“日常系BL”のドラマ化が加速、社会の変化で作品性に変化も…男性同士の恋愛でバレンタインはどう描かれた?

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2024年02月27日 08:40  ORICON NEWS

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変わる世の中、BL作品でバレンタインの立ち位置は?
 義理チョコ文化が廃れるなどの変化がありつつも、今年も盛り上がったバレンタインデー。日本では長らく「女性が男性に思いを伝える」イベントとして機能してきたが、昨今は自分チョコ、友チョコ、推しチョコなど多様な楽しみ方がされている。ただ、やはり「女性のイベント」という印象は変らず、男性同士のチョコ交換はあまり聞かない。一時期はそれが、“ホモチョコ”と揶揄されたこともあったそうだ。世間の多様性容認の流れは加速しており、エンタメ界でも男性同士の恋愛を描くBL(ボーイズラブ)作品が市民権を得つつある。だが、身近な実生活としてはどうだろうか? 現代のBLにおけるバレンタインの描かれ方から、流れを読み解く。

【漫画】「時代は変ったわねぇ…」BLで描かれるバレンタイン、意外な現状

■地上波ドラマにBL作品が続々、一つの人気ジャンルに「これほど一般的に支持されるとは」

 多様性の時代と言えど、バレンタイン=女性のイベントという風潮は今なお根強い。チョコレート売場には女性が長蛇の列をなしていたが、男性の姿はやはり少ない。自分チョコや異性のパートナーに贈ることはあっても、男性が男性にチョコを贈る(それが恋愛関係でも友人関係でも)ことは、いまだはばかられることなのだろう。

 その一方で、エンタメ界では男性同士の恋愛、いわゆるBLは飛躍的に市民権を得つつある。中でも顕著なのが地上波ドラマで、今期は『おっさんずラブ リターンズ』、『BLドラマの主演になりました』(ともにテレビ朝日系)が放送中。ほかにも、『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(フジテレビ系)など、BL要素が含まれた作品も。過去には、『きのう何食べた?』、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(ともにテレビ東京)、『体感予報』(MBS)などがヒットしており、もはやBLはマニアだけのものではなくなった。

 BLカルチャーを牽引してきたのがマンガで、昨今はBLマンガを原作としたメディアミックスも数多い。早い段階からBL作品に注力してきた『コミックシーモア』のオリジナルコミックを制作しているソルマーレ編集部にて、BLコミックを編集している岩崎良子(※崎はたつざき)さんは、「BLがこれほどまでに一般的に支持されるとは想像もしませんでした」と実感を語る。

 「ここ3〜4年は特に20代の新規読者が増え、コロナ禍にはBL作品の広告ヒットも目立ちました。かつては絵柄などに惹かれて広告をクリックしても、男性同士の恋愛だとわかると離脱されることも多かったのですが、今はそのまま購入される傾向にあります。ドラマがBL受容の素地となったところは大きいと思います」

 BLは日本で生まれたカルチャーで、今やファンは世界中に存在する。とはいえ、マンガの中でも特殊なジャンルとして、一部の濃いマニア層に支えられてきたのも事実だ。

 「たしかにBLといえば、ハードな性描写や耽美な世界観という先入観もかつては根強くあったかと思います。しかし昨今は、一般ジャンルと同じくヒューマンストーリーやラブコメ、家族愛を描いた作品もきちんと支持されています。いわば、少女マンガの延長でBLを楽しまれる方が増えているのだと思います」

 こうした読者層の変化は、BLの作品性にも影響を与えているようだ。

 「ひと昔前までのBLはバッドエンド、メリーバッドエンドといった作品が多数あり人気を博したのですが、現在はむしろ溺愛ものや多幸感に溢れたハッピーエンドが好まれる傾向。このトレンドは少女マンガとも共通しています。さらに、BL発祥のオメガバースやDom/Subユニバースといった特殊設定が少女マンガやTL(ティーンズラブ)にも登場するなど、ジャンル同士が影響し合ってマンガ業界を盛り上げてくれているのを感じます」

 いわゆる“エロなしBL”が増えているのも、地上波ドラマ原作に重宝される要因と言えるだろう。

 「BL作品にはファンタジーも多いですが、ドラマ化されるのは日常系が多いですね。ごく当たり前の日常で繰り広げられる恋愛模様だから、“ザ・BL”という先入観なしに楽しむことができる上に、男性同士という葛藤要素が加わることでより切なさを描けるのがBL原作の魅力だと思います」

 昨今は『光が死んだ夏』(このマンガがすごい!2023オトコ編1位)や『消えた初恋』(このマンガがすごい!2021オンナ編9位)など、BLではない一般レーベルでも男性同士の恋愛をテーマにした作品が増えている。

 「『BLコーナーに置くと読者層が限られる』といった販売戦略から、一般レーベルで出されるケースもあると思います。ただこうした作品が高く評価されていることからも、良作であれば恋愛のジェンダーにはこだわらない読者は確実に増えています」

 日常で繰り広げられる恋愛ストーリーを描く上で、バレンタインは重要なイベントであり、特に少女マンガでは片思いの相手にチョコを渡して告白するシーンは定番の1つ。では少女マンガファンに支持され、裾野を広げつつあるBL作品において、バレンタインはどのように描かれているのか。

 「バレンタインはBLでも登場しますが、恋人同士が思いを深め合うカップルイベントとして描かれることが多いですね。あるいは、男性の魅力を表現するイベントとして描かれることも。弊社BLレーベル<Ficus>作品の『バットエンドじゃ終われない』では、主人公の想い人が女性からたくさん贈り物をもらう描写で、彼のモテ度を表していました。少女マンガのように“チョコを渡して告白”というシーンは、たとえBLがフィクションでもリアリティを表現できないのか、作家さんも描くのをためらうのかもしれません」

 同レーベル作品の『もっと!僕をダメにする38歳。』では、主人公の回想で「男が男にチョコなんてキモい」と拒否されるシーンが描かれており、やはりバレンタイン=女性のイベントを脱しきれていない描写も出てくる。いかに多様性が叫ばれても、男女の恋愛にはない葛藤や切なさが避けられないのはBLの宿命か…。だが、同作の現在のシーンでは、主人公が男性にあげるチョコを手作りするのを寮母が応援し、『時代は変ったわねぇ』と発言する場面も登場。少しずつ、変化は起こっているのだろうか。

 「たしかに、一昔前ほど“葛藤”が重く描かれることは少なくなりました。やはり著名人のカミングアウトや、社会の変化も影響しているのでしょう。昨今は、家族に同性の恋人を紹介するシーンもよく描かれます。また、現代の日本より少しだけ未来を舞台に、男性同士のウェディングや夫夫(ふうふ)の日常を描く作品も増えています」

■『きのう何食べた?』で同性同士の“葛藤”知った人も、良質な作品でよりよい社会に…「BL業界すべての願い」

 あえて未来を舞台とするのは、周知のとおり日本ではまだ同性婚が認められていないから。多様性が叫ばれながら、たびたび政治家のLGBTQ+差別発言も問題となる。そうした現実の一歩先を描くエンタメが、社会にインパクトを与えることはあるだろうか。

 「もちろんBLはフィクションであり、リアルな同性同士の恋愛事情とは違うことは理解しています。それでもなお、互いを思い合う同性同士の存在を知ることは受容の大きな一歩だと思います。中でも幅広いファンをつかんでいる『きのう何食べた?』のシロさん・ケンジさんの葛藤に触れて、同性婚の実現を応援するようになった方は多いと聞きます。作品が好きになれば好きになるほど、登場人物たちに幸せになってほしいと思うのがファン心理。良質な作品を届けることでよりよい社会に進んでいってほしいというのは、BL業界すべての願いですね」

 BLファンの多くは女性、つまり主人公たちとは異なる立場だ。少数者が生きづらい社会を変えるのは、そうした非当事者1人1人の小さな願いかもしれない。BL作品は確実に、性的指向に捉われず誰もが幸せを追求できる社会を実現する穏やかなメッセージになっているはず。いずれ、BL作品でのバレンタインデーの描かれ方は変わっていき、世の2月14日を変化させていくかもしれない。

(文:児玉澄子)

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