「EX30」の質感と性能にボルボの本気を見た! 試乗で調整不足な部分も発見?

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2024年03月09日 11:41  マイナビニュース

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ボルボの新型車「EX30」はSUVタイプの電気自動車(EV)だ。サイズや航続距離などは日産自動車「リーフ」に近く、価格ではレクサスのハイブリッド車「LBX」と同じくらいの立ち位置となる。ボルボとしてはEV専業メーカーへの転換に向けた試金石となる1台だが、出来栄えは? 試乗してきた。


ボルボEX30のライバルは?



EX30はボルボで最も小さなEVだ。自らを「プレミアムブランド」とするボルボの競合といえるかはわからないが、価格帯やフル充電での航続距離、ボディサイズなどが似ている車種としては日産自動車「リーフe+」が挙げられる。EVではないが、ハイブリッド車(HV)のレクサス「LBX」もサイズ感としてはEX30に近い。輸入車で人気の小型SUVといえばはテスラ「モデルY」だが、こちらはEX30と比べるとだいぶ大きい。


EX30の車載バッテリー容量は69kWhで、リーフe+の60kWhをやや上回る。EX30の一充電走行距離は560km、リーフe+は450kmだ。モデルYのRWDは507kmである。

EX30の特徴は?



EX30の特徴はボルボで初めてEV専用プラットフォームを採用していること。これまでもボルボはEVを販売してきたが、「C40」や「XC40」などの既存車種は、いずれもマイルドハイブリッド車(MHEV)のプラットフォームがベースだった。つまり、エンジンも搭載できる車台を使ってEVを作っていたのだ。



ボルボは将来的に、EV専業メーカーとなることを目指している。EX30は、その目的に向かうための最初のEV専用車となる。このモデルの販売動向が将来を占うと同社は考えているようだ。



日本では、まずは「EX30 ULTRA SINGLE MOTOR EXTENDED RANGE」というひとつのグレードに絞ってEX30を販売する。車名が示す通り搭載するモーターは1基。駆動方式は後輪駆動だ。XC40のEVは、当初は前輪駆動だったが先ごろ後輪駆動に切り替わった。EX30が後輪駆動なのも、これを受けてのことだろう。


後輪駆動にはいろいろといいことがある。ひとつは、運転の喜びがより実感できる走行感覚が得られるところ。ふたつ目は、前輪の役割を操舵だけに割り切れるため小回りが利き、活気ある走りを期待できるところだ。

いよいよ試乗! テスラとの共通点が多い?



EX30と実際に対面してまず思ったのは、小柄ではあっても上質で格好いいSUVであるということだ。



ボルボはサイズの違う3種類のSUVを発売した際に、大柄な「XC90」を「フォーマルな革靴」、中くらいの「XC60」を「カジュアルなスリッポンの革靴」、小さな「XC40」を「上質なスニーカー」と表現したことがある。つまり、サイズの大小は価値の高低に直結せず、それぞれに独自の価値があるという意味だ。EX30も、単に安さを売りとする小型EVではなく、所有する喜びが感じられる1台に仕上がっていることが外観から伝わってきた。


キーを持ってクルマに近づけばドアロックが自動的に解錠され、乗り込んだらイグニッションスイッチを操作しなくても走行可能な状態となっている。これはテスラでもおなじみの手法だ。EVメーカーを目指すボルボも、EV専用車となるEX30からは、テスラ的なEVベストの考えをなぞることになったのだろう。座席のポジションやドアミラーの位置など、さまざまなものの調節はダッシュボード中央の画面で行う。これもテスラに近いやり方だ。


EX30ではアクセルペダルを離せばクルマを停止までもっていける「ワンペダル走行」が可能。試乗では、このモードで一般道と高速道路を走行した。



加速は発進から滑らかで、意図通りの速度に素早く達する。アクセル全開を試すと強烈な瞬発力を味わえた。いわゆる「ゼロヒャク加速」は5.3秒だ(試乗会のプレゼン資料に記載の数値。HPでは5.4秒になっている)。これもEVならではの特徴で、加速がスゴイというよりも、アクセルペダルの操作で自在に速度を調節できると言った方が実感に近い。EVというのは、ドライバーの意思を的確に反映する運転しやすいクルマなのだ。

EX30の気になる点は?



ワンペダル操作による減速では、回生の効き(アクセルペダルを戻した際のブレーキの強さ)がやや足りないと感じた。もう少し強めに回生が働く方が、ペダル操作で素早く速度調整できる。また、アクセルペダルを完全に戻して停止する際も、ゆっくりと前進してから止まるので、停止線を正確にとらえるのが難しかった。ワンペダル走行を採用するなら、アクセルペダルを完全に戻したら即座に止まるようにするべきだ。これらの制御に関してボルボ・カー・ジャパンは、試乗前に「実はまだ調整が完璧ではない」との注釈をつけていた。



同じことは「ADAS」(Advanced Driver Assistance System=先進運転システム)の「アダプティブクルーズコントロール」(ACC)にもいえる。



ACCの操作はこれまでのテスラ車同様(最新のモデル3は除く)、シフトレバー(ハンドルの右の裏側に付いている)を「D」方向(下)に操作することで起動する。ACCの設定速度を調節するにはハンドルの左スポークに付いている矢印の描かれたボタンを操作する。右手で起動させて左手で調節するというのは、煩雑で複雑だ。なおかつ、ボタンを押した際の速度設定の反応が遅れがちで、希望の速度を定めにくい。この操作は運転しながら行うので、時間がかかると前方から目線をそらす時間が長引いてしまう。ここも、電子制御の調整不足だろう。



車線維持の機能も起動させるとなると、やはりハンドル左スポークのボタンを押す必要がある。右手と左手の使い分けは運転中の頭を混乱させる。



もうひとつ、ダッシュボード中央の大画面を使った速度表示は、表示自体は明瞭ではあるものの、前を見て運転している際、視界に表示が入ってこない。


テスラの大画面は「モデル3」から横長の長方形となり、前を見て運転していても、速度表示が自然に視界の片隅に入ってくる。速度を確認するために進行方向から目線をそらさずに済むのだ。



テスラ方式を範としたEVの合理性への挑戦は評価できる。だが、それをいかに使いこなし、運転者が違和感なく操れるようにするかという「HMI」(Human Machine Interface=人と機械の接点)の面で、ボルボはまだ学ぶ必要がありそうだ。

結論:EX30の廉価版導入に期待!



気になる点をいろいろと書き連ねたが、小型EVとしての扱いやすさや走行性能の高さ、上質な室内の心地よさといった点は、EV専用自動車メーカーを目指すボルボの本気度を感じさせる出来栄えだった。



EX30の日本導入グレードは559万円という価格設定だ。リーフe+は約525〜583万円、モデルY(RWD)は約563万円、LBXは460〜576万円なので価格帯は近い。EV購入で受け取れる65万円のCEV補助金を考慮すれば、EX30の価格は500万円を切る。EVのSUVとしては、手の届きやすい価格だと言えるのではないだろうか。



そのうえで、EX30の販売動向(台数)が将来のボルボの行方を占うと考えるなら、より廉価なグレードの導入も積極的に検討すべきだ。なぜなら、EVであれば車両価格の上下で走行性能や快適性に大きな差が出るわけではなく、値段の違いは装備の差と割り切れるからだ。



EVの本質的なよさ、ボルボならではの魅力をさらに広めるなら、廉価車種こそ勝負の決め手になると私は考える。


御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら(御堀直嗣)

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