パリ五輪女子バスケ世界最終予選MVP・山本麻衣が振り返る、あのプレー「ルーズボールは本能、シュートは冷静に打ちました」

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2024年03月19日 11:00  webスポルティーバ

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山本麻衣インタビュー(前編)

女子バスケットボール日本代表が2024年パリ五輪の出場を決めた。世界4カ所で同時期に行なわれるオリンピックの世界最終予選大会(以下、OQT)。日本が組み込まれたハンガリーラウンドは「死の組」とも呼ばれ、事実、最終日を前に4カ国が1勝1敗で並ぶ激戦となった。最終日に世界ランキング9位の日本が対峙するのは、同5位のカナダ。結果は86-82で日本が勝利し、オリンピックの切符を自ら手に入れるのだが、その立役者のひとりが、ハンガリーラウンドでMVPを獲得した山本麻衣(トヨタ自動車アンテロープス)である。24歳の若きスコアラーは、いかにして、この大一番を迎え、乗り越えたのか――。

【チーム全員の共通理解で走り勝つ】

――パリ五輪の出場を決めました。その予選、OQTをどのように振り返りますか。

「OQTはオリンピックをかけた戦いなので、それほど簡単なものではないなと改めて感じました。それでも『死の組』と呼ばれるグループを首位で通過できたのは、チーム全員で、お互いを信じ合いながら、自分たちの強みを理解して、戦い抜いた結果だと思います」

――東京五輪後に就任した恩塚亨ヘッドコーチが率いる女子日本代表の強みは、どこにあるのでしょう?

「走り勝つのが日本のスタイルであり、強みだと思います。もちろん相手は自分たちに分があるフィジカルコンタクトで私たちの体力を削ってきます。そのため思うように走れない、重たい展開になることもあったんですけど、それでも第4クォーターの最後の最後まで走りきることや、ただ単に走るだけではなく、スピードに乗って走るなかでも、常に周囲の状況を見て、瞬時に適切な動きを判断するところまで練習してきたので、そうした日本の強みが表れたのかなって思います」

――山本選手は、小学校、中学校、高校、そして現在所属するトヨタ自動車アンテロープスも含めて、各カテゴリーの国内トップクラスのチームでプレーしてきました。ただ走るだけではない、状況判断をしながら走ることは特別なことなのでしょうか?

「特別ではないけど、全員の共通理解として、チームでどんな正解があるのかを探しながら取り組み、みんなで共通理解できたことが大きかったんじゃないかと思います」

――恩塚ヘッドコーチ体制になって以降、ほぼメンバー入りをしている山本選手であっても、それを短期間で積み上げていくことは簡単ではないと思います。

「最初は息が合わないこともありましたし、逆にみんなが理解しすぎて、周りを見すぎてバランスが悪くなることもありました。それはハンガリーに入ってからも続いていて、OQTが始まってから、試合の中で整理していったので、最終的にはカナダ戦で、現状の最もいい形になったんじゃないかと思います」

――パリ五輪に向けて、より高めていくと思いますが、OQTに関しては、チームとしてのピークを持っていけたというわけですね?

「はい。まだまだ改善点はたくさんあると思いますけど、合宿中にやろうとしていたことは、OQTの最後のカナダ戦までにはしっかりピークを持っていけました。やはり相手は日本の3ポイントシュートを嫌がるんです。それを止めるためにスイッチディフェンス(マークする選手を、交差するタイミングで換えること)をしてきます。敗れたハンガリー戦は、スイッチされたことで日本のバスケットが重たくなったことも敗因のひとつでした。カナダ戦ではそこを改善して、スイッチに対しての攻め方を改めて共通理解ができて、それがプレーにも表れたのだと思います。

【崖っぷちでも冷静にいられた3年前の経験】

――3ポイントシュートは山本選手の武器であり、チームでの役割のひとつでもあります。自分自身の出来をどう振り返りますか?

「コンディションもすごく良くて、フィーリングも良かったので、OQTに関しては、すごく良い状態で臨めたんじゃないかなって思っています」

――そうした状態で臨めた要因はどこにあるのでしょう?

「2021年に東京五輪の出場権を賭けた3x3(スリーエックススリー、3人制バスケットボール)のOQTに出場して、崖っぷちを経験したからこそ、今大会は常に客観的に周りを見られて、余裕を持ってプレーできたと思います」

――東京五輪のOQTは、5人制の女子日本代表も参加していましたが、彼女たちは開催国枠での出場が決まっていました。しかし3x3の女子日本代表には開催国枠の出場権はなく、OQTは文字どおりの予選でした。

「いや、本当に3x3をやっていてよかったなって思っているんです(笑)。あのときの3x3のOQTは20カ国が出場していて、グループラウンドからの決勝トーナメントに勝ち上がり、3位以内に入らないとオリンピックに出られなかったんです。私たちは準決勝でフランスに負けて、3位決定戦で負けたら終わりという、本当の意味で崖っぷちに立って、乗り越えた経験をしたからこそ、あの時の心の持ち方が今回は生きたのかなと思います」

――山本選手は落ち着いていたようですが、2戦目のハンガリー戦に負けて、落ち込んでいる選手もいたと思います。それがカナダ戦ではみんながいい表情でコートに立っていました。何かチームの空気が変わる出来事はあったのでしょうか?

「雰囲気が変わったのはハンガリー戦の翌日、この日は休息日だったのですが、その日の夕方にチームミーティングがあったんです。そこでチームとしてやることを再確認して、そのチームミーティングが終わった後に選手だけで集まって、キャプテンの林(咲希)さん中心に話をして、雰囲気がガラッと変わりました」

――宮崎早織選手が馬瓜エブリン選手に「エブリンが吠えなかったから負けた」と言ったそうですね。

「はい、あれが一番の起爆剤でした。宮崎さんが『エブリンの吠えが足りなかったからだ』と笑いを交えて言ったら、エブリンさんも『それだ!』とわかっていましたし、みんなもまたそれでひとつになれたという感じですね」

【カナダ戦の"ヒョイ" シュートの真実】

――カナダ戦の終盤(日本が83-80とリードして迎えた試合時間残り1分からの攻撃)、その宮崎選手からエブリン選手へのアシストが崩れた時に、山本選手がルーズボールを拾ってシュートを打ち、決めました。あれが決定打になったと思いますが、あの一連の動きは本能で体が動いたのですか? それとも状況を冷静に判断した上でボールを拾いに行ったのですか?

「ほぼ本能かな(笑)。ただ、宮崎さんのプレーの特徴を考えたとき、宮崎さんがドライブを仕掛けたところで、パスを出すかもしれないと思っていたので、(自分が)受けられる準備はしていました」

――宮崎選手の狙いはおそらくエブリン選手だったと思いますが、それでも、もしかしたらルーズボールになるかもしれないと?

「はい。もしかしたら、その可能性もあるんじゃないかなと。ただ、最終的にボールに飛びついたのは本能というか、体が勝手に動いたという感じですね」

――帰国後、あのときのシュートを「ヒョイと打った」と言っていましたが、勝手に動いた一連のシュートだったと。

「いや、ボールに反応したのは本能でしたが、最後のシュートのところは相手が大きい選手だとはっきり見えていたので、ブロックされないように、シュートについては冷静に判断をして打ちました」

――難しい体勢からのシュートだったので、シュートのほうが本能かなと思ったけど、逆だったんですね。

「はい、シュートのほうは冷静に判断をして打ちました。普段から、体勢が崩れた時を想定しているわけではないけど、ゴール付近でいろんなバリエーションのシュートを打っているんです。そういう意味でいえば、練習の成果というか、いつもやっているシュートだったから入ったのかなって思っています」

――パリ五輪代表メンバーに関してはこれからまた選考になりますが、ここはあえて選ばれたと仮定して、今度は5人制で出るオリンピックです。今、どのように思い描いていますか?

「前回、3人制でオリンピックに出させてもらって、今回は5人制で出ることになれば、そういう選手ってなかなかいないと思います。だからこそ、自分にしかできないことをやりたいですね。結果が出るにせよ、出ないにせよ、自分のパフォーマンスを表現できるよう、しっかり準備をしたいなって思っています」

――3人制でも5人制でも、という点では、同じくその可能性がある男子の富永啓生選手(ネブラスカ大)とは、お母さん同士が同じチームでプレーしていたそうで、幼い頃から知っているそうですね。

「はい。でも小さい頃にちょっと遊んだという程度ですよ。小学生のときも、中学生のときも全然交流がなくて、高校生になったときに母からその話をされて、『ああ、そうだったね』というくらいの関係です。ただ、そのあたりから連絡を取ることも出てきましたけど、SNSに載せたら、お互いがちょっと反応するくらいですね」

インタビュー後編に続く

【Profile】山本麻衣(やまもと・まい)/1999年10月23日生まれ 広島県出身 愛知県に移り住み、昭和ミニバス、藤浪中学、桜花学園でそれぞれ日本一を経験。高校卒業後、トヨタ自動車アンテロープスへ入社。東京2020オリンピックは3x3女子日本代表として出場し、ベスト8。それ以降は5人制の日本代表に選出されるようになり、中心選手としてプレーしている。精度の高い3ポイントシュートと、海外選手にも当たり負けしないフィジカルの強さが持ち味。また、ここという場面で決めきる勝負強さも光る。オフの日は愛犬モナと遊ぶことが多い。

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