「少し気にしてやって」と夫に頼まれた
ミツコさん(47歳)の義父母は、自宅から徒歩5分ほどのマンションに住んでいる。数年前、一軒家を処分してマンションに越してきたのだ。「年をとったらマンションのほうがいいわと義母が言い出して。一軒家だと庭や建物のメンテナンスも大変ですから。以前は1時間ほどの距離だったので、近くに越してこられるのは正直言ってちょっとどうかなと思ったのですが、義父母ともに『自分たちのことは自分たちでやるから気にしなくていいからね』と言ってくれました」
とはいえ、義父母もすでに80代。気にはなるが、ミツコさん夫婦は共働きで、高校2年の長女、中3の長男、中1の次女、3人の子もいる。思春期を迎えた3人の子にも細かく目は配りたい。
「夫は私に『もう少し両親を気にしてくれないかな』と言うんです。だったら自分が気にすればいいのにと思ったけど、夫の仕事が忙しいのもわかっている。
時折長女が見に行ってくれたり私が行ったりしていたんですが、去年あたりから、なんとなく水回りの汚れが気になるようになったんです。どうやら料理好きだった義母が、あまり料理をしなくなったみたい。それとなく義父に聞いたら、買った惣菜が多いと。そのせいかどうかわかりませんが、義父の糖尿病も悪化してしまった」
びっくり! 義母がくれた和菓子の箱に……
以前から週末には作り置きをしていたミツコさん、義父母の分も作ることにした。もともと関西出身のミツコさんは出汁をきかせた薄味料理が得意だ。
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いちいちお礼なんていいですからと言っていたら、あるとき長女が『お母さんにって、おばあちゃんがくれたよ』と、私の好きな和菓子の箱をくれたんです。
早速、その晩、いただいたんですが、箱の下のほうに封筒が入っていた。なんだろうと思ってみたら、なんと50万円が! びっくりして夫に伝え、夫から返してもらうことにしました」
お金がほしくてやったわけではないとも伝えてもらった。だが、「材料費だからって、受け取らないんだよ」とお金は再度、ミツコさんのもとへ。しかたがないから、預かっておこうと夫婦で話し合った。
義父母の不在時に見てしまった……
その後、糖尿病は落ち着いていた義父だが、昨年末に家で転倒して骨折してしまった。義父が入院すると、義母は不安になったようだが、そこは気丈に対応しているフリをしていた。「なるべくきちんと夕飯を届けたり、お義母さんがよければうちで一緒に食べましょうと誘ったりしていました。でもなかなか来ませんでしたね」
あるとき、時間のとれた夫が義母を連れ出した。たまにはふたり水入らずでランチでもしてきたら、とミツコさんが勧めたのだ。その間、彼女は義父母の家を掃除するつもりだった。
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夫には言うまいと思ったが、今後のことも考えて、義母はどんな料理が好きなのか聞いてもらった。夫を通じて返ってきた答えは「何でもいい」だった。
義母の本心がわからず切ないまま
「おそらく私のことが好きじゃないんだと思います。もともと自立していた人だから、面倒を見てもらっているようなことになっているのが不本意なのかもしれません。でも、老いていくのはみんな同じ。もう少し甘えてくれてもいいのに」縁あって義理とはいえ親子関係になったのだから、もう少し心を開いてくれればとミツコさんは思っていた。その後、義父が退院、リハビリが必要になってからも、ミツコさんはなるべく手を貸そうとしているが、義母には断られることも多い。
「それでも夕飯は運んでいます。義父は喜んでくれていますから。義母が食べていないことを義父も知っているのでしょうが、そこはもう、しかたがないですね」
夫も知ってはいるが、母を責めるわけにもいかないと思っているようだ。無理やり食べさせることもできないし、義母は義母で好きにさせておくしかないのだろう。
「一応、栄養を考えて作っているんですけどね……。まあ、言ってもしかたのないこともあるし、親切の押し売りをするわけにもいかないし。むずかしいところです」
ミツコさんのせつなそうな表情が印象的だった。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
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