フィルム最大手だったのに「世界初フルデジタルカメラ」を開発していた 富士フイルムのデジカメ史

2

2024年03月16日 12:41  ITmedia NEWS

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia NEWS

1998年の「FinePix 700」。この頃からメガピクセルが当たり前になっていく

 富士フイルムが1月20日に創業90周年を迎えた。特設サイトも設置されている。


【その他の画像】


 設立当初の社名は「富士写真フイルム」。大日本セルロイドから写真フィルム事業を独立させたのがはじまりだ。


 と、ここで延々と富士フイルムの歴史の話をするつもりはなくて、そんな写真用フィルムを祖業とした、フィルム業界を米Kodak(コダック)とともに引っ張ってきた会社ならではのデジタルカメラの話をしたい。


 富士フイルムはフィルム業界最大手でありながら、どこよりも早くデジタルカメラを手がけてたのだ。


 デジタルカメラの発明自体はコダックなんだけど、今のデジタルカメラの原型となる「イメージセンサーで撮影した画像をデジタルデータとしてメモリカードに保存する」カメラを最初に開発したのは富士フイルムなのである。1988年の「DS-1P」だ。


 富士フイルムではこれを「世界初のフルデジタルカメラ」と呼んでいる。市販はされなかったが、翌1990年には「DS-X」を発売した。


 ソニーの「マビカ」の方が早くない? と思う人もいるかもしれないが、マビカは画像を2インチの磁気ディスクに「アナログデータとして記録する」もの。スチルビデオカメラ、あるいは電子スチルカメラと呼ばれていたが、アナログ記録なので「デジタルカメラとは呼ばない」のである。


 その点、富士フイルムのDS-Xは「フルデジタルカメラ」だったのだ。


 1993年には「フラッシュメモリカード」へ記録する「DS-200」を発売。このときはまだ業務用という位置づけで価格もそれなりに高かった。


 たまたまその後継機「DS-220」(1995年)で撮った写真があったのでどうぞ。35万画素である。液晶モニターはオプションだった。


 しかも1995年には「デジタル一眼レフ」も投入してるのである。


 それが「DS-505」。ニコンとの共同開発で(ニコンはE2という名前で発売)、ボディ部分はニコンでマウントもニコンのFマウント。センサーサイズは小さかったが、「縮小光学系」(小さなセンサーで35mm判と同じ画角を得るためにマウントとセンサーの間に光学系を入れたもの)を採用したため、ボディの奥行きが長く、画質もイマイチだったのだっただけど、フィルム全盛期でありながらいち早くデジタルも手がけていたってのが分かるかと思う。


 でも、1994年にアップルが「QuickTake 100」(製造はコダック)をMacintosh用の画像入力装置という位置づけで約11万円で発売、1995年春にはカシオ計算機が回転液晶モニター付きの「QV-10」を、約6万3000円と当時としては破格で発売している。


 ここからコンシューマー向けの液晶モニター搭載デジタルカメラの時代が急激に立ち上がる。


 富士フイルムもその流れに乗って1996年に「DS-7」が登場。記録メディアはスマートメディア。愛称は「CLIP-IT」だった。


 1997年には業務用のハイエンド機「DS-300」を投入。3倍ズームレンズを搭載し、1280×1024ピクセルと100万画素を達成。記録メディアはPCカードのフラッシュメモリ。


 今見ると、記録メディアに歴史を感じますな。


 DS-300は、当時としてはバリバリのハイエンド機で、液晶モニターも持たずファインダーは光学ファインダーのみだったのだが、画質的にもワンランク上だったので仕事でも随分活躍してくれた。これは1998年のMacworld SFにおけるスティーブ・ジョブズ氏。フラッシュ撮影はダメと言われていたのでつらかったけど。


 さて「CLIP-IT」の時代は短く、1998年には「FinePix」というブランドに切り替わり、画期的なカメラが登場する。縦型デザインで100万画素を超えるメガピクセル機「FinePix 700」である。


 あの頃は「原色フィルターCCD」か「補色フィルターCCD」か論争があって、原色フィルターは解像感や感度が落ちるけど発色がいい、補色フィルターは高感度で解像感は出るけど色はイマイチという特徴があり、富士フイルムは一貫して「原色フィルター」のCCDを採用していた。


 色を重視する富士フイルムならではだなあと思ったのを覚えている。ちなみにコダックは富士フイルム以上に鮮やかで濃ゆい色の写真を撮ってくれた。東京の空がカリフォルニアの青い空に見えるといったとかどうとか。コダックと富士フイルムというフィルムメーカーの2社が色を重視していたのが面白いなと思う。


 やがて富士フイルムは「スーパーCCDハニカム」という独自構造のCCDを開初したり解像度重視と高感度重視を切り替えて使えるCCDを開発したりで主力モデルは特に積極的に新しい技術を取り入れてたのが好印象だった。


 特筆すべき機種としては、600万画素でなおかつ高感度に強い「FinePix F10」やネオ一眼と称した一眼レフ風の大きなボディに高倍率ズームレンズを搭載したシリーズか。


 残念だったのは記録メディア。スマートメディアがその歴史を終えようとしていた頃、次世代メディアとしてSDカードではなく「xDピクチャーカード」を採用したこと。スマートメディア陣営の多くがSDカードへ移行するなか、富士フイルムとオリンパスだけがxDピクチャーカードを採用したのである。富士フイルムのオールドコンデジを使いたいという人はメディアに注意すべし。


 2010年代にはいると、他社と同様にCCDからCMOSセンサーへ移行し、2010年代後半にはコンパクトデジカメの市場が縮小していくのにともなってFinePixシリーズの新製品もなくなり、現行モデルは防水の「FinePix XP140」だけである。


●FinePixからXへ


 X100も2011年に誕生した初代機は「FinePix X100」と名づけられていたが、2013年の2代目(X100S)からは「FinePix」が取れ、大きめのセンサーを積んだハイエンド機のシリーズになった。


 2/3型センサー搭載のX10からX30のシリーズもあったが最終的に残ったのはX100系だけだった。


 X20やX30あたりはなかなかXらしいユニークなコンパクト機で、復活しないかな、とは思ってる。


 スナップ用のコンパクトカメラとして優れたコンセプトだったと思うのだ。質感も良かったし。


 最後はデジタル一眼の話。2000年には「FinePix S1 Pro」を発売。これもニコンの一眼レフ用ボディを富士フイルムがデジタル化したという感じのカメラだったが、ニコンの豊富なレンズを使えること+富士フイルムならではの鮮やかな発色で一部で人気となったシリーズだ。


 このシリーズは2007年のS5 Proで終了となる。


 そして2012年にX100のハイブリッドビューファインダーを搭載したレンズ交換式のミラーレス一眼「X-Pro1」が誕生するのである。Xマウントのミラーレス一眼のはじまりだ。


 一時期、X-Aシリーズなどエントリー向けの廉価なモデルも出ていたが、今のカジュアルな製品は「X-S20」のみ。


 その代わりプレミアムなカメラに注力し、主力のX-Tシリーズなどに加え、やがて35mmフルサイズより大きなラージフォーマットのセンサーを採用したGFXシリーズも登場し、90周年を迎えたわけである。


 フィルムメーカーならではのブランド力を生かした「フィルムシミュレーション」も20種類を超え、フィルムメーカーならではの風合いのある写真……RAWで撮って現像で再現しようにも困難な写真を撮れるのも魅力だ。


 つまるところ、


・世界をリードするフィルムメーカーでありながらデジタルカメラを手がけたのはすごく早かったこと


・フィルムメーカーならではのノウハウを生かした発色やフィルムシミュレーションで独自性を発揮したこと


・レッドオーシャン(フルサイズのデジタル一眼などライバルがひしめき合うジャンル)にむやみに飛び込まなかったこと


 の3つが大きな特徴といっていいだろう。


 フィルムの研究・製造……つまり「化学」を手がけていた成果を生かして化粧品に進出したのもユニークなところだ。六本木にある「フジフィルムスクエア」を訪れると、カメラや写真エリアの隣に「ヘルスケアショップ」が置かれているほどである。


 祖業を生かしつつ、時代の変化にいち早く対応し、闇雲にシェアを求めなかったのがユニークだなあと思う次第である。


 昨今、日本での新製品価格がぐっと上がり(円安もあるが、日本での価格を割安に設定すると海外からの転売目的の買い付けが増えるため、その対策ともいわれている)、供給不足がアナウンスされがちで入手しづらいのが一番の難点かも。


このニュースに関するつぶやき

  • 富士フィルムはカセットテープも作ってたな。
    • イイネ!0
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(1件)

ランキングIT・インターネット

前日のランキングへ

ニュース設定