最新の光造形3Dプリンタ「UniFormation GKtwo 12K」を使ってみた ビジネスパーソンとして知っておきたい技術

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2024年03月07日 11:21  ITmedia PC USER

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棚にスペースがあれば置けるレベルのサイズです。本体上に乗せたのはiPhone13 Pro Max

 プリンタと言えば「紙に印刷するもの」をイメージすると思いますが、今回取り上げる3Dプリンタはその名の通り、「3Dの物体を作成するもの」です。


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 3Dプリント自体は既に目新しい技術ではないことを多くの皆さんが知っているでしょう。しかし、誰もが使ったことのある一般的な製品とは言い難いです。私自身も3Dプリンタが比較的安価に手に入るようになった2017年頃に初めて購入しました。当時で本体価格が4万円くらいだったと記憶しています。宇宙でも使われる3Dプリンタ技術が、安価なものだとインクジェットプリンタと大差なく購入できることに当時は驚きました。


 私自身の活用方法としては、例えば身の回りのグッズ作成です。ペン立て、コインケース、エアコンの風よけ、PCディスプレイを持ち上げる土台など、自分の回りの環境に完全マッチしたサイズのモノが作れるのがお気に入りです。


 他にはシングルボードコンピュータ「Raspberry Pi」用のケースを作成して農地に置くといった活用などもしています(ケースのデータを配布していますので、ご興味のある方はぜひお使いください)。


 さて今回、最新の3Dプリンタ「UniFormation GKtwo 12K」(以下、GKtwo 12K)を試用する機会を得ました。上で紹介したような安価な3Dプリンタで使われることが多い仕組みとは異なる「光造形タイプ」の3Dプリンタです。


 まずは光造形タイプの3Dプリントのワークフローを簡単に説明します。そして、最新のGKtwo 12Kを使ってみた感想や3Dプリントを使いこなすポイントなどをお伝えします。3Dプリントに興味がない方でも、知識としてきっと役立つはずです。


●専門家に聞く


 私が所有しているのは「FDM(熱溶解積層方式)」というタイプの3Dプリンタです。フィラメントという素材を熱で溶かしながらソフトクリームを作るように上から垂らして形成していくものです。


 一方、今回試した3Dプリンタが採用している光造形は仕組みが全く異なります。そのため、特徴や使い方、ノウハウ的なところは全くの無知でありました。そこで今回はExpert Material Laboratoriesの野田裕介氏(代表取締役CEO)にレクチャーいただきながら3Dプリンタを試用しました。同社は3Dに関するコンサルティングや、紙のプリンタでいう「インク」に相当する「レジン液」の開発・販売などを手掛けています。


 何はともあれ、実際の“モノ”が手元で作れるというのは理屈抜きに面白いものです。子どもの頃の「工作が楽しかった」、あの感覚です。


 VR/ARゴーグルのような製品についても同じことが言えますが、ディスプレイ越しの情報だけでは、こうした機器の本質が体感できません。今できること、できないこと、将来できそうなことを肌で感じて知っていることは、ビジネスパーソンとしても1つの武器となるでしょう。


 3Dプリンタで出力できるものは、十分に実用性のあるものです。いきなり購入するのはハードルが高いと思いますが、試用できる場所は探せば見つかると思います。ぜひ遊び心を持って、一度は触れてみてほしいです。


●光造形3Dプリントのワークフロー


 3Dプリントについて全く知らないという方のために、使い方の簡単な流れを説明します。造形の流れは大きく「(1)3Dデータの作成」「(2)プリント用データの作成」「(3)3Dプリント」「(4)造形物の洗浄」「(5)造形物の二次硬化」となります。


(1)3Dデータの作成


 その名の通り、まずはプリントするデータが必要になります。これは、いわゆる3D CAD(立体の製図を行うツール)を使って作成します。「Autodesk Fusion 360」のような、個人用途であれば無償で利用できるソフトウェアもあります。こうしたソフトは、簡単な形状だと至極簡単に作ることができます。


 お気付きかも知れませんが、これはデータがあればいいのです。そうした3Dデータを配布しているサイトは多数ありますし、知り合いからデータをもらうこともできます。デジタルならではのメリットです。入手したデータを使い、手を加えるのもいいでしょう。


(2)プリント用データの作成


 先ほどの3Dデータを使って、光造形3Dプリンタでプリントするためのデータを作成します。


 初めての方はピンとこないと思いますが、3Dプリンタは物理世界において少しずつ形を作っていきます。当然重力があるので、他の部位とつながっている部分がないと狙った形に造形できません。


 そこで、ラフトやサポートと呼ばれる、プリント時に必要な「補助パーツ」を付けてあげる必要があります。こうした作業をするソフトをスライサーソフトと言いますが、「CHITUBOX」のような無償で使えるソフトがあります。そちらを使って設定していき、プリント用データを出力します。


(3)3Dプリント


 3Dプリンタにレジン液を入れて、プリント用データを読み込ませてプリント開始します。プリント中は特段何もすることはありません。ひたすら待つのみです。


 光造形は、レジン液に対して1層ずつ紫外線を当てて硬化させ、それを上に引っ張って次の層を硬化──それを繰り返しながら形を作っていきます。何層も積み重ねて形にしていくため、高さの分だけ造形時間がかかります。今回の例だと約2時間かかりました。


(4)造形物の洗浄


 吊り下げて作るためにラフトやサポートを取り付けました。これらを取り除くとともに、造形物自身の表面に残っているレジン液を取り除きます。洗浄方法は使うレジン液によりますので、使用方法をよく確認します。


 なお、ラフトやサポートを取り外すタイミングは次の二次硬化後に行うこともあり、「いつ取るか」についてもノウハウがあるようです。


(5)造形物の二次硬化


 最後の工程です。プリントしたものは、実は硬化具合は「半熟」状態となります。プリント中に完全に硬化させると各層がつながらなくなってしまうためです。そのため、洗浄して乾燥させた造形物に、追加で紫外線を当てて完全に硬化させます。


 この硬化時にも造形サイズが微妙に変化します。形状によっては弱い部分が割れたり、面が反ってしまったりすることがあります。このあたりもノウハウが必要なところでしょう。


 私は安い紫外線ライトと目を保護するためのゴーグルを入手しましたが、均等に硬化するための専用の二次硬化機もあります。どこまで繊細に造形物を作りたいかでチョイスしていくことになるでしょう。


 以上が光造形3Dプリントのワークフローとなります。もちろんデータはデジタルなので、3Dデータやスライスしたデータがあれば、そこから作業することができます。


●初めて使う光造形3Dプリンタ それでも快適に造形できた


 私は他の光造形3Dプリンタを使用したことがないため、他機種と比較したレビューはできません。GKtwo 12Kを試用して感じたことを、フラットにお伝えしたいと思います。


 まず、思っていた以上にスムーズに造形ができました。「使い方が難しいのかな……」と思っていましたが、レジン液を入れて、プリントしたいファイルを選択してスタートするだけです。また、造形に何度も失敗するかなとも思っていましたが、ラフトの数を減らすなど“攻めすぎたデータ”にしなければ、そうそう失敗はない感触です。


 造形可能なサイズも218(幅)×122(奥行き)×245(高さ)mmと、ある程度は達成感のある大きさのサイズを造形できます。印刷データとして物体の拡大縮小は簡単にできるので、一つのデータがあればさまざまなスケールが楽しめます。


 稼働音は基本的にはファンの音のみです。「PCのファンが回っている」──そんなイメージです。プリントしながら横で普通に仕事もできます。


 より快適に使うための工夫もいろいろと施されているようです。そのうちの1つがヒーターの搭載です。プリントする──つまりレジン液(化学物質)に対して操作をするわけですが、こうした作業は環境の影響を受けます。特に温度は重要な要素となるため、ヒーターが安定稼働に一役買っているということです。


 また、カバーの工夫も感じました。そのままだと上に開く形なのですが、これだと上部に空間が必要です。しかし、ビスを外す必要はあるのですが、手前に引っこ抜くこともできます。これはありがたいですね。


●もう少しかゆい点もカバーできるとうれしい


 逆にここはもう少しと感じた点は、ネットワーク経由で直接プリント指示ができないという点です。ネットワーク接続には対応しているのですが、3Dプリンタ側にいったんデータを保存する形になります。もしくは、USBメモリ等でデータを運ぶ必要があります。私が所有している3DプリンタはPCから直接印刷指示ができたので、これは少し手間を感じました。


 また、本体にあるタッチパネルで操作をするのですが、このディスプレイの角度を変えることはできません。しばらく床に置いて使っていたのですが、角度的にやや使いづらいものがあります。


●とはいえ、総じてオススメできるモデル


 細かなつっこみはしましたが、基本的に手間いらずの使い勝手は気に入ったポイントです。補充したレジン液は、色を変える予定がなければそのままで問題ない上に、造形するための台座も布でさっと拭いておけばよいレベルです。最高の出力結果を求めるにはダメな使い方なのかもしれませんが、一般用途であれば大きな支障はないと思います。


 GKtwo 12Kの売りポイントとして「交換を前提として、簡単に分解できるLCD(液晶)パネル」をうたっています。光造形タイプの3Dプリンタは光硬貨樹脂を硬化させる工程でLCDを使いますが、この部分が消耗品となっています。


 長く、快適に使うことを考えたメンテナンス性の高い機種といえるのではないでしょうか。


 それなりに値の張る(17万6000円)スペックの高い3Dプリンタではありますが、快適に使えるというのは非常に大切です。この手の機器は安さだけを求めると使い勝手がイマイチなケースがあります。使い勝手が悪いとそのうち使わなくなる可能性が高くなります。特に初めて使う方であればあるほど、使い勝手のよい機種を選択されることをオススメします。


●レジン液選びも面白いポイント


 本体以外の重要な要素。それがレジン液です。「どのようなレジン液を使うか」が、光造形3Dプリンタの面白い点でもあると感じました。数多くのレジン液があり、メリット・デメリットはさまざまです。色や価格の違いから、硬化や乾燥にかかる時間、完成物の強度、安定した造形がしやすいといった差が生まれてきます。


 もちろん1つの本体でさまざまなレジン液を入れ替えて使えます。プリント用のデータを作る時に、「どの程度の時間、紫外線を当てるのか」といったパラメータがあります。使用するレジン液に合わせて、そのあたりの設定を変更して調整していきます。


●気軽に使えるレジン液「エキマテ」


 個人的には、まずは使ってみる上で一番ポイントとなると感じたのが「手間のかからなさ」です。というのも、多くのレジン液はアレルギー物質を含む化学薬品です。そのため取り扱いには注意が必要です。


 例えば、「使用中に手に付着しないように手袋をする」「ニオイがきついので換気やマスクをする」「洗浄するのに有機溶剤が必要になる」「そのまま台所に流せない物質が含まれている」などです。プラモデルの塗装でシンナーを使う時に注意が必要、といったようなことでしょうか。


 今回、レジン液は「エキマテ」を活用しました。こちらは、先述の問題点をほぼクリアしているレジン液です。アレルギー物質を含まず、水と台所洗剤で洗浄できます。ニオイもほぼありません。硬化にやや時間がかかるといった点などはありますが、気軽に使うにはもってこいのレジン液です。アレルギー物質がないので、食器のような口に触れるようなモノを作ることも可能とのことです。


 現に、私は3Dプリンタを稼働させながら横で仕事をしていますが、念のため換気はしていますがニオイは感じません。洗浄についても手袋をせずに洗い流す横着っぷりです。日常でも気兼ねなく使えるので、取り扱いが非常に楽ですね。


 それぞれのレジン液のメリット・デメリットをよく見極めつつ、適した使い方をする。それが基本かなと思います。


●3Dプリンタはぜひ触れておきたい技術


 私のコアスキルは情報システムの構築ではありますが、こうした3Dプリンタで「実物を作れる」というのは、プラスαの武器だと感じています。何かしらの“”現場”を持つようなお客さまに対して、こうした物理的な対処を含めてお話ができるのは強いと感じます。


 実際に3Dプリンタを使ってみると、はっきりいってそこまで難しいものではありません。しかし、使いこなせるかそうでないかで、その違いは絶大なものだと感じます。


 今回、3Dプリントに関するレクチャーとレジン液「エキマテ」を提供してくれた野田氏は「中国では、学生の頃から3Dプリンタを授業で使っており、ビジネスにおいても当たり前のように活用しています。はっきりいって日本での活用は相当遅れていて、それがビジネススピードにも直結してきます。少しでも、普通に使っていけるような人たちを増やして、生産性向上やクリエイティブのスピードアップに貢献していきたいです」と話しています。私も、使えるものはドンドン使っていくべきだと感じます。


 3Dプリンタの使いどころは適材適所だと思います。レジン液自体も安いわけではありません。大量生産するには時間もかかります。どちらかというと、3Dプリンタは多品種、少量生産が得意です。実験的にモノを作り、それを大量に作る必要が出た時に初めて金型を作る。そんな使いわけになるのではないでしょうか。


 いろいろと考えると難しくなるかもしれませんが、「まずは触ってみる」というノリでいいと感じます。純粋に「作る楽しさ」がありますし、そこから身の回りで「使えるモノ」が作れるようになります。作れるようになると、仕事での活用もアイデアが出てくることでしょう。


 一番面倒なのが3Dデータの準備ですが、先述の通り、自身でデータを作らずともネットから得られるデータが大量にあります。それだけではなく、データの作り方はいろいろとあります。こちらについては、また別の機会にご紹介できればと思います。


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