富士フイルム「X100VI」を試す クラシカルなボディに手ブレ補正も搭載、中身はほぼ“最新のX”に

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2024年03月09日 18:51  ITmedia NEWS

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伝統的なフィルムカメラのボディにハイブリッドビューファインダーというX100シリーズの最新モデル「X100VI」。3月28日発売予定

 3年ぶりの登場である。世の中のカメラがスマートフォンかミラーレス一眼かに二分されてるような情勢の中、ハイエンドコンパクトの新作が出たのだ。


【その他の画像】


 富士フイルムの「X100VI」である。X100の6代目。


 このクラスのカメラは、ほぼリコーの「GRシリーズ」と富士フイルムの「X100シリーズ」のみであり、高画質なスナップカメラを欲しい人にとって、これらが継続して出るのはとても大事だ。ただ、GRシリーズは受注を一時停止しているので、否が応でもX100VIへの注目は高まる。


 そういえば、GRもX100も代を重ねても一目見ればそれと分かるデザインコンセプトを貫いているのも特徴だ。X100は、1960年代から70年代前半くらいのコンパクトカメラのテイストをしっかり表現してるのがユニークな点。下の写真は2代目の「X100S」(2013年発売)と新製品のX100VI。


 そしてX100VIは前モデルX100Vとボディ自体はほぼ変わらないながら、中身がほぼ最新のX(X-T5相当)に進化してるのである。


●伝統的ボディと最新のデジタルが融合したX100VI


 正面から見ると実にクラシカルで光学ファインダーがポイント。


 レンズは23mmF2.0(35mm判換算で35mm相当)とずっと変わらず(レンズ自体は一度リニューアルされている)。


 往古のカメラではセルフタイマーレバーが置かれていた場所にあるレバーは、ファインダー切替用。光学ファインダーとEVFを切り替えられる「ハイブリッドビューファインダー」が特徴だ。EVF時はシャッターが閉まるので分かる。


 ファインダーの話は後でする。


 レンズの奥には、APS-Cサイズの裏面照射型センサー。約4020万画素の「X-Trans CMOS 5 HR センサー」でX-T5やX-H2と同じ。前モデルから画素数の大幅アップだ。


 レンズは非常に優秀で、少し絞ると細いワイヤーまでしっかりと解像してくれる。


 大きく変わったのはボディ内手ブレ補正の搭載。


 おかげで手持ちでスローシャッターもできる。しかも、NDフィルターを内蔵しているので、その分シャッタースピードを落とせるわけで、1秒のシャッタースピードで撮影した。


 NDフィルターはもともと晴天下でも絞り開放で撮りたいとき用、という位置づけだったが、手ブレ補正がついたことでより幅広く使えるようになった。


 ISO感度はISO125から12800だけど、拡張ISO感度でISO51200まで上げられる。さらに、シャッタースピードはメカシャッター(レンズシャッターなので非常に静かだ)だと1/4000秒までだけど、電子シャッターにすると1/180000秒まで(ゼロの数は間違えてません。数えました)。


 同じ日時に同じ場所でこの両極端な写真を撮れちゃうのだから面白い。


 X100Vをベースに中身が「最新のX」になったのだから、「見た目のクラシックさからは想像不可能な設定で撮れる」というなんとも不思議なことになってて、見た目や操作感とやたら高性能なののギャップが面白いのだ。


●クラシックな操作とフィルムシミュレーション


 と、極端な例はおいといて、基本的には画素数が上がり、手ブレ補正もついてよりハイレベルなスナップ撮影ができるコンパクトカメラだから、そういう話をしたい。


 その気持ちよさは極めてシンプルな操作系と気持ちよい速度感にもある。


 上から見るとよく分かる。


 絞り・シャッタースピード、露出補正、ISO感度にそれぞれ専用のダイヤルが割り当てられており、直感的にセットできる。


 絞りとシャッタースピードとISO感度を全部AにすればプログラムAEだし、そのシーンに応じて重要なものを手動でセットし、あとはAにしておくというのもいい。


 ISO感度とシャッタースピードは同じダイヤルになっており、リング部分を持ち上げて回すとISO感度を変えられる。


 シャッタースピードは1段刻みで最高が1/4000秒どまりだが、ダイヤルにない速度は電子ダイヤルを回してセットできる。


 さすがに1/180000秒まで上げようと思うとダイヤルをいっぱい回す必要があるけど、日常的に使う速度じゃないからね。


 レンズ周りのリングは、MF時はフォーカスリングとして、AF時はカスタマイズして、クロップズーム(50mm相当と75mm相当。その分画像サイズは小さくなる)に割り当ててもフィルムシミュレーションに割り当ててもいい。


 シャッターは中央にケーブルレリーズ用のネジが切ってある伝統的なスタイルで、ケーブルレリーズをつないで撮ることもソフトシャッターをつけることもできる。


 背面はシンプル。富士フイルムらしく、十字キーがなくスティックだけだ。


 画面は被写体検出で人物の瞳検出をオンにした場合。目に枠が出ているのが分かる。


 夕刻の順光と逆光で撮ってみた。高画素モデルならではのスムーススキンエフェクトも搭載しており、逆光の方はそれを「強」にしたものを採用。


 ちなみに、オフと強の差はこのくらい。アップにしてしまって申し訳ないけど、確かに効果が出ている。


 さらに今回、被写体検出AFが搭載された。


 動物・鳥など全部で6パターン。23mm単焦点のカメラで鳥や飛行機の検出が必要なシーンはまずないだろうけど、削ったからコストが下がるというものでもないので、不要なものは使わなければよし。


 被写体検出を動物にして、猫を撮影した。


 ほわっと明るめに撮りたかったので+2の補正をかけてある。


 背面モニターは162万ピクセルのTFT液晶と一般的なもので、上下にチルトする。


 ファインダーはハイブリッドビューファインダーで、EVF時は約369万ピクセル。なお、周辺が流れているのはスマートフォンのカメラで撮ってるせいもある。実際に覗いているときは感じないのでご了承を。


 レバーで光学ファインダー(OVF)に切り替えるとこうなる。撮影範囲の枠が出てその周辺の撮影情報がオーバーレイされる感じ。こちらも周辺が流れているが、実際に目で覗くときは少しアイピースから離れるのでここまで広くは見えない。


 なお、OVF時は被写体検出AFは効かない。


 今回から水準器が3D表示に対応したが(左右の傾き+前後の傾き)、3D表示時はOVFは使えないので、OVFを使う人は2Dにすべし(最初、これに気づかなくて焦った)。


 さらにレバーを反対側に倒すと、右下に小さなEVFが現れて指定したフォーカスエリアのアップを表示してくれる(エレクトリック・レンジファインダー)。MF時に役立つ仕組みだ。


 光学ファインダーで撮りたい人にも対応する富士フイルムならではの仕組みだが、X100VIの新機能(特に被写体検出AF)を味わいたいなら、EVFで撮る方がいい。


 ただ、かっちり構図を決めたり細かい撮影設定にこだわらず、さっと覗いて撮りたい瞬間をぱっと撮りたいときはOVFの方が細かい事が気にならなくて良い。


 ときにはそうして撮った方が味のある写真になったりするところも面白いのである。


 先ほどのモノクロのカットはフィルムシミュレーションのACROS。このモノクロのフィルムシミュレーションは個人的に気に入っており、ちょっとしたスナップについ使ってしまう。


 富士フイルムといえばフィルムシミュレーション、ということで、X100VIでは前モデルに「REALA ACE」が加わった。


 ACROSとモノクロにはそれぞれフィルター付バージョンもあり、フィルムシミュレーションは合計で20モードもある。


 フィルムシミュレーションの数が増えて、選ぶのが大変になったほど。頻繁に変更する人はコントロールリングに割り当てると便利だし、フィルムシミュレーションブラケットを使えばセットしたフィルムシミュレーションを「3つ」まで自動的に生成してくれる。ここまで増えると、3つでは足りないので5つはセットしたいところだ。


 フィルムシミュレーションには撮影するシーンによってハマったりハマらなかったりする。


 これはハマった例。駅の改札口。人が非常に多いので、1秒のスローシャッターでクラシックネガで撮ってみた。「彩度を抑えつつも明部と暗部の色味を変えることで深みを増した色で、立体的な表現が得られます」と解説にある。


 X Summit TOKYO 2024では来場者に対して「一番使うフィルムシミュレーションは?」というアンケートがあった。断トツで首位だったのが「クラシッククローム」。大きく離されて2位だったのが「クラシックネガ」。レトロな描写への人気が分かる。


 わたしも「クラシッククローム」は好きなのでよくわかる。特に屋外で撮ると差が分かりやすい。


 最後に夜の写真。


 ちなみにこのレンズは10cmくらいまで寄れるし、絞り開放時でも背景はきれいに丸くボケてくれる。スナップ撮影には最高だ。


●日本での発売価格は上がってしまったけど


 今回、X100VIを使ってみて感じたのは、クラシカルでアナログ系でメカっぽいX100らしさと中身のX-T5やX-H2で採用された最新技術部分のバランス。技術の進化は後者にのっかってくるのでそっちが強くなってくるのは当たり前ではあるけど、そっちが強くなってきてるかなと。機能が非常に増えてしまった。


 ただ、後者に関しては操作をうまくカスタマイズし、一度自分にあったセッティングをしてしまえば、あとはX100らしい伝統的なカメラの操作で気持ちよく撮影できるので、最新技術のおいしいところ(手ブレ補正やAFの賢さや速さ)を享受しつつ、撮影時はダイヤル操作と構図とタイミングに気を配って気持ちよくスナップを撮ればOkだと思う。


 首から提げて歩いてると、気持ちよくサクサクといろんなものを感じたままに撮ってしまうカメラなのだ。


 懸念があるとすれば価格かな。


 X100Vは、米ドルで約1400ドルだったのに対し、日本円では発売時の市場想定価格が18万円くらい(税込)だった。X100VIは1599米ドルなのに対し、日本円での価格は28万1600円(フジフィルムモール)と円安もあいまってぐっと上がってしまった。


 悩ましいところであるが、持っていると単焦点コンパクトならではの感覚的なスナップをさっと撮れる魅力的なカメラなのである。


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