M3搭載新型「MacBook Air」は“1世代分以上”の価値をもたらす 実機を試して分かったこと

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2024年03月13日 12:41  ITmedia PC USER

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最新のM3チップを搭載した「MacBook Air」(ミッドナイト)

 AppleからM3搭載の「MacBook Air」が発売された。新MacBook Airは、Appleシリコン登場以後、筆者が持っていたいくつかの仮説を裏付ける発表となった。それらを実機に触れながら述べていきたい。


【その他の画像】


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 Macのノート型として最も価格が手頃で、それだけに人気のMacBook Air。


 多くのPCメーカーでは、値段を優先すべくCPUやディスプレイ回りのスペックやメモリ/SSD容量を必要最低限にするなどして、手頃なモデルを用意しがちだが、自社の「ブランド」の価値を大事に考えるAppleは常に「Macの最新ラインアップが備えるべき品質」に一定の基準を設けている。


 つまり、最新MacBook Airは基準以下の品質の安価なPCではなく、最新Macの品質の基準点と言える製品だ(MacBook Air登場の前は、この座をiMacが担っていた)。


 結論から書けば、最新のM3チップを搭載し、13インチと15インチの2つのモデルが用意され、Proモデルにはない4色のカラーバリエーションをそろえたMacBook Airは、Macを必要とする多くのユーザーのニーズに応える1台だ。


●万人のニーズに応える新型MacBook Air


 ただし、ここでいくつか考えることがある。はっきりとした年数は言わないが、製品のライフサイクルを5〜6年以上と長めに設定しているAppleは、1年前のプロセッサであえて新製品は作らないが、1年前のモデルの継続販売も行っている(これはAppleのソフト開発時に設定している性能のベースラインが、2023年登場のM2モデルということの暗喩でもある)。


 つまり、一口にMacBook Airを買うと言っても、ユーザーは4色2構成(標準モデルの場合)のM2版13インチMacBook Air、4色3構成のM3版13インチMacBook Air、4色3構成用意された15インチ版MacBook Airという32種類の基本構成から選ぶことになり、実は選択肢の幅は大きい(リアル/オンラインのApple Storeや一部の家電量販店などでは、さらに仕様をカスタマイズできる)。


 選び方の最も簡単な方程式は、何よりも価格を優先させたい人はM2版MacBook Airを、そこまで価格にはシビアでないが、携帯性を重視したい人はM3版13インチのMacBook Airを、そして価格、携帯性と性能のバランスを重視する人は15インチ版MacBook Airを選ぶというものだ。


 では、そもそもMacBook Airにするか、MacBook Proにするかをどう判断すればいいのか。MacBook Airでも、MacBook Proでできることはほぼ同様に行える。通常の利用でも性能的にもそこまで大きな差はない。上位モデルとなるMacBook Proが差を見せるのはビデオ編集や3Dコンテンツの制作、AIを使った画像編集ソフトなどの利用、生成AIをMacの上で直接動作させるといった使い方、あるいはAAAタイトルや高解像度グラフィックスのゲームをプレイするなど、まさにプロの用途(業務用途)や最新テクノロジーの活用を利用する際、それも一時ではなく継続的に利用する場合だ。


 MacBook Airでも、これらができないわけではないが動作速度が劣る。特に継続的にこうした利用を行っているとプロセッサが熱を帯びてきて、それをクールダウンさせるために性能が自動的に少し落ちてしまう。MacBook Proは、これをファンで冷却して長時間高性能を保てる。ただ、冷却ファンを省いたMacBook Airは安く、軽く、薄型かつ動作音が静かであるのがアドバンテージだ。


 MacBook Proはデジタル職人や研究者のためのモデルなのに対して、MacBook Airはそれ以外の多くの人のニーズに応えるモデルである。圧倒的に優れた外観、携帯性、価格、そして性能のバランスの取れたモデルで、それはM3チップになっても変わることはない。


●アプリ性能は20%向上 使用感の向上はそれ以上


 では、M3チップの搭載でM2と比べてどれくらい速くなるのだろうか。専用のツールを使って計測すると、ほとんどのテストで確実に20%ほどは速くなっているのが分かる。しかし、実際にそれは人間が感じ取れる違いだろうか。ほぼ同スペックのM2版MacBook Airと比較をしてみたが、それぞれ単体で使っている限りにおいてはそれほど違いを感じることはない。


 試しに、3Dレイトレーシングアプリの「Blender」や音声文字起こしアプリの「Whisper Transcription」を使ったテストも行い、動作速度の違いを検証するビデオも撮影してみたが、筆者が用意できるデータでは、そこまで大きな差が出なかった。


 Whisper Transcriptionによる20分の音声書き起こしもM3が8分51秒だったのに対して、M2が9分11秒と3%程度の性能向上にとどまっていた。


 映像だったり、音だったり、3Dだったり、AI処理だったりといったPCに高い負荷をかけ続ける処理を行わなければ、MacBook ProとMacBook Air、M3版MacBook AirとM2版MacBook Airの違いに気がつくことは少ないかもしれない。


 一方、今回、M3搭載MacBook Airの登場によって現役を引退した初代Appleシリコン、M1と比べると35%高速だ。これくらいの差があると、操作によっては少し違いが気になることがある。


 iPhoneであれば2世代前の製品を売り続けることもあるのに、AppleがM2を現役で残し、M1の販売を終了させたのは、この日常的に気がつく速度差の有無が理由ではないかと思われる。


 最もM2とM3の差は、今回比べた状態が永続するわけではない。M3には、いくつかM3ならではの特徴がある。


 例えば最近、一部で注目を集めている高圧縮の動画フォーマット「AV1」、M3チップでは、メディアエンジンでハードウェアデコードできる。


 GPU性能も大幅に向上し、メッシュシェーディングやレイトレーシングという処理ではM2チップとの差は20%、M1との比較では60%も高速だ。


 同様に写真を画像認識してよりユーザーが望む写真にAI処理してくれる「Luminar Neo」や音声の書き起こしアプリのWhisper TranscriptionなどのAI処理を基盤としたアプリではM3の方が動作が快適だ。


 いや、それだけではない。これから扱うデータがますます大容量化していく中で、実はMacBook Airは無線LANも進化を果たし、規格化されている中では最新のWi-Fi 6Eに対応した。これまでのWi-Fi 6との比較で最大で2倍のダウンロードおよびストリーミング性能を実現している。


 つまり、今後、画面上でリアルタイムのレイトレーシングを使った3D表現を多用するアプリが増え、AI技術を基盤にしたアプリが増え、Wi-Fi 6Eに対応したルーターが増えていくと、それに合わせてM2版MacBook AirとM3版MacBook Airの使い勝手は少しずつ開いていくことになる。


 そして、両者のこの差によって、M3版MacBook Airの方が製品寿命を現役で使い続けられる期間も長くなる可能性が高い。


 M2版MacBook AirとM3版MacBook Airには現状で約1万6000円の価格差があるが、同じMacBook Airを長く使い続けることを考えるのなら、予算が許すならM3版MacBook Airを買った方が良いのは、このためだ。


 ここで、実際に筆者よりも長い期間、M3版MacBook Airを本格的に使い込んでいる人の声も紹介しよう。


 高校生の時からプログラマーとしての能力を発揮し、Apple主催の「Swift Student Challenge」というプログラミングコンペで複数回入選している注目の若手プログラマーで、米国テイラー大学の学生でもあるブレイデン・ゴジス(Brayden Gogis)さんだ。


 彼はM3版MacBook Airのニューヨークでの発表会にも招かれ、同製品を発表直後から本格的に使い込んでいる。


 ゴジスさんの意見を聞いて、実は筆者が行っていたアプリ単位での速度検証で見落としていた重要な利点に気付かされた。それは複数のアプリを同時使用して切り替える際の快適さだ。


 「学校関係の作業をしたり、コーディングをしたりと、いくつもの作業を切り替えながら行っているが、M3版MacBook Airはそういった作業の切り替えに遅れることなくついてきてくれる」というのだ。


 ちなみにゴジスさん、本職のプログラミングにおいても発見があったという。


 「M3搭載の新MacBook Airの性能が、これまでできなかったことを可能にし、私の開発ワークフローが変わりました。XcodeのSwiftUI(アプリの操作画面を作るソフト)のコンパイルが劇的に速くなり、コードを書くやいなや、ライブでテストができるようになったのです」とも語っている。


●MacBook Airの進化はMacラインアップの進化


 MacBook Airは、世界で最も売れているノートPCであり、Appleにとっての看板製品でもある。それだけに最新モデルには、常に同社の方向性の先取りも行われることが多い。


 今回面白かったのは「Lid Closed Operation」、つまり本体の画面を閉じて利用する際の動作だ。標準のM3チップには最大で同時に2画面の出力しかできない。


 このため、これまでは接続できる外部ディスプレイは1台だけに限定されていた。しかし、M3版MacBook AirではOSに変更を加えて、本体を閉じて内蔵ディスプレイを消灯していれば2台の外付けディスプレイの同時利用が実現した。


 面白いのはここからだ。MacBook Airより先行して発売されていたM3チップ搭載の「14インチMacBook Pro」という製品がある。「Pro」を冠するだけあって、一応、MacBook Airよりも多くのことができるモデルとされているが、実は発表時点では利用可能な外付けディスプレイは1台となっていた。しかし、MacBook Airで、この技術が導入されたことを受けて、今後、OSのアップデートを経てMacBook Air同様に本体を閉じた状態なら2台の外付けディスプレイが利用できるようになるというのだ。


 このように、Appleは個々の製品をバラバラに作っているのではなく、常に製品ラインアップ全体のバランスを見て、最高の価値を提供するように努めている。


 これこそが40年も続く老舗PCであり、ブランドでもあるMacを成功させ続けている秘密なのかもしれない。


 そんなMacをこれから久しぶりに買いたい人、あるいは初めての購入でどのモデルにするかを迷っている人は、とりあえずMacBook Airの最新版、つまりM3版MacBook Airを買っておけば間違いはない。インテルプロセッサ搭載MacやM1モデルからの乗り換えにもお勧めだ。


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