異なる動画編集ソフト間でタイムラインを共有できる「OTIO」とは何か DaVinci Resolveにも実装

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2024年03月12日 16:41  ITmedia NEWS

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動画編集ソフト「DaVinci Resolve」

 世の中にはプロ向けの編集ツールは多いが、ポストプロダクションでは同じツールで統一することが多い。同じツールであれば、編集の手直し等で編集者が変わったとしても、編集データの互換性問題に悩む必要がないからだ。


【詳細を見てみる】違う動画編集ソフトでデータをやり取りできる「OTIO」


 だが作品が複数のポストプロダクションを渡り歩くような場合や、編集者が途中で降板して他の人に変わるといった場合では、編集ツールが変更になることがある。そこで問題になるのが、編集データのエクスポート・インポートだ。頻繁に起こることではないが、いったん起こると結構大変というのが、タイムラインのデータ互換である。


 過去、テープ編集の時代には、EDL(Editing Decision List)によって編集データを共有していた。素材の違いはテープのリールナンバーで管理するしかないが、テープが変わってもリールナンバーを変更せずそのまま使用する編集者が多いため、実際には素材のタイムコードは分かるがどのテープなのかは分からないといった問題がある。


 一方でEDLは、単に編集プロセスを記録したテキストリストなので、データを素読みすればだいたい何をやっているのかが分かるというメリットがある。ただしこれは、EDLベースのオンライン編集機、すなわちテープ編集の代表機種とされるCMX 3600やソニーBVE-9100といった編集機を実践で使ったことがある人でなければ、難しいかもしれない。


 ノンリニア編集が主流となった現在も、EDLによるタイムライン共有は多くの編集ツールがタイムラインのインポートフォーマットとして対応していることから、手堅い方法ではある。


 実際にDaVinci Resolveでサンプルのタイムラインを作成してみた。カット編集のベースにインサート1カ所、PinP1カ所、全体にサンプルのテロップ、ディゾルブが1カ所という構成である。EDLでエクスポートしたのち、新規プロジェクトにEDLを読み込んでみた。


 DaVinci Resolveの場合、単にEDLを読み込んだだけでは素材がない状態になるが、手動で素材を読み込めばファイル名等を頼りに自動的にマッチングされ、復元される。だがインサートカットとテロップのデータが読み込まれていない。EDLによる変換の問題点として、ビデオトラックのデータが1つしか持てないという点が指摘されている。


 ただEDLの名誉のために言っておくと、本物のCMXなどのEDLには、インサートカットの情報も記載される。ただトラックという概念がないため、ビデオオンリーのカット編集データが記載されるだけである。要するにこうした記述式を多くのノンリニア編集ツールが理解できないために、復元できないという事だろう。


 他方で、テキストデータではなくバイナリファイルで編集データの互換を取ろうという動きもある。AAF(Advanced Authoring Format)は、AMWAという業界団体が開発したフォーマットで、現在はSMPTEで標準化されていることから、多くの編集ツールが採用している。


 さらには、AppleのFinal Cut Pro 7時代のXMLファイルをそのまま互換フォーマットとして採用しようという動きもある。XMLは撮影素材がテープからファイルベースになった時代に、素材の互換性を目的とした記述式として利用されるようになり、Final Cut Proは採用が早かった。よって編集ツールの世界では、Final Cut Pro 7タイプのXMLが事実上の標準となっていった。


 とはいえ、一定の標準化されたフォーマットに頼るということは、これ以上の拡張性が望めないという事でもある。こうした課題をオープンソースの力を借りて解決しようという取り組みが、Pixar Animation Studiosを中心に開発されているOpen Timeline IO(OTIO)というプロジェクトである。


●OTIOは現代のEDLか


 OTIOは現役の編集者にとってもあまりなじみのないものであろう。ただ2024年2月にBlackMagic DesignのDaVinci Resolveがバージョン18.6.5のアップデートでOTIOの読み込みと書き出しに対応した事から、「アレは何だ?」という話になっている。


 OTIOはAPIおよび交換フォーマットとされているが、その考え方はEDLに近く、編集データをテキストベースで記述していく方法を採っている。OTIOファイルをテキストエディタで開くと、プログラムのソースのようなフォーマットで記述されているのが分かる。冒頭にトラックの定義があり、続いて各カットの編集情報が記述されていく。


 特徴的なのは、変形などのエフェクト情報も記載される事だろう。一部PinPしたカットがあるが、そこの縮小率および位置情報が記載されている。


 実際にDaVinci Resolveで新規プロジェクトに読み込んでみると、パス情報も記載されているので、同じパスに素材を入れておけばタイムラインが復元される。PinP情報も継承されている。AFFではこのような縮小・位置情報が記述できないため、単なるビデオインサートとして復元されるのみである。この点からしても、OTIOを使う意義はある。


 一方で読み取れなかったのが、テロップの情報だ。これはフォントの種類を含め多言語対応が必要であり、またテキストを編集ツールの標準機能で入れているのか、あるいはサードパーティー製のプラグインで入れているのかでデータの持ち方が変わってくることから、なかなか互換性を取るのは難しいところだろう。


 またDaVinci Resolveの実装では、OTIOハンドルファイルというフォーマットにも対応している。これはOTIOの編集情報のほか、素材の動画ファイルそのものもまとめて出力できる。従って別マシンの別ツールにエクスポートする場合は、OTIOハンドルファイルで出力し、このファイルごと渡してやれば、素材も一緒に渡す事ができる。


●一見良さそうに見えるが……


 一見いいことだらけに見えるOTIOだが、問題は良くも悪くも、オープンソースプロジェクトであるという事である。DaVinci Resolveは標準で組み込んでしまったので特に何もしなくても今すぐ利用できるが、対応しているといわれているAdobe Premiere Proでは、Adobe自身がまだサポートしていない。


 ではどうやるかと言えば、GitHubのPremiere用拡張機能のページへ行き、そこからソースをダウンロードして自分でビルドしたのち、Premiere Proの拡張機能(エクステンション)フォルダへ自分でインストールするという作業が必要になる。ビデオ編集者で、自分でソースからビルドできる知識がある人は少ないだろう。またGitHubのページ以外に情報がないため、存在がほとんど知られていない。


 OTIOはまだβ版で開発はどんどん進むので、それに合わせて編集ツールが逐一アップデートもできないだろうから、拡張機能として外入れするというのは妥当ではあるが、開発環境も持たない編集マンにソースからビルドしろというのは厳しい。DaVinci Resolveのように機能として組み込むか、各ソフトベンダーがバイナリなりインストーラを配布してないと、その実力をテストすることもままならない状況にある。


 とはいえ、タイムラインの互換環境が拡がれば、1つの編集ツールや、同じベンダーのツールでそろえるといった制限がなくなり、多くのツールを組み合わせて1つのコンテンツが作れるようになる。そういう意味では、各ベンダーともに対応するメリットは大きいはずだ。


 今回のDaVinci Resolveでの採用は、そうした動きに拍車を掛ける意味もあるだろう。


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