河村勇輝が観客の熱気を味方にする理由 苦しい時に一番輝くチームプレーヤー

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2024年03月19日 07:20  webスポルティーバ

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 歴史を変える戦いをするアスリートは、誰にでもわかるような眩い輝きを放つものだ。

 バスケットボール日本代表、河村勇輝(22歳、横浜ビー・コルセアーズ)は"その領域"に入っているのだろう。2022年のFIBAアジアカップでMVP級の活躍。悲願だったパリ五輪出場を勝ち取る立役者のひとりになった。歴史を変えているのだ。

 その日も、輝きの片鱗があった――。

 3月6日、横浜。Bリーグ、河村が所属する横浜は首位を走っていた三遠ネオフェニックスと対戦している。横浜は第1クオーターでは劣勢も、その後は盛り返し、拮抗しながら、最後は81対76で劇的な勝利を収めた。チャンピオンシップ(B1リーグにおける上位8クラブによるノックアウトトーナメントで、年間優勝チーム決定戦)進出に望みをつなげた。

 横浜は旗色が悪くなるたび、5番を背負う河村が"火を起こしていた"。

 第2クオーターの終盤、リードされた展開で河村がファウルを受け、2本のフリースローを確実に決め、同点に追いついた。その後、ジェロード・ユトフのシュートをアシストし、この試合、初のリード。相手のスリーポイントで追いつかれかけたところ、再び河村がカイ・ソットのシュートをお膳立てし、リードして第3クオーターを迎えられた。

「今日は首位、三遠さんとの対決、それも1カ月ぶりのホームで、負けられない試合でした。リーグトップのオフェンス、特にトランジション、リバウンドのところは、チームとして準備して臨めたのが結果に表れた」

 河村は言う。その覇気は十分に伝わった。

「(第二クオーターではフラストレーションも感じさせたが、という質問に)審判とのコミュニケーションは時に必要で、やりすぎない程度に......。そこは自分たちでコントロールできないところもあるので、フォーカスしすぎず、ポイントガードとして必要なオフェンスのところでコントロールできました。集中してプレーできたと思います」

 冷静と情熱のバランスが格別だった。

 そもそも、河村はポイントガードとして格別な存在である。2022−23シーズンはBリーグでMVP、ベスト5、アシスト王、そして新人賞を受賞。新人賞とMVPの同時受賞は離れ業だ。

【シュートは1試合10本以下でも...】

 第3クオーターも横浜は50対52と逆転されたが、直後に河村がシュートを決めて同点に。その後にファウルを受け、再びフリースローを2本決め、逆転に成功。直後にはソットの得点を連続でアシストし、リードを広げた。残り8秒、再び同点に追いつかれた局面で、森井健太の3Pをアシストすると、場内のボルテージは一気に高まった。

 河村のプレーは否応なく会場の熱気を味方にし、火を巻き上げるような力がある。

「相手がやられたくない、嫌がるプレーを選択し続ける必要がありました」

 河村はそう説明している。

「ドライブ(ドリブルでディフェンスを抜いてゴールに向かうプレー)であったり、ドライブからのキックアウト(ゴールにアタック後にインサイドからアウトサイドへ出すパス)であったり、カイ選手へのロブパスやディッシュパス(近距離パスのひとつで、お皿の料理を給仕するように手のひらを上に向けて)とか。三遠さんのディフェンスがフェイントアタックにずれがあったので、そこは狙っていました。(第3クオーター最後のプレーは)カイ選手と決め打ちで、『ドライブにいって上へ投げるから、アリウープしてくれ』という感じで(笑)。相手が自分に反応して来ると思ったので、(カイ・ソットを)見ずにリンクの近くにボールを投げたら......」

 そして第4クオーターも、河村は神がかっていた。再び逆転されたところでコートに入ると、シュート、アシストで神出鬼没。追いすがってくるところ、この日、11本目のアシストで同点にした。そして残り34秒、3Pを決めて81対76と勝利を引き寄せたのだ。

「最後は時間もなく、1回かませるとタフなシュートで終わりそうだったので、自分で1対1のずれを作り、ワイドオープンでシュートを打てるって。決めきることができてよかったです」

 河村はそう証言したが、チームプレーヤーとして驕りがないところも、彼の本質かもしれない。試合を通じ、苦しい時に一番輝いていた。

「チームとしてよくなっていると思います。自分は今日7本打って、今シーズンは10本以下の試合が多いですが、チームが勝つことが何よりで、自分は(パスを)散らして、周りにクリエイトする力がある選手もいますし、ビッグショットを決めた選手もいて、ひとりひとりの闘争心が乗ってきました。今シーズンは優勝を目標に掲げ、その可能性が残っているので、大型連勝できるように......」

"河村"という名の希望がBリーグだけでなく、日本バスケットボールを明るく照らしている。「うまい」「かっこいい」という枠では収まらない。逆境でこそ、意表を突くスペクタクルなプレーを連発し、勝利を呼び込む。その輝きは本物だ。

 3月20日、横浜はホームで富山グラウジーズと対戦する。

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