スイス生まれの家具『USMハラー』は、真の一生もの。組み立て方を覚えれば、楽しみは倍増する

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2024年03月09日 08:11  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
我が家は目下、引っ越し祭りの真っただ中。


家族で長年暮らした家の中にはモノが溢れすぎていてなかなか大変なのだが、せっかくのタイミングだからこの際、古くなってガタがきている家具はどんどん処分することにした。

○■1960年代に開発された、画期的な“モジュラーシステム家具”



ひとつひとつ吟味し、引越し先でこれからも使うものと、ここでサヨナラするものに仕分けしていく。

すると、やっぱりというべきなのか、「処分」の付箋を貼る家具は、某北欧系家具メーカーのものばかりとなる。



決して、けなそうと思っているわけではない。

おしゃれなデザインなのに驚くほど安く、かゆいところに手が届くような便利アイテムが多く、コンパクトにパッケージされているため買いやすい某北欧系には、これから先もきっと大変お世話になると思う。

だけど耐久性という面では、やはり少々厳しいと言わざるを得ない。

“家具だって消耗品だ”と割り切れるほどの値段設定なのだから、それはそれで悪いことではないと思っているのだが。



翻り、我が家の家具の中には消耗どころか、すでに購入から20年以上経過しているのに、まったくビクともしていないものもある。

それが今回ご紹介するUSM社の看板商品、『USMハラー』なのだ。



USMとは、スイスの家具メーカー。

1885年創業の老舗で、錠前業の会社として設立されたが、20世紀に入ってからは窓用金物や蝶番、精密加工された鋼板の生産にも携わるようになった。

家具事業を展開するようになったのは1960年代のこと。

1963年には、建築資材のように一定の規格に沿って作られた個々の部品を組み合わせることで、多様なニーズに応じて調整できる汎用性の高い“モジュラーシステム家具”を開発する。



ボール状のパーツで連結したパイプに、パネルをはめていく形を基本とするこの独創的な家具は当初、USM社のオフィスのみで使用することを想定した非売品だった。しかし汎用性や耐久性に優れ、デザインも秀逸だったことから注目され、1969年には一般販売が始まった。

それこそが『USMハラー』なのである。


○■相当な重量のあるものを入れて20年使っても、まったくガタがきていない



誕生の経緯から窺えるように、基本はオフィスで使われることの多い事務系家具なのだが、シンプルでソリッドなデザイン性と、組み合わせ次第で無限のバリエーションを生み出せる汎用性から、一般家庭にも広く普及。

特にインテリアにこだわるオシャレさんの家には、昔も今も『USMハラー』が鎮座している光景がよく見られる。



このスチール製の名作家具を、我が家に迎え入れたのは20数年前。

しかしググっていただければわかると思うが、こちら、結構なお値段がする。

購入を思い立ち店頭で金額を確認した僕も、「う。たっか…」と一旦はひるんだ。だが当時は結婚したてだったし、新居のマンションを購入したタイミングだったので感覚が麻痺気味で、3ユニット連結の大きめなシステムをエイヤと購入したのだった。


しかしそれから幾星霜を経た現在、あのとき思い切って良かったなとしみじみ思う。



僕の『USMハラー』は、収納部の大部分をCDのために費やしている。

今のようなストリーミングとサブスクの時代になる前、音楽マニアの僕は、自分でもあきれるほど頻繁にCDを買っていて、コレクションの量は膨大だ。

あまりにも場所を取るので、そのほとんどは元のプラケースを処分し、薄く収められるソフトスリーブに入れ替えたのだが、それでも相当に嵩張り、全体の重量はシャレにならないほど。


しかしこの『USMハラー』なら、引き出し式収納部にCDをぎっちり詰め込んでも、ほんの少しの力で滑らかに開閉できる。

長年にわたり使い倒しても、パーツが歪んだり曲がったり、結合部が緩んだり外れたりといった、一般的な家具に起こりがちな不具合はまったくなく、新品で購入したときと変わらぬ働きをしてくれる。

本当に素晴らしい耐久性なのだ。


今の時代、さすがの僕ももうこれ以上はCDを増やさないとは思うが、いつか断捨離の決心がつくまで、当分はこのアホみたいな量のCDコレクション保管庫として、『USMハラー』君にはしっかり頑張ってもらいたいと思っている。

○■自力で解体&際組み立てできる技を覚えれば、楽しみはさらに広がる



ちなみに『USMハラー』の難点は、特殊な方法で連結されているので、素人には分解が難しい(とされている)こと。

そのため、特に大きめのシステムを組んでいる場合、移動させる際にはいちいち業社を呼んで解体・再組み立てをしてもらわなければならない。という理解がユーザーの間には広まっている。



我が家のシステムも、過去2回の引っ越しでは、業者に解体と再組立てをお願いし、その都度それなりの料金を支払った。



…ところが!

『USMハラー』の解体&組み立ては意外と簡単だという耳寄り情報を、今回の引越し前にゲット。

さっそく下調べのうえ、いくつかの工具を用意して自力で解体を試みた。


引っ越しのためだけなのですべてバラバラにする必要はなく、3ユニットのうちの真ん中だけをバラせばいいということもあって、作業は約15分ほどであっけなく完了。

情報どおり、特別な道具も技術も必要なかった。

もともとシステマティックな家具だから、1箇所の結合部でその仕組みを理解すれば、全体的に当てはめることができるので簡単だったのだ。


僕はおそらく、この丈夫で美しく実用的な家具『USMハラー』を死ぬまで使い続けると思う。

バラし方と組み立て方を習得したので、これからはパーツを買い足して自力でカスタムするという楽しみも加わった。

これぞ“一生もの”と呼ぶにふさわしいアイテムだと確信している。



文・写真/佐藤誠二朗



佐藤誠二朗 さとうせいじろう 編集者/ライター、コラムニスト。1969年東京生まれ。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わり、2000〜2009年は「smart」編集長。カルチャー、ファッションを中心にしながら、アウトドア、デュアルライフ、時事、エンタメ、旅行、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動中。著書『ストリート・トラッド〜メンズファッションは温故知新』(集英社 2018)、『日本懐かしスニーカー大全』(辰巳出版 2020)、『オフィシャル・サブカルオヤジ・ハンドブック』(集英社 2021)。ほか編著書多数。新刊『山の家のスローバラード 東京⇆山中湖 行ったり来たりのデュアルライフ』発売。
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