラジル遠征に招集されたことで、それが「自信」と言える感覚になりました。
――--代表では最初、新戦力として試されていましたが、ここまで活躍が重なるとスタメンも視野に?
中嶋 え! いやいや、それはまだまだないですよ!
――今、ご自身で成長を感じ始めているところだと思いますが、代表での課題は?
中嶋 もっと周りとコミュニケーションを取ること! 本当に極度の人見知りで......がんばろうとは思うんですけど、なかなか自分から話しかけることができない。でも、やっていかないとダメですよね。
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プレーでは守備面。自チームとは違うサッカーだし、何試合も出場しているわけではないので、守備面で連係がまだまだ取れていません。ひとりで何人もの相手を見ないといけないので、常に中間ポジションをしっかりとること、それが難しいです。
――でも、奪った形次第で、サイドはチャンスを作れる場所でもありますよね。
中嶋 そうなんです。すっごいボールが出てくるんですよ! だから楽しいです。しかもボールが出たら、「仕掛けていいよ!」ってみんなが声をかけてくれるので、やりやすいし、実はその声でがんばれたりします。
――中嶋選手と言えばやっぱりドリブルに目がいきます。サッカーを始めた頃から得意でした?
中嶋 始めた小学校の頃はめちゃくちゃヘタクソでした(笑)。でも、男子と一緒にプレーしていた部活とクラブチームの掛け持ちでやっていたんですが、体格差もないから結構勝てていましたね。
その頃、ひたすら練習していたのが足元のメニューでした。ふたつのマーカーの間を、左右の足ではもちろん、いろんなステップや切り返しを交えながら行ったり来たり――これを延々と繰り返すんですけど、これでボールタッチの感覚が養われたと思っています。
あとこの時期の練習の賜物としてもうひとつ、リフティングがあります。これはエンドレスでいけます!
――特にサッカーで挫折を経験することなく、今に至ってるんですか?
中嶋 挫折はないです。というより、そもそも「サッカーだけに賭けてる!」ってタイプではないから、折れることがなかったのかも。勉強もできなかったし、得意なものがサッカーしかなかったから続けていたら......気がついたら今(笑)。うまくいかなくても考え込まないんです。楽しくやらないと!って思うからイヤにならない。
【止まらなければ取られないと思う(笑)】
中嶋を変えたというアジア大会の結果は、今、パリ五輪アジア最終予選に臨むなでしこジャパンにとって重要なカギとなっている。このアジア大会決勝で相まみえたのが最終予選の相手である北朝鮮なのだ。
中嶋の先制ゴールを皮切りに4ゴールを奪取し、日本はタイトルを獲得している。北朝鮮が最終予選の相手になることなど、この時はまだ知る由もなかった。ただ印象に残っているのは、この試合で中嶋が北朝鮮選手たちに対して見せていた余裕のあるマッチアップの数々だ。
――アジア大会決勝は、北朝鮮に対して、かなり余裕を持ってプレーしていましたよね?
中嶋 選択肢を減らされる感覚というのはなかったですね。あの時は今回の最終予選で一緒に選ばれている(上野)真実、(千葉)玲海菜、(古賀)塔子、(谷川)萌々子がいたんです。あのアジア大会が相手のベストメンバーかどうかはわかりませんが、みんな苦手意識はないと思います。
中盤は対人が強くてフィジカル勝負にくるイメージ。攻撃的で上がってくるんですけど、割と守備陣との間が間延びしてる時もあるし、DFラインが高めだったので裏のスペースは狙っていけると思うんですよね。
――相手は中嶋選手にしてやられてますから、かなりケアしてくるでしょうね。
中嶋 その辺りは今シーズン、WEリーグで経験済です(苦笑)。当然3年目にもなれば、(突破の先に相手が)蓋をしにくることは想定内で、いろいろ模索してみたんです。結局......封じられてもスピードを落とさずに、自分で強気にいくのが大事なんじゃないかと行きつきました。
たぶん止まらなければ取られないと思う(笑)。もちろん、相手との距離感を見ながらですけど、絶対勝てると信じてスピードを落とさずにいきたい!
――その吹っきれた考えがあったんですね。ケアされ始めた当初、相手を食いつかせようとしたりしてませんでした?
中嶋 見られてたか(笑)。そうなんです、そこで考えすぎて止まっちゃう。今は、ガツガツいったほうが自分のよさは出るのかなって思っています。
――そうなってくると必要になってくるのが、スタミナ。そこは"任せろ!"って感じですか?
中嶋 任せろ!ってタイプではないんですよね......申し訳ない(苦笑)。ないわけじゃないですよ。でもめっちゃあるかと聞かれるとそうでもない(笑)。
【長谷川唯さんは横にいてくれると頼もしい】
――今、何か自分に能力をもらえるとしたら何を選びますか?
中嶋 ドリブル!(即答)
――まだまだ極めたいということですか?
中嶋 いや、自分はすごくドリブルがうまいわけじゃないんですよね。だから......あ、でも変えます(笑)。守備力? いやシュート力かな? 正直、今どっちに力を入れればいいかわからないんです。
起用のされ方でも変わってくるじゃないですか。誰にも負けないように攻撃を強くするか、守備がうまくなるか。どっちがいいんだろう?
――パリ五輪を目指す時、どんなプレーでそこにいたいのかという考え方もありますよね。
中嶋 そこなんですよね......切り札とか流れを変えるとかを求められているのなら、シュート力を選びます。だけど、どのみち必ずやらないといけない部分だから、やっぱり守備にします。そしてここは試合に出て学ぶしかない!
――学ぶと言えば......代表のなかで、この人に学んでる! という選手はいますか?
中嶋 すごいなって思ったのは(長谷川)唯さん。いや〜うまい! 一回こっちが裏で要求してもギリギリでやめてくれるとか、最後までこっちの状況を見てボールを出してくれるんです。横にいてくれると頼もしい。時々あり得ない角度でパスが飛んでくる時があって、そういう時は「フゥ〜!」ってテンションが上がります(笑)。
――中嶋選手がテンションを上げるというその流れからのゴール、期待していいですか?
中嶋 え......ま、任せてください!
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最後は少し棒読み感が色濃かった中嶋。決して自信を前面に押し出して任せろなどと言うタイプではないのだ。
最初は"なでしこジャパン"としてプレーすることが怖かったという。初めて組む選手、初めてのシステム、初めてのスピード、苦手な初モノづくし。それでも何度もそのサッカーに触れているうちに、なでしこジャパンとして戦うことは彼女にとって楽しいものに変わってきている。
まだオリンピックってピンとこない、としながらも北朝鮮とのアジア最終予選に向けては力強く「点を獲りにいく!」と断言した。
少しずつでいい。その扉を開いていけば、巧みなステップで相手をかわしてスピードを上げながらゴールへ向かう、中嶋の目指すプレーが覚醒するのではないだろうか。
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中嶋淑乃
なかしま・よしの/1999年7月27日生まれ。熊本県出身。東海大学付属熊本星翔高校から2018年にオルカ鴨川FCへ入団。2020年にはなでしこリーグ2部の得点王を獲得。2021年にサンフレッチェ広島レジーナへ移籍し、今季3シーズン目をプレーしている。2022年にE-1サッカー選手権を戦うなでしこジャパンに選出され、代表デビュー。2023年のアジア大会では決勝で先制点を挙げるなど、日本の優勝に貢献した。