リバプール、マンチェスター・C、アーセナルの三つ巴の優勝争いを抜け出すのはどこだ? プレミアリーグの面白すぎる終盤戦を水沼貴史が解説

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2024年03月08日 07:51  webスポルティーバ

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世界最高峰と評されるイングランド・プレミアリーグが面白い。日本人選手所属のチームがハイレベルな優勝争いを繰り広げている。そんなリーグの終盤戦の展望と、期待の日本人選手たちは活躍できるのか、中継の解説を務める水沼貴史氏に聞いた(※データは3月4日の第27節終了時点)。

【遠藤航はチームの核のひとりになった】

 リバプールの遠藤航は、シーズン序盤こそなかなか出番がなかったが、今ではアンカーポジションのファーストチョイスになっている。昨季までアンカーの主力だったファビーニョ(アル・イデハド/サウジアラビア)が抜けた穴を、遠藤が見事に埋めた形だ。これは先日のカラバオカップ優勝にも間違いなくつながっている。

 また、遠藤の活躍によって、それまでアンカーを務めていたアレクシス・マックアリスターをより前のポジションで起用できるようになり、攻撃的なオプションが増えたことは大きい。

 加入当初は、ボールを奪えてもその先がなかなかうまくいかなかった。若い選手とは違い、現在31歳の遠藤は即戦力での活躍が求められていたし、周りからもそういった目で見られていただろう。

 それに応えるだけのトレーニングでの努力があって、試合を重ねるにつれてパフォーマンスが向上。奪ったあとに、すぐに攻撃につなげるパスやスルーパスも出せるようになった。周りからも認められ、いまでは遠藤にボールが集まるようになった。

 チームのスタイルに慣れ、プレミアリーグでのリズム、タイミングを掴んできてから、ボールへアタックする判断もどんどん早くなり、自信もさらに深めていると感じる。後方にフィルジル・ファン・ダイク、イブラヒマ・コナテという世界でも屈指のセンターバック(CB)コンビが控えることで、より積極的に奪いに出られるという面もあるだろう。

 リバプールはここまで前線の選手に多くのケガ人が出てしまい、非常に苦しいなか、若い選手を積極的に起用しながらよくしのいでいる。終盤に向けてタフな相手が多く残っているが、ユルゲン・クロップ監督が今季限りでの退任を発表し、チームは特別なモチベーションで団結している。

 エースのモハメド・サラーをはじめとする主力選手たちが戻ってくるまで、今いる選手たちの踏ん張りが必要だ。そのなかで1年目にしてチームの核のひとりとなった遠藤は、これからさらに重要な存在になっていくだろう。

【アーセナルの終盤戦に冨安健洋の力が必要】

 アーセナルの冨安健洋は、ケガがちなことも響いて今季はここまで13試合に出場、先発は5試合のみとなっている。アジアカップからチームに戻り、未だベンチ入りも果たせていない状況だ。

 ここからの日程を見て、リーグでの優勝争いはもちろん、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)も考慮すると、アーセナルにとってスカッドの層の厚さは重要になる。冨安には早めに復帰してほしいはずだが、チームはかなり慎重になっている。

 大きなケガではなさそうだが、再発を恐れているのだろう。3月はCLやチェルシー戦、マンチェスター・シティ戦、4月にはブライトン戦やアストン・ビラ戦、トッテナムとのノースロンドンダービーも控えている。このタフな終盤戦に向け、チームは冨安に無理をさせずに、万全な状態でスタンバイさせるために逆算している可能性はある。

 アーセナルは冨安以外にも多くのケガ人が出ているが、チームはCLのポルトとの1stレグに敗れたもののリーグでは直近7試合で7連勝。しかも31得点と攻撃が爆発し、守備においても3失点と絶好調だ。

 ガブリエウ・ジェズスがケガで離脱するなか、トップにはカイ・ハヴァーツやレアンドロ・トロサールが入って機能し、ウイングのガブリエウ・マルティネッリが復調、ブカヨ・サカは鉄板だ。新加入のデクラン・ライスはもはや攻守に欠かせない選手となった。

 そのなかでもキャプテンのマルティン・ウーデゴールのパフォーマンスは凄まじい。彼のアイデア、テクニック、絶え間ないプレッシングは強烈で、好調なチームをそのパフォーマンスとリーダーシップで牽引している。

 そんなチームにあっても、終盤の優勝争いで冨安の力が必要な場面は必ず訪れる。少しでも早くコンディションが整うことを願うが、3月下旬には日本代表としても北朝鮮とのW杯予選が控え、日本にとっても欠かせない戦力であることは言うまでもない。

 冨安としては昨季、終盤の重要な時期にケガをして出られなかった悔しさもあるだろう。代表とアーセナルでの活動でどのようにコンディションを整え、合わせていくのか注目したい。

【三笘薫以外にもケガ人が多いブライトン】

 ブライトンの三笘薫は、第25節のシェフィールド・ユナイテッド戦で背中を負傷し、2、3カ月の長期離脱になることをロベルト・デ・ゼルビ監督が認めた。これは残念でならない。

 その試合でメイソン・ホルゲイトから悪質なタックルを受けたが、一歩間違えば選手生命に関わるほどの大ケガを負う可能性もあるほど酷いものだった。タックルを受けた足をうまく外へ逃し、ケガを避けられたのは幸いだ。

 今季はここまで3得点で、昨季と比べるともの足りない数字にはなっている。三笘の強みはどのチームもわかっていて、かなり警戒されていると感じるが、それを凌駕するだけのテクニックとスピードがあるので心配はしていない。

 やはり彼も冨安と同じようにコンディション次第だ。それが戻りさえすれば、チャンスクリエイトは間違いなくできる。

 ブライントン自体もケガ人が続出して、デ・ゼルビ監督が求めるスカッドが揃わず、昨季のようなサッカーを披露できないでいる。とくに攻撃の要であるソリー・マーチの長期離脱は、彼と両翼を成していた三笘に負担が偏り、影響は大きい。

 そんななかで3バックを試すなど、デ・ゼルビ監督は今いる戦力をどう使えばより進化できるかと、苦しみながらチャレンジしていると感じる。思うように結果がついてこなくて、リーグは9位とかなり後退してしまったが、ヨーロッパリーグ(EL)出場圏内を目指して復調を期待したい。

【橋岡大樹は徐々に出場時間を伸ばしそう】

 1月末に、今季のプレミアリーグ昇格組であるルートン・タウンへ移籍した橋岡大樹。しばらくはチームへフィットさせる期間のためかベンチ外が続いていた。だが、先日のFAカップ5回戦のマンチェスター・シティ戦でベンチ入りすると、後半途中からデビューを飾った。続けて第27節のアストン・ビラ戦でも途中出場し、徐々に出場時間を伸ばしていきそうだ。

 ルートン・タウンは3−4−2−1のシステムで、ボランチのロス・バークリーとサンビ・ロコンガのコンビがよく、トップのカールトン・モリスやタヒト・チョン、イラジャラ・アデバヨなど個性的な選手が多く、個人的に好きなチームだ。

 ホームのケニルワース・ロードは1905年に作られた歴史あるスタジアムで、古きよきイングランドのスタジアムといった趣き。収容人数は約10,000人とコンパクトだが、試合の日は必ず空撮が入り、綺麗な街並みの中にある非常に雰囲気のいいスタジアムだ。

 そんななかで橋岡はシティ戦では右ウイングバック(WB)、アストン・ビラ戦では左CBとして出場した。シティ戦ではジェレミー・ドクを相手に積極的に仕掛ける場面もあり、上々のデビューとなったのではないだろうか。

 これまで右WBはチドジー・オグベネ、左CBはアマリ・ベルがほぼ固定で出場している。橋岡はWBも含めた守備ラインのバックアッパーとして使われるか、あるいは右WBのオグベネとポジションを争うことになるか。

 どのように使われていくかは、もう少し見ていかなければわからない。チームは18位と降格圏内だが、17位のノッティンガム・フォレストとはまだ勝ち点4差。橋岡らしいダイナミックなプレーでポジションを掴み取り、残留に貢献してもらいたい。

【壮絶な上位3チームの優勝争い】

 今季の優勝争いは現在1位のリバプール、2位のマンチェスター・シティ、3位のアーセナルの3つに絞られただろう。1位から3位まで勝ち点差2とあまりに拮抗しているため、優勝の行方は正直わからない。

 ただ、3連覇中のシティは、ここからの戦いを熟知しているし、昨季もそうだったが終盤でほとんど負けない勝負強さ、メンタリティがある。また、ケガで離脱していたアーリング・ハーランド、ケビン・デ・ブライネら役者が復帰し、凄まじい活躍をしている。その他のケガ人もほぼおらず、現時点ではわずかにシティが優位だと思っている。

 アーセナルは昨季と違って追う立場であることによって、ここから先は安定したメンタルで戦えるかもしれない。ハマった時の攻撃力はすごいし、パスワークは非常に綺麗だ。ただ、綺麗なだけではなく、厳しい戦いのなかで勝ちきらなければいけない。ギリギリの戦いでどれだけ勝ち点を取りこぼさないか。ミケル・アルテタ監督の選手のやりくりを含め、采配に注目したい。

 首位を走るリバプールは、ケガ人さえこんな状況でなければ、優勝最有力に推したいところだ。とにかく中盤から前線の負傷離脱している主力選手たちをどれだけ回復させ、スカッドに戻すことができるか。それまでは我慢の試合が続くなかで、遠藤の活躍が必須だろう。

【好カードが続く3月】

 3月10日にはアンフィールドでリバプール対シティがあり、3月31日にはエティハド・スタジアムでシティ対アーセナルが控えている。

 ホームにシティを迎えるリバプールは、アンフィールドで戦えることが大きなアドバンテージだ。第26節のルートン・タウン戦でも前半に先制されて折り返すが、後半に2分間で2点を入れ、雰囲気がガラリと変わって流れを引き寄せると、最終的に4−1と大勝した。ひとつのキッカケで空気を一変させ、対戦相手を一気に飲み込んでしまう恐ろしいスタジアムだ。

 シティもホームのエティハドではめっぽう強い。ただ、アーセナルはコミュニティシールドで勝ち、第8節ではリーグで8年ぶりに勝利。今季、シティに2連勝したことで苦手意識を克服しただろう。

 前人未到の4連覇を狙うシティか、クロップラストシーズンの花道を飾りたいリバプールか、2003−04シーズンの無敗優勝以来となる20年ぶり頂点を狙うアーセナルか。近年稀にみる接戦となっている三つ巴は、それぞれに違った高いモチベーションがある。その優勝争いを占う上で重要な1カ月となる3月のプレミアリーグから眼が離せない。

水沼貴史 
みずぬま・たかし/1960年5月28日生まれ。埼玉県出身。浦和南高校、法政大学で全国優勝を経験。JSL日産自動車でも数々のタイトルを獲得し、チームの黄金時代を築いた。日本代表では国際Aマッチ32試合出場7ゴール。Jリーグスタート時は横浜マリノスで3シーズンプレー。引退後は、横浜F・マリノスのコーチや監督を務めた。現在は解説者として活躍中。

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