Open RANを巡る競争は楽天が一歩リードか ドコモと“協調”する可能性も?

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2024年03月05日 10:01  ITmedia Mobile

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スペイン・バルセロナで開催されたMWC。2023年に続き、Open RANが大きなテーマの1つになっていた

 無線機の仕様をオープンして、複数のベンダーの機器を組み合わせることを可能にするOpen RAN。この共通仕様を策定するO-RAN Allianceの規格にのっとったものをO-RANと呼び、2月26日から29日(現地時間)に開催されたMWC Barcelona 2024でも、テーマの1つとしてさまざまな事業者が関連した成果を展示していた。このO-RANに早くから力を入れていたのが日本勢。キャリアの中では、ドコモや楽天がO-RANのビジネス化も図っている。


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 ドコモはO-RAN Allianceの設立メンバーの1社で、自身もさまざまなベンダーとタッグを組み、2023年のMWCでO-RANブランドのOREXを立ち上げ、海外キャリアへのコンサルタントを行っている。対する楽天も、傘下の楽天シンフォニーが完全仮想化ネットワークを海外キャリアに展開。ドイツでMVNOからMNOに転じた新興キャリアの「1&1」に、ネットワークを丸ごと展開している。MWCでは、この2社に新たな動きがあった。ここで、ドコモと楽天のO-RANを巡る戦いを取り上げていく。


●OREXを法人化して海外展開に本腰のドコモ パートナーには世界各国の建設会社も


 ブランドとして展開していたOREXを、法人化したのがドコモだ。同社はNECと合弁会社の「OREX SAI」を4月1日に設立する。その代表取締役CEOには、ドコモで常務執行役員 ネットワーク本部長を務める小林宏氏が就く。O-RANの旗振り役としてOREXを推進してきたドコモのOREXエヴァンジェリスト 安部田貞行氏もOREX SAIのCTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)として、技術面を支えていく。


 仕様はオープン化されているものの、ネットワークの根幹を支える装置なだけに、きちんと動作し、十分なパフォーマンスを発揮する必要がある。ベンダーごとに“方言”のようなものあり、接続時にトラブルが発生する恐れもある。もともと、ドコモが立ち上げたOREXでは、こうした事態に対応するため、複数ベンダーの機器を実際につなげ、検証を行っていた。2022年には、その検証環境を海外キャリアなどがリモートで利用するための「シェアドオープンラボ」を、横須賀のドコモR&Dセンター内に開設している。


 OREX SAIでは、検証やインテグレーションを事前に済ませた機器を「OREX Packages」としてまとめて、それを販売していく。NECが持つ海外の販路やシステムインテグレートの能力を、ここに生かす。例えば、2024年にOREX Packagesを導入するドコモの商用ネットワークには、NEC、Amazon Web Server(AWS)、Red Hat、Qualcomm、ヒューレッド・パッカード エンタープライズ、DELLといった各種ベンダー、メーカーの機器やソフトウェアが新たに採用される。


 このような組み合わせを複数作り、海外に実際に海外キャリアのネットワーク構築を支援するのがOREX SAIの役割だ。OREX SAI自身はハードウェアやソフトウェアといった製品を開発するのではなく、主な役割はキャリアへの導入支援。その意味では、ドコモ内のいちブランドだったOREXのときと立ち位置は変わっていない。一方で、法人という形を取ることで、その動きは加速していくという。先の安部田氏は、次のように語る。


 「OREXのブランドを立ち上げ、パートナーの皆さまと実際にお客さまのところで検証したり、やりとりを始めたりしているが、次のステップとしてフィールドトライアルをする話になると、現地でのサポートが増えていく。ドコモは正直なところドメスティックカンパニーで、世界各国に拠点があるわけではない。ショートタイムで効率よく雇用してとなると、時間もコストもかかる。そういうケイパビリティ(能力)を持った方と手を組んで動いた方が効率がいいということで、会社を設立し、その中で現地のサポートをやっていくことになった」


 OREX SAIには、「OREX DELIVERY PARTNERS」として、基地局建設などを行う世界各国の通建会社も名を連ねている。具体的なネットワーク構築や保守までを視野に入れているからだ。コンサルティングにとどまっていたドコモ内のブランドではなく、実際に海外キャリアのネットワーク構築に携わるようになるという部分を見ると、その役割が楽天グループの楽天シンフォニーに近づいたともいえそうだ。


●いち早く実績を上げ、ソフトウェアのライセンス化に踏み切った楽天シンフォニー


 ただし、そのアプローチの仕方は少々異なるという。安部田氏は、「正しく理解しているわけではないかもしれないが」と前置きしつつ、「楽天シンフォニーは、先にベースを持って展開しているように見える」と語る。楽天自身も、先に楽天シンフォニーを設立し、営業活動を開始していることを強みに挙げる。楽天グループの代表取締役社長兼会長の三木谷浩史氏は、「MWCでは基本的に誰もがバーチャリゼーション(仮想化)と言っているが、うちはO-RANが難しいといわれる中、5年も前から始めている」と自信をのぞかせる。


 実際、楽天シンフォニーは日本で展開する楽天モバイルだけでなく、先に挙げたドイツの1&1にもネットワークを提供。ドイツでも既にサービスは始まっており、ユーザーは徐々にMNOへと移行している。MWCで開催された楽天グループのイベントに登壇した1&1 MobilfunkのCEO、ミハエル・マルティン氏は、「何千ものユーザーが毎日われわれのネットワークに入ってきているが、今のところネットワークのステータスは良好だ」と語った。


 楽天シンフォニーは、MWCに合わせてウクライナの通信最大手「Kyivstar(キーウスター)」に同社のOpen RAN技術を導入することで基本合意したと発表。フィリピンの通信事業者「Now Telecom(ナウ・テレコム)」とも、5G Open RANの試験運用に関する覚書を締結している。


 次々と実績を出している楽天シンフォニーだが、サービスイン当初から楽天モバイルに完全仮想化ネットワークを取り入れたことで、「楽天のO-RANソフトウェアは競合と比べて最も成熟している」(三木谷氏)点は、海外キャリアからも高く評価されているという。こうした実績があり、1&1のような楽天シンフォニーがネットワーク構築を丸抱えするような案件も「何件か進んでいる」(同)。ビジネス面では楽天シンフォニーが先行していることもあり、OREX SAI設立に至ったドコモの動きには、「なんとなく1周遅れ感がある」(同)と手厳しい。


 実際、楽天は次のステップとして、同社傘下のAltiostar(アルティオスター) Networksが開発してきたvRAN(仮想化RAN)のソフトウェアをオープン化していく。MWCに合わせて発表した「リアルOpen RANライセンシングプログラム」が、それだ。同プログラムには、Open RANに対応したCU/DUのコードが含まれており、これを利用することでハードウェアの展開を容易にするという。簡単に言えば、「ライセンスを出すからベンダーが自分で接続テストをやってよという形」(同)だ。


 三木谷氏は、「O-RANと言うからには、たくさんのソフトがあってはいけない。安くてみんなが使えるようになり、いろいろなハードウェアがつながるのが正しい世界だと思っている」とその狙いを語る。楽天シンフォニーの既存ビジネスと比べると利幅は薄いが、「楽天シンフォニーにはクラウドやOSS(運用サポートシステム)もあるので、それも一緒にいかがでしょうというセールスができる」。三木谷氏はAndroidをその例に挙げていたが、基本ソフトを広く広げて、楽天シンフォニーはその上でビジネスの展開を図るというわけだ。


●ドコモと楽天が協力する可能性も? O-RAN領域でも協調は進むか


 背景には、既存の丸抱え型ビジネスモデルは、展開にコストや時間がかかることがある。実際、1&1のネットワーク構築には、楽天シンフォニーのメンバーが常駐し、その運用を全面的にサポートしていた。件数が少ないうちはいいが、数が増えてくるとその都度、ビジネスを拡大しなければならない。三木谷氏も、そのビジネスモデルを「てこが効く」と評する。


 先にビジネスを拡大し、その中核ともいえるソフトウェアをオープン化していく点では、楽天がドコモを一歩リードしているようにも見える。三木谷氏が「1周遅れ」と語っていたのは、そのためだ。一方で、リアルOpen RANプログラムを開始したことで、ドコモと楽天が手を組める可能性も見えてきた。三木谷氏は、オープン化したvRANを「競合が利用するかもしれないが、それはそれでいい」と語る。


 ドコモとの協業については、「オープン化していくというのがわれわれの方向性。もしかしたらそこでコラボレーションしていけるかもしれない」(同)と話す。実際、OREX SAI自身はソフトウェアを開発しておらず、AltiostarのvRANソフトウェアをOREX Packages内の製品の1つという形で扱うのも不可能な話ではない。これは、お互いのビジネスモデルが完全にはかぶっていないからこそ、できることだ。


 では、ドコモは協業の可能性をどう見ているのか。安部田氏は、「Altiostarのソフトがどれだけコンペティティブかは実際に検証していないので、(OREX Packagesの中に)増やすかどうかは何とも言えない」と前置きしつつも、「Open RANを普及させるという意味では、楽天と同じ精神で、お互いに協力できることもある」と語る。


 ドコモの代表取締役社長、井伊基之氏も見解は同じだ。同氏は、「もともとベンダーフリーでできるというのがOpen RANのコンセプト」としながら、「楽天が持っているものも、本当は(OREX SAIで)一緒になってできると思っている。ウエルカムです」と話す。Altiostarのソフトウェアは日本やドイツの比較的大規模な商用環境で動作することが実証されているだけに、ユーザーである海外キャリアがこれを求める可能性もある。


 KDDIの代表取締役社長CEOの高橋誠氏は、ドコモの井伊氏とMWC会場で行われた共同取材で、「競争と協調」というキーワードを挙げ、「O-RANの世界もそうだが、何を協調して、何で競争するのかがすごく戦略的に面白い時代になってきている」と語る。海外の大手ベンダーはその規模が巨大なだけに、対抗するには手を取り合うことが不可欠だ。今はまだライバルのドコモと楽天だが、将来的に協力し合える可能性を築けるのではないか。MWCからは、そんな未来も見えてきた。


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