エースの「バフェクト」は、大手カバンメーカーが本気で作った、仕事にも推し活にも便利に使えるバッグのシリーズです。
何よりまず、普通に職場に持っていけて、ビジネスバッグとして必要な機能はきちんと網羅しているということを前提として、その上で、会社帰りにライブなどのいわゆる「現場」や、コレクターズアイテムの購入や共有を快適に楽しめるように開発されています。
そのため、当たり前ですが見た目は、普通のボディバッグであり、バックパックであり、ショルダーバッグです。エースの男性向きビジネスバッグのブランドであるace.から発売されるシリーズなので、そのあたりは抜かりなく仕事に使えるバッグになっているのです。
ところが、その外観にも素材にも、もちろん内装や機能にも、「推し活」のためのアイデアと工夫が詰め込まれています。
社内でも本気で「推し活」を楽しんでいるスタッフが開発に参加したからこそできたという「バフェクト」シリーズから、主に、筆者がガールズグループ・BiSHの現場に通った経験から、最も使ってみたいと考えた「かぶせショルダー」を中心に、開発メンバーに、開発の経緯や、こだわったポイントなどをお聞きしました。
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日常的に推し活を行っている社員も開発スタッフに
「そもそも『バフェクト』は、ジュエルナローズというエースの女性向けのブランドで、オタク向けのバッグの『オタハピリュック』というのを作ったのが始まりでした。そのときのコンセプトが、“会社でオタバレしたくない人のビジネスバッグ”ということでリュックの形で発売しました。これが好評で、今や第2弾も発売しています。
その後、SNSでも話題になって『男性版も欲しい』という意見も上がり、確かに面白い企画ですし、ace.でもやってみようということになったんです」とMD統括部の白石悠一郎さん。彼自身も、実はアニメ関係の推し活に熱心なのだそうです。
その「オタハピリュック」の開発にも関わった営業本部の矢部遥さんが、「バフェクト」の開発をリードしていったそうです。
「前回のバッグを企画したのは私ではないのですが、たまたま私が『推し事』を結構していたので、そこにがっちりハマって、改良などいろいろと行いました。次は男性向きでやるということになり、企画を考えました。
女性用リュックの実績というのもあるのですが、元々、バッグを企画するにあたっては、現在の時流に合わせるというのが大切なポイントで、その意味でも、“オタク”という今、非常に活発なフィールドはターゲットになってもおかしくないんです」と矢部さん。
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「ace.というブランドは若い方への認知度がそれほど高くないので、推し活を活発に行っている層のユーザーにブランドを知ってもらいたいということもありました」と白石さん。
今や、熱心に誰かのライブに通っているくらいのことは、会社の人たちに知られても問題はないくらいの社会にはなっています。それでも、どれくらい濃い「推し活」をしているのかというのはバレたくないというのが実際のところではないでしょうか。
「仕事を半休にして、そのまま遠征に行くとか、そのようなことは、やっぱりバレたくないというところもあり、会社ではしっかりした雰囲気は出しつつ、そのまま推し事に行っても大丈夫ということを考えて作りました」と白石さんは楽しそうに話してくれました。
推し活の必須アイテム「硬質ケース」ありきの設計
製作の流れとしては、これまでace.で培ってきたビジネスバッグという枠の中に、どのように推し活の要素を入れていくかという感じだったそうです。そのために、実地調査をしたり、実際、普段持ち歩いているものはどういうものかを調べたり、自分たちの推し活の経験を踏まえたりといったリサーチを重ねたのだそうです。
「例えば、ビジネスバッグにはPCポケットを付けますが、そこにPCじゃなくて他のものを入れている人もいました。そのような感じで、これまでとは何かしら違った使い方ができるのではないかと、私と矢部、あと同じ部署の須藤良輔の3人で考えて具現化していくという流れでした」と白石さん。
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しかし、よくお話を伺ってみると、在りモノのビジネスバッグをベースに作るというような安易なものとは全然違っていました。
例えば、サイズを決めるにあたっても、基準としたのはA4ファイルが入るとかそういうことではなく、クリアハードケース、いわゆる硬質ケースのサイズに合わせて作っていったというのです。
「まず、硬質ケースが入ることが最初のサイズ決めのポイントだったんです。だから、ボディバッグはB5のケース、かぶせショルダーはA4のケース、ボックスリュックはB4のケースがスムーズに出し入れできるようになっています。
調査したところ、このサイズのケースに入れたアクスタやカードなどを交換しているところが頻繁に見受けられたんです。これがマストアイテムだとしたら、入れられるサイズじゃないと」と白石さん。
硬質ケースは100均で売っているものなどをしっかり調べて、それがちゃんと入るように設計されています。
ボディバッグが通常のものより大きいのも、かぶせショルダーが通常のメッセンジャーバッグと比べて横長なのも、ボックスリュックがace.のビジネスバッグとしては珍しいボックスタイプなのも、この硬質ケースありきで作られているからなのです。
そして、それが通常のビジネスバッグとは一味違う見た目につながり、このバッグの個性にもなっています。女性向きのジュエルナローズのバックパックのときは、応援うちわが入るサイズで設計したそうです。そのあたり、ターゲットとニーズの調査が行き届いていますね。
「ポスターをどうするかも結構議論しました」と白石さん。最初は、バッグの下部に丸めたポスターを差し込めるベルトを付けようというアイデアもあったそうです。
「バッグ側面のペットボトルを入れるポケットも、ポスターが差せるようにベルトを付けるなどアイデアは出たんですが、本当に、そんなにポスターを差す需要はあるのかと思ったんです」と言うのは、開発メンバー3人の中で唯一“オタクではない”須藤さん。
ポスターは大きいから、むしろ紙袋とかに入れて持つ方が安全だし、そちらの方が主流なのではと考えた須藤さんは、サイドポケットはペットボトルや水筒入れにして、その上はチャームを付けるなどの方が良いのでは、といった現実的なアイデアを出すことで、全体を調整する役割を果たしていたのだと言います。
ライブの現場で便利なワンボックス構造とペンライトホルダー
これらはコレクター系のオタクである白石さんの領分ですが、現場系のオタクである矢部さんの領分でも、このバッグは細かく工夫されています。
「どのバッグも、細かく部屋を分けたりせずに、基本ワンボックスで上からポンポン入れられるようにしています。現場で着替える人も多いし、ライブ中にもモノの出し入れは頻繁だったりしますから、こういう構造の方が使いやすいんです」と話す、矢部さんならではのポイントが、かぶせショルダーのペンライトの収納部分です。
「ここのゴムベルトにペンライトを差し込むようになっているのですが、まず、5本のペンライトを差し込めるようにしました。
女性の場合は、両手に1本づつ、もしくは片手にうちわ、片手にペンライトというのが一般的なので、ジュエルナローズのときは2本入るように作りましたが、男性は何本も持たれる方が多いようなので、銃のホルスターみたいな感じで、一度に取り出せたらいいなと考えたんです。
それをデザイナーに伝えて出来たのがこの、少し間隔を空けて横並びに用意されたゴムベルトです」と言いながら、矢部さんは、片手に3本、もう一方に2本のペンライトを指の間に挟んで一気に抜いてみせてくれました。
ゴムバンド製なので、100均などで売っている細いタイプも、最近の音声なども出る多機能のタイプにも対応します。また、充電ケーブルなどもここに挟むことができるなど、汎用性を持たせてあるのがうまいですね。
「最初はポケットにしようと思ったんですが、そうすると他の用途に使いにくいと思って、ゴムベルトにしてもらいました」と矢部さん。
そんな風にワンボックスにしつつ、本来はPC用のポケットにあたる部分も一味違う構造になっています。マチが大きめに作られていて、タブレット用スリーブも付いているので、ビジネス時にはノートPCとタブレットを分けて入れたり、推し活時には硬質ケースとタブレットを入れたりと、用途に応じて使い分けることができます。
「メッシュポケットや、ペンライト用のゴムバンドも、このポケットに付いている構造で、ここをうまく使ってもらえれば、結構仕分けもできるんです。これがとても便利なので、『ベンリナポケット』と名付けました。『四次元ポケット』みたいなイントネーションで呼んでもらえればと思います」と矢部さん。
推し活を楽しむためのアイデアが詰まった細部
また、推し活の現場では床や地面に直接バッグを置くシチュエーションが多いため、底部分に汚れを拭き取りやすいコーティング素材を使うなど、現場での扱いやすさを考慮した仕様になっています。
「推し活もいろいろありますが、今回はアニメやマンガのオタクの聖地巡礼や買い物、さらに、アイドルなどのライブや遠征といった用途に絞って作りました」と白石さん。
バッグである以上、モノを入れて持ち運ぶことがメインになるのはビジネスも推し活も同じなのですが、そこはオタクが考えたバッグなので、移動中も楽しめるように、細かいところにも凝っています。
例えば、3種類ともバッグを開いたところに中が見えるビニールのポケットが付いているのですが、実はバッグを開いたときに、ポケットが自分の方を向くように作られています。そうやって、中に入れた写真やアイテムを自分だけが見てニヤニヤするためのポケットなのです。
「前の人には見えないけど、自分には見えるというポケットなんです。このビニールの厚みにもこだわっていて、あまり薄いと傷が付きやすいですし、缶バッジなどの立体物も入れるから、厚過ぎても使いにくい。モノを入れたり出したりして、素材も吟味しました。
あまり、こういう部分の素材に凝るバッグというのはないんですけど、この製品の場合、そのようなところに作る楽しみがありましたね」と矢部さん。
他にも白石さんこだわりの、バッグのサイド部分にある、バッテリーなどの充電ケーブルを出すための穴も注目ポイントです。
「昔、イヤフォンのケーブルを出すためのものとして、ビジネスバッグにもこういう穴が開いていた時期がありましたよね。いつの間にかなくなったアレを、今回、復活させました。ただ、イヤフォンではなくて、充電ケーブルですね。バッテリーはバッグの中に入れて、ケーブルを外に出してスマホにつなぎます。
GPSを使ったゲームなどをやっていると、あっという間にバッテリーがなくなりますから。歩きながら充電できることは大事なんです。それに、なんかガジェット感があっていいじゃないですか」と白石さん。
ビジネスバッグの可能性を広げるバッグかもしれない
お話を伺うと、「バフェクト」シリーズが、普通のビジネスバッグに必須の機能として当たり前に付いているものを、少しだけ拡張したり、開閉方法や内装の構造を、バッグとしての常識の範囲内で現場での使い勝手に合わせたりして作られていることが分かります。
かぶせショルダーにしても、まずバッグとしてカッコよくしたいということから、メッセンジャーバッグのスタイルを採用。その上で、フラップを開けるとそのままバッグの中にアクセスできるように、上部のファスナーなどは廃して、その分、フラップのマジックテープを強力なものにするといった対応をしています。
これによって、フラップ下の留め具は使わなくても、安全に内容物を保護できて、なおかつ、フラップを開ければ着替えやペンライトにスムーズにアクセスできます。
ボックスリュックも、ace.ブランドとしては初めてのボックス型です。床に置いて上からの出し入れができるようにすると同時に、本体サイドのファスナーからも内部にアクセスできるようにしてあります。それによって、ビジネスシーンでも使いやすいバッグになっているのです。
ボディバッグが通常のものより大きく、箱形になっているのも同様の理由です。
「実際に推し活の現場を観察していると、弊社の古い型のものを、かなり長い期間、ハードに使い続けていただいている方などもいらっしゃって、なるべく長く使えて、見た目が損なわれないようにしたいと考えました。なので、かなり太い番手のナイロンを使って、ガッチリと仕上げています。
また切り返し部分などの構造や縫製も、耐久性を重視して設計しています。そこに、白石が言ったようなガジェット感のような、男心をくすぐるデザインも入れつつ、ベーシックなイメージにしています」と須藤さん。
そうして出来上がった、「バフェクト」は、どれを使っても、かなり便利なビジネスバッグなのです。ビジネスに必要な機能は全て網羅して、でも、推し活用バッグとしての妥協もありません。見た目が普通なのは、このバッグの場合、欠点なのではなく、美点なのです。分かりにくいけれど、オタク愛にあふれたバッグだと思います。
納富 廉邦プロフィール
文房具やガジェット、革小物など小物系を中心に、さまざまな取材・執筆をこなす。『日経トレンディ』『夕刊フジ』『ITmedia NEWS』などで連載中。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方、選び方を伝える。All About 男のこだわりグッズガイド。(文:納富 廉邦(ライター))