なぜFC町田ゼルビアはJ1でも快進撃ができているのか 中途半端なチームは今後軒並み食われる可能性

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2024年03月11日 17:21  webスポルティーバ

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J1でもFC町田ゼルビアの快進撃が見えてきた。開幕3戦を詳細に見ても、昨年J2で見せた、強固な守備の再現性の高いサッカーはJ1でも猛威を振るいそう。まだチームを構築段階などというところは、今後軒並み食われていきそうな感じだ。

【狙いどおりに結果を出している】

 J1でもFC町田ゼルビアの快進撃が始まった。開幕から3試合を終えて勝ち点7を積み上げ、柏レイソルと並んで2位につけている。

 昨季、黒田剛監督を招聘し、新体制となった町田はクラブ初のJ2優勝・J1昇格と旋風を巻き起こした。高校サッカーの監督がプロでは通用しないという、懐疑的な周囲の声を結果で黙らせた。

 今季においても「J1はそんなに甘くない」と、町田のサッカーを疑う声は少なくない。そんななかで2勝1分のスタートダッシュだ。町田は間違いなくJ1で通用しているし、この結果は決してフロックではない。

 なぜならば、昨季と同じスタイルを精度、強度ともに高く徹底し、再現性の高い試合内容で、狙いどおりに結果を出しているからだ。しかも、開幕戦の先発は半数以上が新加入選手である。

 町田はチームとしての狙いや優先順位、選手個々に課せられた役割が明確だ。それを緻密かつ徹底させることができるコーチングスタッフが揃っているため、キャンプのトレーニングを終えた頃には非常に練度の高いチームに仕上がった。

 この2勝1分は接戦を死に物狂いで拾ったのではなく、やるべきことを高い基準で遂行し、確実に掴み取ったのだ。どの試合も内容はスコア以上に相手を圧倒したものだった。

【選手たちは口々に手応えを語る】

 開幕のガンバ大阪戦は、黒田監督が前半を「プランどおりにいった」と振り返るように町田が終始圧倒した。

 全体のラインがコンパクトで、トランジションやスライド、寄せが速いというのは、町田の守備の基本だ。その上で2トップが相手アンカーへのパスコースを消しながらDFラインにプレスを仕掛け、待ち構えるサイドへ誘導、あるいはロングボールを蹴らせた。

 G大阪のビルドアップはサイドで詰まり、意図しないロングボールの競り合いでも、高さのない前線と町田のセンターバック(CB)ではどちらに分があるかは明らかだった。

 G大阪がアンカーひとりから2ボランチにしても、町田は2トップを横並びにし、すぐに対応した。カウンタープレスも速く、決してサボらない。チーム全体でのプレスは、中途半端に寄せるのではなく、奪いにいく強度で常にプレッシャーを与えた。

 攻撃の狙いもはっきりとしている。長身FWオ・セフンを生かしたポストプレー(FW藤尾もターゲットになれる)から、FW藤尾翔太や両ウイングのバスケス・バイロン、平河悠によるサポートの連動性はよく訓練され、高確率でセカンドボールを拾った。

 さらにサイドのスペース、あるいは足元でパスを受け、バイロン、平河の推進力、キープ力で幾度も起点を作ってサイドをえぐった。両ウイングがJ1でも質で優位を取れるタレントであることを証明した。

 前線のタレントを生かしてペナルティーエリア横にボールを運ぶと、そこで得たコーナーキック、ロングスローで強制的に相手をゴール前へ押し込んでいく。

 そしてペナルティーエリア手前に3人を置き、こぼれ球を拾う布陣を敷きながらゴールのニアゾーンにロングスローを放り込む。セカンドボールを拾い、再度クロスを入れる、あるいはミドルシュートを打つところまでセットで狙いを持っている。

 ロングスローはボールの勢いが弱い分、ヘディングで遠くへクリアするのが難しい。中途半端なクリアボールを町田の選手がことごとく拾い、2度、3度と攻撃が続いていく。たまらずタッチラインへ蹴り出せば、再びロングスローだ。このループに一度ハマると、相手は簡単には抜け出せない。

 町田のシュート数が13(枠内9)、G大阪が2(枠内2)という数字の上でも町田が優勢に前半を終えた。

 しかし、後半60分にMF仙頭啓矢が2枚目のイエローカードで退場処分。町田は2トップによるプレスを諦め、ミドルブロックで構える守備で残り35分を耐える展開となった。

 FW宇佐美貴史の見事なFKで初勝利は逃した。しかし、クラブとしてJ1初ゴールを記録したDF鈴木準弥の「退場者が出るまでは思い描いたサッカーができていた」という言葉どおり、選手たちは口々に手応えを語り、ひとり少ないなかで引き分けたことをポジティブに捉えていた。

【昨年のJ2時と同じ勝ちパターン】

 第2節の名古屋グランパス戦は3−1−4−2のシステムで、G大阪とは異なる噛み合わせとなった。昨季の町田は、相手が3バックだと数的優位を取られ、前線のプレスがうまくハマらないと苦戦することもあった。

 しかし、この試合では2トップで相手アンカーへのコースを消しながら左右のCBにボールが動くまで構える、あるいは動くように誘導。サイドにボールが入ると中を切りながら追い込み、一気にプレスで圧縮。これで名古屋は効果的にボールを運べなかった。

 特徴的だったのは、名古屋のウイングバック(WB)への対応だ。両WBに対して、町田はサイドバック(SB)が深追いせずにウイングにマークを受け渡し、名古屋が狙ってくるSB裏のスペースを簡単には空けなかった。

 バイロンと平河は3バックの左右CBも見ながらWBへも対応し、優先順位、バランスが非常に整理されていた。そうして守備がハマればG大阪戦のように、ウイングの突破力とキープ力、2トップの高さと強さで相手を押し込んでペースを掴んだ。

 そして前半21分、ロングスローのクリアボールを拾ったDF鈴木のクロスにFW藤尾がヘディングを合わせて先制。狙いどおりの展開からリードを奪った。

 その後も名古屋は町田の守備を前にチャンスを作れず。先制してクリーンシートでゲームをクローズする勝ちパターンで、2戦目にしてJ1初勝利を掴んだ。

 第3節鹿島アントラーズ戦は、ランコ・ポポヴィッチ監督が「一番やりたくなかった入り方をした。ロングボールを蹴らされ、相手のサッカーにつき合ってしまった」と振り返ったように、町田がこれまでと同様の守備で制限をかけ、ロングボールを蹴らせ、主導権を握った。

 この序盤の入り方について、黒田監督は選手にこう話したという。

「序盤から勢いに飲まれると一気に主導権を持っていかれる。逆に相手の長所を消し、自分たちのストロングで上回れば、相手が怯んだり、一歩停滞することもある。相手の勢いを完全に潰していこう」

 まさにそんな立ち上がりから鹿島を圧倒した。そして前半13分にMF佐野海舟からバイロンがボールを奪い、MF柴戸海がワンタッチで藤尾に縦パス。それを藤尾が丁寧に落とし、左から走り込んだ平河が決めて先制点を奪った。

 その後鹿島は、ビルドアップで佐野やMF樋口雄太が一列下りるか、あるいはGK早川友基が参加して数的優位を作り、町田のプレスを回避することで徐々に前進できるようになった。しかし、町田がミドルサードで構えるブロックの守備に対して、鹿島は崩すほどのクオリティ、コンビネーションは示せなかった。

【守備はより強固に イレギュラーにも慌てない】

 2連勝で勝ち点7を積み上げた町田の強さを支えるのは、強固な守備である。ここまで失点はG大阪戦の宇佐美のFKのみで、流れのなかから失点はしていない。その要因を黒田監督はこう説明する。

「前のプレスで制限できていることもひとつ。それからクロスの本数を減らせていること、またはクロスの守備でフリーにさせないこと、背中に潜り込まれないこと。ここをかなり細かく調整している。だから変にフリーの状態でシュートを打たれる局面もなかなかない。キャンプからしっかりと積み上げてきたこと、去年から思考してきたことを彼らの高いレベルのなかで順応し、実践してくれている成果だと思う」

 昨季はクロスを上げられても跳ね返す強さがあったが、今季はそこもありながらサイドへ追い込んだ時に素早く距離を詰めてクロスのコースを制限。そもそも有効なボールがゴール前にほとんど入っていない。

 鹿島戦ではFW鈴木優磨が町田の空ける中盤のスペースへ下りて起点を作られた。側から見れば嫌なプレーに映るが、柴戸海は「気にしていなかった」という。

「中盤で数的優位を取られてそこにボールが入ってしまうこともあるけど、前線からひとり下がることで相手は後ろに人数を割いているので、しっかりと戻りさえすれば相手の攻撃を断てると思っていた」

 少しくらいイレギュラーなことをされても、チームでやるべきこと、優先順位がはっきりとしているので、町田の選手たちが慌てることはない。

【対策されれば落ちていくか!?】

 当然、課題もある。3試合とも1得点で、複数得点が取れていない。フィニッシュの精度をもっと高めなければ、G大阪戦のように取りこぼす試合は出てくる。ただ、チャンス自体は作れているし、その数も多い。また、昨季18得点のエリキが復帰することで解決できる部分でもある。

 好調な町田を見て「今はよくても対策されれば落ちていく」と予想する人もいるだろう。しかし、町田こそ相手の対策を徹底してやりたいことをやらせず、自分たちのペースに引き摺り込むチームだ。

 町田がボールを持てば、ロングボールを入れてCKやスローインを取ろうとしてくるし(鹿島DF植田直通でもFWオ・セフンに手を焼いた)、相手がボールを持てば、よく訓練されたタイトな守備から鋭いカウンターを仕掛けてくる。

 これを上回るには、ロングボールを跳ね返し続け、強烈なプレスを回避できる質の高いビルドアップが求められる。あるいは前線の個によって優位を取るか。それができずに名古屋、鹿島は敗れ、G大阪も町田がひとり少なくなっていなければ、そうなっていたであろう内容だった。

 今後、まだチームを構築段階のクラブは、町田の一貫性あるスタイルに軒並み食われる可能性は高いだろう。逆にサンフレッチェ広島やヴィッセル神戸など、すでに完成度の高いサッカーをするチームを相手にした時、どんな戦いを見せるのかは興味深い。

 パリ五輪を目指すMF平河は、初のJ1で「今のところ壁はそこまで感じていない」という。この快進撃はどこまで続くのか。町田は、J1でも台風の目になろうとしている。

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