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2023年初頭から、ドコモの通信品質の低下が指摘されてきた。都市部を中心にデータ通信の速度が低下する「パケ詰まり」と呼ばれる現象が起こり、つながりにくいという声がSNSなどで目立っていた。
【写真で見る】ドコモいわくネットワーク品質は大幅に改善したというが……
それに対しドコモは、まず4月のメディア向け説明会で、夏までに対策すると発表。7月下旬には、特につながりにくい状況だった都内4エリア(新宿・渋谷・池袋・新橋)の通信品質改善状況を公表した。その際に引き続き全国エリアで品質向上の取り組みを実施するとしていた。
10月10日には再び記者説明会を開催し、ネットワーク本部長 常務執行役員の小林宏氏が具体的な改善策を説明。対策が必要となるエリアを予測し、駅、繁華街、住宅街など全国2000カ所以上の「点」での対策と、人の移動が多い鉄道動線でも快適に利用できるよう「線」での対策を集中的に行うとした。この集中対策には300億円を先行投資し、12月までに90%以上終了させるとしていた。
そして24年に入り、2月の決算会見で10月に説明したネットワーク改善の集中対策が計画通り完了し、通信品質が大きく改善したと報告した。改善箇所については下りのスループットが1.7倍になり、最繁時間帯でもドコモが規定している品質水準を上回っているという。
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東京都内のほか、JR大阪駅、JR名古屋駅でもスループットが向上。また、主な鉄道動線に対して既存の基地局を活用した対策も完了し、乗車時間の90%で快適に動画を視聴できるようになっているという。
アプリを利用した体感品質の把握も開始した。10月に行われた記者説明会では、SNSの情報に対してドコモのLLM基盤を活用することで品質が低下している場所を特定する方法が説明されたが、加えてd払いアプリや動画視聴アプリ、Webアプリを活用して体感品質を把握するという。d払いアプリを活用した調査は1月から実施されているそうだ。
SNSを分析すると、X(旧Twitter)での通信品質に関するネガティブな投稿は、3月時点から約75%減少。イベント対策も強化し、コミックマーケット103では下りスループットが約1.5倍改善した。SNSのネガティブ投稿も約80%減少したという。「夏よりドコモ回線が使えている」「ドコモ回線が好調」といった「ありがたい声ももらった」(小林氏)そうだ。
●ドコモの主張と乖離するユーザーの声
ネット上でのネガティブな投稿は確かに減っている印象だ。ドコモ回線を使っているMVNO関係者にも聞いてみたところ、23年秋頃からネットワークに関するネガティブな投稿は格段に減ったと話していた。
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その一方で「まだ改善されていない場所がある」という声があるのも事実だ。筆者の周りはネットワーク品質に敏感な人が多いせいもあるが、スピードテストでドコモの通信速度をチェックして不満を漏らしているSNS投稿をいまだによく見かける。
●ポジティブな話題が少ないドコモ
ドコモの親会社であるNTTの決算会見では、「NTTドコモのネットワーク品質に嫌気が差してやめた人など、契約者数の影響はあったか」というメディアからの質問に対し、NTT島田社長が「あまりいないんじゃないかと思っている」と回答。これがXなどで拡散し「今の状態で危機感持ってないことにびっくり」「ドコモと決別する決心がついた」など反論の声が出てきたほどだ。
アプリを活用する調査と改善は始まったばかりなので、ドコモ自身も今回の対策で十分とは思っていないはずだが、集中対策が宣言通り進み、春商戦に突入する時期にネガティブな要素をつぶしておきたかった面もあったのではと推測する。
というのも、最近のドコモはポジティブな話題が少ない印象があるからだ。先日発表された23年度第3四半期決算は増収増益で、業績は悪くはないが、ソフトバンクは今期上方修正、KDDIはARPUが上昇しているなど、他社が料金値下げからの回復、上り調子をアピールしているのに対して、ドコモはまだ停滞している印象が拭えない。
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確かに島田社長の言う通り、通信品質の低下で影響が懸念された解約率は上がっていないが、ARPUは前四半期から10円低下。これは23年7月から始まった低容量低価格プラン「irumo」の影響が大きいとのことなので、ARPUの低調はまだ続く可能性がある。他社はすでにサブブランドが定着し、KDDIはメインのauブランドで使い放題プランの選択率が8割超、UQ mobileでも中大容量プランの選択率が7割超となっており、ARPUはむしろ上昇傾向だ。
ドコモのスマートライフ事業の減益もやや気になる点。スマートライフ事業は通信以外の金融・決済や映像・エンタメ、電力事業などを含むが、同様のセグメントで他社は着実な成長を見せている。また、ユーザーの解約抑止を狙ってポイントや金融サービスと連携した料金プランも提供している。ドコモはマネックスグループ、マネックス証券との業務提携を24年1月から開始しているが、金融サービスとの連携で他社に一刻もはやく追い付かなくてはならない。
能登半島地震の災害対応では、移動基地局車をはじめとする充実した設備にさすがと思わせられる部分も多かったが、KDDIのStarlinkアンテナの活用が目立っていたように感じる。
●KDDIの「Sub6」エリア拡大に対抗できるか
24年度は再び各社のネットワークに注目が集まるかもしれない。衛星通信の地上局との干渉問題が解消され、Sub6GHz帯の電波をいよいよフルに活用できるようになるからだ。
5G用の周波数として各社に割り当てられた「Sub6(サブシックス)」と呼ばれる3.7GHz帯、4.5GHz帯の周波数帯は、100MHz幅の大きな帯域幅を持ち、その1波だけで5Gらしい高速通信が可能となる周波数だ。ただ、3.7GHz帯については衛星通信の電波に干渉してしまうため、基地局の設置場所を地上局から離したり、電波の出力を抑えたりしてエリアをあえて狭くしていた。
この衛星干渉条件が23年度末に緩和され、24年度からは出力を上げられるようになる。KDDIは3.7GHz帯の周波数帯域を2ブロック持ち、23年度末までに3万4000局を建設予定。それによってSub6のエリアが2倍に拡大し、より高速・安定した通信を提供するとしている。
3.7GHz帯については4社とも割り当てられているが、ドコモだけは4.5GHz帯100MHz幅も割り当てられている。4.5GHz帯は衛星通信の干渉問題が少なく、エリア構築しやすかったはずだが、通信品質の不満がくすぶっており、これまで十分活用しているとは言いがたい。
ともあれ、24年はとうとう5Gの普及期になるだろう。ネットワーク品質もSub6がポイントとなってきそうだ。ドコモは、現状の通信品質で評価が高いソフトバンクやSub6で攻勢をかけるKDDIに対抗し、ユーザーの信頼を取り戻すことができるだろうか。
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