日本発の「ものづくり」「おもてなし」で世界をリード――JEITAの「日米デジタル経営調査」結果から考察

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2024年03月12日 07:11  ITmediaエンタープライズ

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左からJEITA ソリューションサービス事業委員会の石橋委員長、小堀副委員長

 経営の視点からデジタル活用を進める「デジタル経営」において、日米の企業の間にはどのような意識や取り組みの違いがあるのか――電子情報技術産業協会(以下、JEITA)がそんな調査結果を2024年3月6日に発表した。その内容が興味深かったので、今回はこの話題を取り上げ、日本企業の針路について考察する。


日本発の「ものづくり」「おもてなし」で世界をリード――JEITAの「日米デジタル経営調査」結果から考察


 JEITAのソリューションサービス事業委員会がIDC Japanと共同で実施した「日米デジタル経営調査」は、デジタル経営に関連する内容について、民間企業の非IT部門のマネージャーおよび経営幹部を対象に2023年10〜11月にアンケートを実施し、日米それぞれで約300社から回答を得た。その結果について、同委員会 委員長の石橋潤一氏(富士通 サービスプラットフォーム品質マネジメント室長)と同副委員長の小堀賢司氏(NEC ソフトウェア&システムエンジニアリング統括部長)が発表会見を開催して説明した。


 以下、筆者が注目した発表内容について、両氏の説明を紹介する。


●まだ「守りのIT投資」の比重が高い日本企業


 IT投資が増加する理由を聞いた結果を見ると(図1)、日米ともに企業のIT投資は増えているが、その理由には違いがあることが分かった。図1のグラフは、左側に「守りのIT投資」、右側に「攻めのIT投資」の項目が並ぶ。日本(赤線)と米国(青線)の傾向が示されている。


 日本は左側の「守りのIT投資」に寄り気味なのに対し、米国はバランスがとれている。ちなみに点線は2020年度実施された調査結果を示しているが、日本が左に寄り気味なのは変わらない。この点については、以前から指摘されており、直近でもその傾向は変わらないというのが実態のようだ。


 図2は、デジタル経営およびDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組み状況を示したものである。横棒グラフの上が日本、下が米国だ。ここでの注目点は、横棒グラフの左側の濃淡ブルー色領域を「経営戦略とデジタル戦略が一体化している」と捉えると、米国が53.9%(24.1+29.8)なのに対し、日本は26.4%(14.5+11.9)と半数以下にとどまっているところだ。日本で最も割合が大きいのは、「小規模なパイロットプロジェクトや実証実験を行っている段階」(紫)だ。次の段階へ向けて、日本企業が苦手なスピード感が求められていることも、このグラフは示している。


 図3は、3年前と比較して売上高および営業利益が「10%以上増えた」という日本企業の割合を示したものだ。売上高、営業利益ともに3本の棒グラフがある。「ビジネス戦略と一体化」(各項目の右端)は、図2で該当した企業を指す。「DX長期戦略あり」(各項目の中央)は別の調査で51.7%の日本企業が当てはまる。ただし、この「DX長期戦略」がどこまで具体的な内容かは不明だ。


 図3のグラフについては、「ビジネス戦略と一体化」している企業の業績の伸びが高いことを示しているのがポイントだ。DXの効果についてはさまざまな観点があるが、業績アップにつながらなければ、投資も継続できず、取り組む人々のモチベーションも維持できない。


●「ものづくり」や「おもてなし」のデジタル化で世界へ


 図4は、重点的に投資しているテクノロジーを聞いたものだ。注目すべきは、平均選択数(右上)における日本(2.7)と米国(4.0)の違いだ。これは取りも直さず、米国企業がより多くのテクノロジーを投資対象にしていることを示している。一方の日本企業は「クラウド」や「AI(人工知能)/機械学習」をはじめとする左側に寄っている。このグラフはデジタル経営の成熟度を表しているともいえそうだ。


 図5は、デジタル経営およびDXの取り組み状況別にビジネス部門における人材確保の方針を聞いたものだ。このグラフから読み取れるのは、日本企業のデジタル人材育成は既存従業員の再教育が中心で、外部からの採用や買収などを活用する米国企業とは異なるということだ。日本の労働市場の状況を考えると、今後はより幅広い人材調達戦略が求められるだろう。


 図6は、日本企業のデジタル経営およびDXに向けた組織文化について聞いたものだ。組織文化に関わる項目に下線が入っている。「全体」における各項目の割合を見ると、組織文化の変革が必要だという意識は高まっていないようだ。ただ、「ビジネス戦略と一体化」している企業には、ここでも強い変革意識が見て取れる。


 こうした調査結果を踏まえ、JEITAでは次の3つを提言している。


1. デジタル『経営』であることを理解する: 「経営の視点からデジタル活用を進めるデジタル経営の意識を強くし、幅広い業務プロセスで多くのテクノロジーを試すことが肝要だ。『デジタルのため』ではなく、『競争に勝つため』『従業員のやりがい』という高次の目的を設定し、戦略や人材、投資、組織文化、CSR(企業の社会的責任)など全てにデジタルを内在させる必要がある」(石橋氏)


2. 日本企業の実態に即した人材施策と組織変革が必要だ: 「社内のIT人材が少ない状況では、パートナーやベンダーの活用が必須となる。米国企業も外部ベンダーを活用する意識が高まっており、『丸投げ』にならずに適切な人材を社内外で確保できる仕組みを整える必要がある。そのためにも、さまざまな知見やスキル、経験を持った人材が適材適所で活躍できるように流動性を考慮した人事制度、評価制度との連携強化などが必要になる」(同)


3. 「米国企業だからできる」という考え方を捨てる: 「米国企業も『抵抗勢力』に対処してきており、経営層とミドルマネジメントの協力が必須となる。米国企業ができて、日本企業ができない理由はない」(同)


 最後に、上記の3つ目の提言に関連して筆者の考察を述べたい。


 グローバルな視点やスピーディーな意思決定など、米国企業のビジネススタイルの良いところは日本企業も積極的に取り入れていくべきだ。一方で、日本企業の製造や顧客サービス、言い換えると「ものづくり」や「おもてなし」では世界からも評価されている。これらはデジタルによってさらに進化する領域だ。


 これまではそうした強みを「日本型」と称して、同じ日本企業に売り込もうとしていた。そうではなく、「日本発」でどんどん世界に売り込めばいいのではないか。ものづくりやおもてなしはグローバルでもデジタル化のニーズがあるはずだ。日本企業が日本発の発想で世界をリードできる大きなチャンスが来たと捉えようではないか。


○著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功


フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。


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