フリーランスになって初めての「確定申告」 やってみて分かった“意外”な落とし穴(後編)

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2024年02月28日 14:21  ITmedia NEWS

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2023年夏に、勤め先であったアイティメディア社を退職してフリーランスとなった筆者。面倒な確定申告を、いかに手間なく簡単に、かつお得になるようにやってみたという趣旨のもと、SaaSを存分に活用した実体験をお届けしたい。


【詳細はこちら】フリーランスになって初めての確定申告となったが……(画像13枚)


●マネーフォワードMEのデータを連携が便利


 前半はfreee開業で開業届と青色申告承認申請書を提出、Misocaで請求書を作成発行した。では確定申告の本丸である、複式簿記を使った貸借対照表と損益計算書はどうやって作るかというと、今回は「マネーフォワードクラウド確定申告」を選んだ。


 こちらもSaaS型の確定申告ソフトだ。経費と売り上げデータからいわゆる仕訳を作成し、それを元に青色申告決算書および確定申告書を作成できる。事業所得を申告できる無料プランはないので、月額1408円の最小限プランを選択した。最低1カ月間の利用で書類作成も電子申告も行える。


 さてマネーフォワードクラウド確定申告を選択した最大の理由は、家計簿ソフト「マネーフォワードME」との連携だ。筆者は日常的にマネーフォワードMEを使い、クレジットカードの明細や銀行口座の情報を取り込んでいる。これらの入出金履歴から、事業で使ったものに「確定申告」チェックを付けておくと、そのデータをまとめて取り込んで決算書を作成できる機能があるのだ。


 日常的に家計簿としてマネーフォワードMEを使っている中で、「これは事業でかかった経費だな」と思ったら確定申告マークをチェック。これをやっておくだけで、決算用の売り上げや経費の入力がほぼ終わってしまう。素晴らしく便利だということで、今回の確定申告にはマネーフォワードクラウド確定申告を選んだ。


 ちなみにマネーフォワードMEは有料プランでなくてもこの機能を利用できるが、無料プランの場合、1年以上前のデータは閲覧や操作ができない。つまり確定申告で利用しようとしたら、今だと2023年1月分の情報は扱えないわけで、基本的に有料プランに加入している前提となる。


 「あれ? 同じようなことはfreeeや弥生の会計ソフトでもできるんじゃないか?」と思った人もいると思う。その通り、他SaaSでも銀行やクレジットカードを連携してデータを取り込むことができる。それに対してマネーフォワードMEを使う利点は、普段使っている家計簿データと一体化していて、わざわざ会計ソフトを触らないで済むということが一つ。そしてもう一つは対応する金融機関の数の多さだ。


 例えばfreeeは楽天銀行とのデータ連携を、22年2月から23年12月まで停止していた。両者の条件が折り合わなかったということだが、ユーザーからすると困ったことだ。その点、マネーフォワードは安定して連携を継続している。


 今回大きな問題だったのが交通系ICへの対応だ。筆者は現在モバイルPASMOを利用しているのだが、なんとfreeeはモバイルPASMOの取り込みに対応していない。モバイルSuicaだけなのだ。翌年分からモバイルSuicaを利用するようにすればfreeeでもよかったのかもしれないが、23年分はもうどうしようもない。ライター業務の経費のほとんどは実は交通費だ。これをいちいち入力することを考えると、取り込みに対応しているSaaSでないとやっていられない。


●マネーフォワード クラウド確定申告で何をするのか


 では実際にマネーフォワードクラウド確定申告での作業を見ていこう。ログインすると、トップページに「2023年度確定申告」のボタンがある。ここを押して、上から順番に入力していけば決算書と確定申告書が作成され、電子申告も完了するという流れだ。


 いくつか紛らわしいところがあったので解説していきたい。まず「提出方法」について、「スマホアプリで提出(電子申告)」「e-Taxで電子申告」「窓口・郵送で提出」の3種類が選べるが、これはスマホアプリでもe-Taxでも、青色申告の65万円控除の対象になる。e-Tax=電子申告なのだが、用語が紛らわしい。


 続いてややこしいのが「電子帳簿保存法に関する設定」だ。「仕訳履歴保存」と「スキャナ保存」にチェックを入れることができる。画面のヘルプを読んでもどうしたらいいのか分からず途方にくれるが、結論からいうとこれはどちらもチェックなしでOKだ。


 65万円控除を受けるための条件は「電子申告または優良な電子帳簿保存」となっている。この「優良な電子帳簿保存」のためには「仕訳履歴保存」や「スキャナ保存」などが必要になるのだが、電子申告をするだけでもOKなのだ。


 電子帳簿保存法の改正は、発表当時は事務作業の煩雑さに波紋を呼んだが、2年間の猶予期間を経て、個人事業主レベルならばほとんど気にする必要がない内容に落ち着いた。気にする必要があるのは、電子データは電子データのまま取っておくということくらいだ。


 さて、初期設定が終わったら経費や収入の登録だ。ここでマネーフォワードMEから情報を取り込む。あらかじめチェックしてある項目が、これで自動的に取り込まれる。いやはや楽ちんだ。


 データ連携が終わったら、ほとんどの経費や売り上げは登録が終わっているが、現金で支払ったものなどがあれば手作業で入力する。これは「手動で仕訳」ー「簡単入力」を選び、出てきた入力欄に情報を入れていく。必須項目は、日付と取引内容、金額。取引先欄に、支払った相手や受け取った取引先を入力してもいいけど、実務的には摘要欄に書いておけばいいようだ。取引内容は、あまり詳細にいれる必要もなく、出てきた選択肢から選ぶ。


 マネーフォワードMEから取り込んだり、手動で入力した情報は「会計帳簿」ー「仕訳帳」を選ぶと一覧表示される。こちらが何も入力しなくても、借方には「旅費交通費」などと記入され、貸方には「事業主借」と入って、ちゃんと複式簿記の形になっている。これがポイントだ。


●厄介な源泉税対応


 売り上げと経費を仕訳登録して、これで決算書作成に進めるかと思ったら、まだやることがある。源泉所得税対応だ。Misocaの項目で少し振れたが、「原稿料、講演料、デザイン料」「士業の報酬」「プロの運動選手、モデル、外交員」「芸能人」「コンパニオン、ホステス」といった業種のフリーランスは、報酬から税金が源泉徴収されて振り込まれる。


 ところが銀行口座の明細からは入金された金額しか分からないので、マネーフォワード クラウド確定申告にも、入金された金額が「売り上げ」として登録されている。これを修正しなくてはならない。先の仕訳一覧を開いて売り上げの項目を編集し、借方に事業主貸を追加して源泉所得税を入力。貸方には売上高の項目を追加して同じ金額を入力する。やっと複式簿記っぽいことをやったのだが、いやはや計算が面倒くさい。


 源泉所得税は、原稿料に消費税を乗せて、その10.21%で計算できる。それを引いた額が入金されるので、逆算すれば入金額に0.9167559を掛けた数字が源泉税になるはずだけど、税金の計算は小数点以下切り捨てのルールなので、やっぱりワンステップずつ計算したほうが安全だ。さらに会社によっては、消費税を乗せる前の原稿料の10.21%を源泉所得税としているところもあって(法令上は請求書に消費税が分けて記載されていればこれでもいいようだ)、複雑極まりない。


 これをマネーフォワードクラウド確定申告で自動入力できるようにしてくれないのか? とも思ったが、やっぱりライター業の税金計算はちょっと特殊なのだろう。


 実はもう1つ、入力が必要なものがある。家賃やインターネット回線代のような費用だ。自宅で作業している場合、こうした費用は生活費と入り交じっているので、「家事按分」という形で分配を行う。例えば、仕事部屋の面積が全体の20%だから家賃の20%を個人事業の経費に、といった具合だ。


 マネーフォワードクラウド確定申告の場合、「決算・申告」ー「家事按分」を選ぶと、特定の費目(勘定科目)の事業利用比率を一律で設定できる。つまり、家賃とか光回線代とかをまとめて読み込んでおいて、この家事按分を設定し、最後に仕訳ボタンを押せば、自動的にその比率に合わせて仕訳が調整される。


 マネーフォワードMEで、家賃とか通信費とかに確定申告のチェックをつけておいてマネーフォワードクラウド確定申告に読み込み、最後に家事按分でまとめて比率を設定すれば、計算も勝手にやってくれるのでこれは便利だ。


●決算書を作成する


 さてようやく仕訳の入力が終わった。といっても、ほとんどは初めて使うマネーフォワードクラウド確定申告の操作に慣れるのにかかった時間で、データ入力自体は30分もかかっていない。源泉所得税だけは手作業で修正が必要だったけど、ほとんどのデータはマネーフォワードMEから読み込んで終わりだった。


 最後にこれらの仕訳から決算書を作成する。「決算・申告」ー「決算書」を選ぶと、貸借対照表と損益計算書が表示される。複式簿記を使った決算書の作成は大変だと聞いていたけど、驚くほど簡単に作成することができた。


 もっともライター業というのは、仕入れもないし在庫もないし固定資産もない。PCは10万円を超えるので固定資産になると思う人もいるかもしれないけど、青色申告に伴う特典として30万円未満の資産なら減価償却不要で一括で経費にできる「一括償却資産の特例」もある。運転資金も必要なく、つまり借入も不要だ。そもそもバランスシートに載る要素がほとんどないのである。さらにマネーフォワードMEから読み込んだ仕訳は、基本的に「事業主借」と「事業主貸」でできていて、これがさらに貸借対照表をシンプルにしている。


 貸借対照表と損益計算書ができたら、最後に青色申告決算書を作成する。ガイドに従い、必要な項目を埋めていく。迷った項目は「売上(収入)金額」くらい。これは、仕訳から自動的に作成されるわけではなく、別途手動で入力しなくてはならない。とはいっても、4件までしか登録できないので、2月上旬に各取引先から送られてくる支払調書の内容を上位4社分書き写すだけだ。


 これで青色申告決算書の完成だ。この決算書の内容を事業収入として、あとはこれまで通りの確定申告書を作成して電子申告すればいい。マネーフォワードクラウド確定申告で、それぞれの項目を入力すれば確定申告書(第一表〜第四表)も出来上がる。


●あとは電子申告するだけ……のハズが


 ここまで、次のステップで書類を用意してきた。


1. マネーフォワードMEで、事業関連の売上や経費にチェックを入れる


2. マネーフォワードクラウド確定申告で読み込む


3. 源泉所得税のある売上の仕訳を調整する


4. 自宅家賃や通信費など家事按分を設定する


5. 貸借対照表と損益計算書が完成。青色申告決算書も完成


6. 確定申告書を作成


7. 電子申告


 確定申告書の作成自体は毎年やっているので、あとは簡単……。と気を抜いたところで落とし穴があった。マネーフォワードクラウド確定申告の確定申告は、フル機能ではないのだ。


 例えば、医療費控除については2024年からやっと、国税庁が提供している内訳Excelファイルの入力に対応するようになった。またふるさと納税のXMLファイル読み込みなどもOKだ。ただ、ちょっとマニアックな項目については対応していない。


 例えば、副業やクラウドファンディングなどの収支を記入する「収支内訳書(雑所得申告用)」とか、「暗号資産の計算書」、米国株式からの配当の二重課税を取り戻す「外国税額控除に関する明細書」などは非対応だ。これらは個別に計算して転記すればいいのだが、フォームに入力すれば明細書を作ってくれる国税庁の確定申告アプリのほうが機能は上だ。


 さらに上場株式の譲渡損失の繰越控除も面倒だ。これは株取引で損失が出た場合、3年間繰り越せるというもの。国税庁のアプリなら、前年データを読み込ませれば自動的に引き継いでくれるが、マネーフォワードクラウド確定申告の場合は手動で転記しなくてはならない。これは機能不足というよりも、最初に使ったアプリにロックインされたともいえる。


 そんなわけで、マネーフォワードクラウド確定申告では青色申告決算書まで作成して、これを国税庁のアプリに読み込んで、確定申告と電子申告は従来通り国税庁アプリで行おうと思ったところ、落とし穴があった。作成データはベンダーごとに独自で、マネーフォワードクラウド確定申告のデータは国税庁のアプリで読み込めないというのだ。


●青色申告決算書を国税庁のアプリに手入力で転記する


 「国税庁アプリを使いたい場合は、作成した青色決算申告書を転記するのが一番簡単」だと教えてくれたのは、マネーフォワードが開催した確定申告のユーザー会で講師を勤めた高橋和也税理士だ。


 つまり全てマネーフォワードクラウド確定申告で完了させるか、マネーフォワードで作ったデータを国税庁アプリに転記して、国税庁アプリで青色決算書+所得税の確定申告も終わらせるかの二択ということになる(インストール版のe-Taxソフトを使えば別の方法もあるようだけれど、Macには対応していないので選択肢には入らなかった)。


 ちょっと迷ったが、国税庁アプリにマネーフォワードで作った決算書を転記してみることにした。これがあまりに面倒なら、全部マネーフォワードクラウド確定申告でやってみようというもくろみだ。結論からいうと、転記はとっても簡単だった。


 青色申告決算書は、損益計算書、月別売上金額および仕入れ金額、売上・仕入れ明細と減価償却費、貸借対照表の合計4枚でできている。この数字を国税庁アプリに入力していけば、10分もかからずに完了した。国税庁アプリは仕訳を入力して決算書を作る機能は持っていないので、結局のところ何らか会計ソフトのお世話になるほうが簡単だということだ。


 ここまでくれば、あとは例年通り、個人の確定申告を行うだけ。幸いなことに筆者は零細なため消費税の免税事業者であり、面倒なインボイス制度の対応も消費税の申告書作成も必要ない。これでやっと、令和5年分の確定申告が終わる。


 振り返ると、マネーフォワードMEからデータを読み込んで仕訳を作成し、そこから決算書を出力するまでは非常にスピーディーだった。マネーフォワードクラウド確定申告があまりに多機能なので、どこに何の機能があるのかを把握するのに時間がかかってしまったが、全体像がつかめてからはパッパと完了した。次回はおそらく30分程度で完了するだろう。


 国税庁のアプリへの転記も30分かかっていない。ただすでにデジタルデータなのに、お互いのフォーマットが異なるせいで手で入力しなおさなければいけないのは前時代的だ。マネーフォワードクラウド確定申告がフル機能に対応して、かつ国税庁アプリの前年データを引き継げるならそれでもいいのだが、現在のところ手作業で再入力するのが最も簡単そうだ。


 複式簿記を使った決算書の作成と聞くと、なにやらとても難しそうに感じるが、最新のSaaSを活用すればほんの数時間で作業が完了するのは新鮮な驚きだ。一方で、複数のサービスを連携して使おうとするとさまざまなハードルがあることも実感した。この分野の機能開発のスピードは著しいので、25年はもっと簡単になっていることを楽しみにしている。


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