転職してきた同僚の謙虚すぎる態度
「1年ほど前、うちの部署に同業他社から転職してきた女性がいるんです。カズナさんといって私と同世代。前職でのキャリアもわりと華々しいらしい。私たちはごく普通に彼女を迎えて、一緒に頑張っていこうねと話していました」マイコさん(39歳)としては、職場は友だちを作る場所ではないが、同僚との関係は大事だと思っていた。特に今は産休・育休の人も多いし、情報は共有してみんなで業績を上げていくことが大事だと会社も考えている。個人プレーよりチームプレーの仕事だと意識していた。
「カズナさんは人当たりがいい。言葉遣いも丁寧だし、何かあると『いえいえ、私なんて』と相手が困るほど謙虚な態度を見せる。対外的にも評判がよくて、すぐに取引先にも信頼されるようになりました」
中途入社の彼女に「あれ?」と感じ始めた
その一方で、日が経つにつれて彼女の言動を「あれ?」と思うことが増えていったとマイコさんは言う。「私たちの部署はけっこう雑談が多いんです。仕事をしながら部長が冗談を言って、それを混ぜ返す若手がいて、おいおいと締める中堅がいる。いいバランスだったんですよ。ただ、彼女はその輪に入ろうとはしなかった。
いつもどこか冷ややかな目をして全体を見ている。目が合うと微笑むんですが、実は目が笑ってない。私はそんな印象を受けるようになりました。ただ、それはあくまでも私個人の印象だから、周りはどう思っていたかわかりませんが」
口頭で言えば済むことをメールしてくるのも彼女の癖だった。そして口頭で言ってしまうと、あとから勝手に辻褄を合わせて自分の手柄にしてしまう。ライバル会社を蹴落とすための方策ならともかく、同僚にやることではないだろう。
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あとから『あれ、私が言った話だよね』とメールをしたら、彼女は『そうやって人を貶めるようなことはやめてください』と返信してきたんです。そのアイデアは他の同僚には話してなかったから、誰が先に考え出したかわからない。やられたと思いました」
何でもメールでやりとりしたほうが証拠は残るが、すぐ近くにいるのだからとうっかり口頭でやりとりすると、また足元を掬われる。些細なことだが、マイコさんのストレスは大きくなっていった。
言葉は丁寧だがケンカ腰に見えて
表面上は「私なんて」という謙虚さを貫き、メールもきちんとした言葉を使い、隙を見せないタイプのカズナさんと、マイコさんはコンビを組んで仕事をするのがつらくなっていった。「でもねえ、仕事ですから。苦手な相手だから外してくれというわけにもいかない。たぶん人としての相性が悪いんですよ。あるとき、部内の若手女子がうっかりミスをしたとき、私は先輩として先方に謝りに行かなければと思ったんです。
彼女を連れて行ってくるけど、あなたはどうする? とカズナさんに聞いたら、『私に謝れって言うんですか』と。
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卑屈にまで見える彼女の謙虚さの正体
そこでマイコさんは気づいたのだ。そうか、カズナさんはプライドが高いんだと。ときに卑屈にまで見える謙虚さは、プライドの裏返しだったのか、と。「几帳面できちんとしている。どこからもツッコまれないような仕事をしている。それが彼女のプライドなんでしょう。確かにそうだけど、チームで仕事をしているから自分がミスらなくても誰かがミスることはある。そのときどういう態度をとるかが重要だと私は思うけど、彼女はあくまでチームより個人なんでしょう」
謙虚なふりをしながら、ときおり強烈なプライドを見せつけるカズナさんに、マイコさんはすっかり気持ちが疲れてしまった。そしてつい先日、彼女は上司に呼ばれた。
「今の部署、つらいかと聞かれました。どうやらカズナさんが何か進言したらしくて。上司のさらなる上役は私よりカズナさんを選びたい感じでしたね。私以外、彼女の邪悪さには気づいていないのかもしれません。
闘うのも疲れたので、私は異動を希望しました。彼女と離れられるなら、そのほうが精神衛生上、いいので。しばらくたったら呼び戻すと上司は言ってくれたから、それを信じることにします」
きっと近いうち、自分の次なる犠牲者が出るはずだ。ずるいとまでは言い切れないが、小賢しく立ち回るカズナさんと毎日会わなくてすむと思うだけで、今のマイコさんは平常心を保てている。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
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