『ハイキュー!!』日向翔陽役・村瀬 歩が明かす役へのアプローチ法と、初めて現場で会って「怖いなぁ...」と思った先輩声優

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2024年03月01日 10:21  webスポルティーバ

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『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』公開記念

日向翔陽役・村瀬 歩さんインタビュー 前編

 2月16日に封切られた映画『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』。作品の中で屈指の因縁を持つ烏野高校と音駒高校が「春の高校バレー」で激突し、"負けたら即ゲームオーバーの試合"を繰り広げる模様が描かれる。

 映画公開を記念し、作品の主人公、日向翔陽の声を担当する声優の村瀬 歩さんにインタビューを実施。前編ではテレビアニメ『ハイキュー!!』初期の頃に経験したレコーディング時の苦労や裏話、尊敬する先輩から学んだことなどを明かした。

【日向役に苦しんでいた時期を支えた音響監督の言葉】

――あらためて、日向役が決まった頃のことを振り返っていただけますか?

村瀬 オーディションの時は声は裏返るし、セリフもまったくうまく言えなかったので手応えはありませんでした。「ダメだろうな......」と思っていたら、合格の連絡がきたのでビックリしましたね。

 日向は運動神経はいいけど、バレーボールに対する素地がないところからストーリーが始まります。あくまで個人的な予想ですが、そういった点で僕の未熟さがマッチしたから選んでいただけたのかもしれません。

――『ハイキュー!!』の収録に臨む際の、ルーティンのようなものはありますか?

村瀬 僕は日向のような、元気があるキャラクターを演じることがほとんどなくて。どちらかというと落ち着きがあり、頭を働かせて悪いことをするキャラクターが多いんですよ(笑)。なので、毎回新鮮な気持ちになります。

 日向は運動神経がよくて明るいキャラクターですが、普段の僕がまったく逆なので、収録の2カ月ほど前から体を動かすようにしています。筋トレは苦手なので、軽く走ったり、腹筋やスクワットをしたり。そうすることで、少しでもスポーツに夢中になっている人が発する声に近づけたらと思っています。

――そうしたアプローチをしようと思ったきっかけは?

村瀬 テレビアニメ『ハイキュー!!』のオーディション時に、「おれにトス、持ってこい‼」という大事なセリフが裏返ってしまって。それで練習していた際に、音響監督の菊田浩巳さんから「そこは裏返らないでできるといいね」と言っていただいて、「頑張ります」と意気込んだのですが......結局はうまくできませんでした。

 その後も、テレビアニメ『ハイキュー!!』の映像が先行で放映されることになり、その1、2カ月前に「持ってこーい!!」という声を入れる収録があったんですが、そのひと言だけで50テイクほどかかってしまいました。それが終わった後に、菊田さんから「あなたの声は暗く、冷たく聞こえる。自分が思っている以上に、もっともっとエネルギーを出していかないと、日向みたいなキャラクターに声が乗らないよ」と指摘されました。本当にありがたい言葉でしたね。

 僕の声質は、迫力は出やすいけど、日向のような明るくてワクワクしている感じは相当意識しなければ出ない。「日向に自分の熱量が追いついていない」と感じて、事前に体を動かすなどのアプローチをするようになったんです。

――そのギャップが埋まったのはいつ頃ですか?

村瀬 自分の中では、埋まっているのかはわかりません。日向という存在に少しでも近づけるよう常に意識して演じていますが、いまだに声がマッチしているのか不安になることもあります。アニメだと周りの声優さんの声に反応して、「あ、日向はこんな感じだ」と掴むことができるんですけど、ゲームやCMのナレーションなど単体で声を収録する時は「日向って、これでいいんだっけ......」と見失いそうになることもありますね。

【先輩声優に見た、作品を「引っ張る」覚悟】

――自ら演じる日向のリスペクトできる部分は?

村瀬 "超"がつくほどのストイックで、自分が成長するためならとことんやる行動力もすごい。プライドも持っているでしょうが、悪いプライドではなくて、自分がやりたいこと、できないことへの悔しさが元になっているのを感じます。僕も演じることが好きですけど、彼の「好き」の域には到達していないと思いますし、「まだまだ自分は甘いな」と痛感します。

――同じ作品に関わる声優さんたちと長く一緒に演じるうちに、互いの距離感が変わることもあるんでしょうか? 

村瀬 これは以前にも話していることなのですが、(烏野のセッターである)影山飛雄役の石川界人くんとは、当初まったくそりが合わなくて(笑)。作品中の日向と影山のように、「この人が相方なの?」と思っていた時期がありました。もちろん今では頼れる存在ですし、本当にいい相棒。お互いにリスペクトしています。

 当時の僕はまだキャリアが浅く、演じる役の視点で相手を見てしまっていた部分があったんでしょう。今は芸歴も15年近くになるので、そうなることはありません。(音駒のセッター・)孤爪研磨役の梶 裕貴さんとも、ここ3、4年で共演させていただく機会も増えましたし、いつもフラットに雑談する間柄です。梶さんは本当に優しくて、「いいお兄さん」という感じですね。

――今作では日向と孤爪、烏野と音駒といったように、「興味と尊敬を抱く相手」が描かれます。村瀬さんにも、そうした存在はいらっしゃいますか?

村瀬 たくさんいますが、中でも『ハイキュー!!』で烏野のキャプテン・澤村大地を演じている日野 聡さんを尊敬しています。

 約10年前、初めて『ハイキュー!!』の現場でお会いした時の日野さんは今の僕と同じくらいの年齢(35歳)だったのですが、現場のど真ん中で、腕を組んでイスに座っていて。声も低いし、「怖いなぁ......」という印象だったんです。

そうして第1期の収録が終わって、第2期に入ると日野さんの雰囲気もだんだんと柔らかくなり、よく話すようにもなりました。その数年後に別の作品の現場で一緒になった時、日野さんのキャラがまるで違ったんです。いろんな人たちと気さくに話しているし、イジったりもしていた。だから聞いてみたんですよ。「『ハイキュー!!』の現場では、いつもとは違う立ち振る舞いを意識していたんですか?」って。

――日野さんはどう答えたんですか?

村瀬 「俺は(澤村大地という)キャプテンの役を任されて、一番先頭にいなければいけない。それに、日向と影山を担当する声優がまだ若手だったから、2人を引っ張っていくためにも、『自分が先輩たちの背中を見て育ったように、俺の背中を見せられるように頑張らないと』と意識していたんだ」とおっしゃっていました。

 現場を引き締めるためとはいえ近寄りがたい雰囲気を自ら作るのは、普通は怖いじゃないですか。嫌われたくないし、僕もどちらかというと、みんなと笑顔でやっていきたい性分なので。でも、その時の日野さんが、そういった形で作品作りへのリスペクトを示してくれたことは、僕の財産になっています。

 僕は『ハイキュー‼』の収録が始まった頃、全然うまくできなくて、夜遅くまで居残りすることもありました。ただ、それでも日野さんは、最後までつき合ってくれた。最初は「怖いお兄さんが後ろにいる......」などと思っていましたが、自分が困った時や悩んでいる時に、「これはどういう意図でやっているの?」「どんな思いでやっているの?」と声をかけてくださった。自分の頭で考える訓練もしてくれたんです。

【学んだことを、さらなる後輩へ】

――その背中を見て、村瀬さんも成長していったんですね。

村瀬 そうですね。3、4年ほど前にあった別の作品の収録で、日野さんと同じ事務所の後輩と仕事をする機会があったんです。その現場が『ハイキュー!!』を収録していたスタジオで、しかもその後輩は、若手の"日向"未南さん。不思議な縁を感じていた時に、日野さんから「うちの日向がお世話になります。今度は歩が後輩たちの面倒を見てほしい。今の歩だったら託せるから」というメッセージがきて......心のダムが決壊しました。

 もちろん日野さんは芝居がとても上手なんですが、後輩の芝居に手を加えることはしません。自分が先輩から教わったことや、これまで培ってきたものを伝えて、あとはその人に考えてもらうというタイプ。だから僕も、若手の日向さんにとってそんな存在になろうと、「僕はこう考えていたよ」という姿勢で接していました。

――そうして学んだことは受け継がれていくのですね。村瀬さんは完成した作品を、それに携わったひとりとしてどのように見ているのでしょうか。

村瀬 声優になりたての頃は、自分の声を聞きながら「こういうふうに聞こえるんだ」と思っていました。でも今では、映像の色使いや使用されているBGM、空間設計や監督の演出などにも注目しています。作品はひとりだけの力ではできません。ひとつの部分が際立ってよくても悪くてもいい作品にはならないので、全体を見るようになりました。

 その感覚はバレーにも似ているかもしれませんが、絵画のほうがより近いかもしれません。例えば、全体として統一したい色合いの中で、対比する色や差し色がうまく入っていると、より作品に深みが出ますよね。アニメ作品における声優の声も同じで、「この場面に合った声はこれだ」と思っていても、2、3テイクかかってしまうのは監督が欲しかった声ではなかったからということ。

 それを、完成した映像やオンエアを見る時にチェックしています。自分が狙った意図どおりになっていたら「やった!!」と思いますし、他の声優さんたちの芝居も気にして見ていますね。今回の『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』も、それを確認しながら完成品を見ていました。

(後編:「古舘春一さん、すごすぎない⁉」と思いながら演じたセリフとは?>>)

【プロフィール】
村瀬 歩(むらせ・あゆむ)

1988年生まれ。米ロサンゼルス出身。大学生の頃に声優を志し、日本ナレーション演技研究所に入所。2011年にテレビアニメ『Persona4 the ANIMATION』で声優デビューを果たす。TVアニメ『新世界より』の青沼瞬役で初めてメインキャラクターの声を担当し、2014年に『ハイキュー!!』の日向翔陽役で初主演を務める。同年の『怪盗ジョーカー』でも主人公ジョーカーの声を担当するなど、その後もさまざまな話題作に出演。2016年には、第10回声優アワードで新人男優賞を受賞した。

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