『南国少年パプワくん』柴田亜美 画家での創作エピソード「タンノくんは精神安定、龍には凄い力を感じる」

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2024年03月21日 12:10  リアルサウンド

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■画家・柴田亜美、個展に向けて心境を語る


  テレビアニメ化もされた大ヒット漫画『南国少年パプワくん』で知られる柴田亜美が、2021年に画家に転身してから、初となる個展開催が決まった。テーマは「めでたい動物展」で、期間は3月29日(金)〜4月7日(日)、東京・神保町にあるギャラリー「KOMIYAMA TOKYO G」で、主に“動物”を描いた約20点の作品が展示される。


  今回は個展を間近に控えた柴田に独占インタビュー。個展のテーマに込められた思い、そして“あの”大人気キャラへの情熱を存分に語っていただいた。


(参考:【写真】柴田亜美氏ならではの色彩感覚や動物の描き下ろしイラスト


――柴田亜美先生にとって初めての個展が開催されるそうですね。


柴田:漫画家としては何度か個展やイベントをやっているのですが、画家としては初めてとなります。ただ、漫画家の時はあくまでも原画展ですから、絵を売っているわけではありません。画家の個展は、作品をその場でお買い求めいただけるのです。自分の絵が売買される場にいるという緊張感がありますね。


――今回の個展のテーマは「めでたい動物展」です。このテーマに託した思いはどのようなものでしょうか。


柴田:近年、世間的にも暗い話題が多いので、私の絵を見て明るくなっていただければという思いを込めて、“吉祥”をテーマに絵を描きました。作品は20点ほど出品予定ですが、現在(注:インタビューは2月後半に行われた)も制作中でして、もしかすると前日まで絵を描いているかもしれません。


■タンノくんが満を持して世界デビュー!
『南国少年パプワくん』のタンノくんは、今回の個展に描き下ろしが登場する。


――個展の案内状を見ると、『南国少年パプワくん』に登場するタンノくんの絵がありますね。タンノくんといえば、イトウくんと並んで『パプワくん』を象徴する“生物(ナマモノ)”のキャラです。


柴田:タンノくんは、私にとって特に思い入れの強いキャラなんですよ。画家になってから何枚か『パプワくん』のキャラクターの絵を発表しているのですが、腕が未熟だったので、小さいサイズでしか描いていませんでした。今回、満を持して大きいサイズでの発表となります。


――タンノくんは柴田先生に愛されていますね。


柴田:タンノくんは原作の2話で初登場だったのですが、漫画を描いているときに婚約者にフラれてしまい、結婚が流れたという思い出があります(笑)。タンノくんの、「煮てよし、焼いてよし」というセリフは、その時に号泣しながら描いたコマです。まさに、タンノくんは私の人生を語るうえでも欠かせないキャラクターと言っていいと思います。


――なんと! そんな思い出があるんですね。柴田先生の思い入れが強い理由が、よくわかるというか……。


柴田:『パプワくん』は「月刊少年ガンガン」が創刊したときに連載が始まったので、出版社にもノウハウがなく、海外に向けた展開ができませんでした。だから、タンノくんをいつか世界に出してあげたいという思いはずっとあったのです。幸いにも、小宮山さんのギャラリーには世界中から人が訪れます。もし外国の方にお迎えいただいたら、タンノくんの“世界デビュー”ですよね!


――それは素晴らしいですね!


柴田:ありがたいことに日本国内では、『鬼滅の刃』に足の生えている金魚が登場した時、Twitter(現X)で“タンノくん”がトレンド入りするほど、認知していただいています(笑)。ぜひ、世界の人たちにも知っていただきたいです。そして、昔からのファンの方にはぜひタンノくんの立派になった姿を見ていただき、世界デビューの嬉しさを分かち合いたいですね。


――タンノくんがポケモンのように、世界的な人気キャラになるかもしれませんね。


柴田:海外でもグッズが出て欲しいよね。世界各国の人たちにタンノくんのTシャツを着てもらえたら、凄く嬉しいです。


■色彩感覚は長崎とアメリカの影響


――柴田先生は一枚の作品を仕上げるまで、どれほどの時間を要するのでしょうか。


柴田:こればかりは題材によって違います。龍は鱗一枚を6回塗っているのですが、鱗の位置がズレて塗り直しになったら大変で、発狂するくらい時間がかかりますね。タンノくんの鱗も一枚に4回塗り重ねているのですが、それでも魚は龍に比べて圧倒的に鱗の枚数が少ないので、スムーズなほう。今はアクリル絵具を使って描いていますが、将来的には油絵にも挑戦したいですね。


――そして、今回の個展でも柴田先生の独特の色遣いは健在ですね。


柴田:小さいころから、目を瞑ったら頭の中にボワーッと絵のイメージが湧いてくるのですが、それは今も変わりません。キャンバスを見ていたらイメージが浮かんできて、それを目の前に描いていくのです。色についても頭の中に浮かんだ色を塗っていくので、例えば青系でもそれぞれ微妙に違います。


――以前の柴田先生のインタビューで、色彩感覚は故郷の長崎の影響も大きいと伺いました。


柴田:特に龍に関しては、長崎の影響が大きいと思います。日本画や水墨画の龍よりも、長崎のお祭りの龍踊りの龍の方がしっくりきますから。長崎のお寺もいわゆる中国風のお寺が多く、色も鮮やかですから、そのイメージが頭の中にできあがっていると思います。あと、カナダやアメリカに滞在していた時に見たお菓子や玩具も派手な色が多かったですし、子どもの頃に見たものの色彩からかなりの影響を受けていますね。


■柴田亜美の絵の魅力、動物のデフォルメ


――今回は動物がテーマということで、パプワくんなどの絵は展示されるのでしょうか。


柴田:いえ、動物だけじゃなく、パプワくんやヒーローの絵も出展しますよ。ただ、人間も哺乳類ですし、動物に入れちゃいました(笑)。


――ははは(笑)。そして、柴田先生の漫画には動物のキャラがたくさん登場しますが、デフォルメの名手だと思っています。


柴田:ありがとうございます。これは前から言っているのですが、動物を描くコツは写真などを迂闊に見ないほうがいい、ということです。今の子たちは動物を描こうと思ったら、すぐにネットで探して、参考にしてしまうでしょう。だから、ウサギを描こうとしてもリアル寄りになってしまうんでしょうね。私はイマジネーションで描くから自由に描けるし、結果的にデフォルメ調になるんですよ。


――確かに、ネットで素材を探して描いたら、鯛から脚は生える発想は生まれませんからね(笑)。


柴田:赤塚不二夫先生のうなぎ犬のような発想も出ないかもしれないね。リアル志向のキャラクターが多いなかで、『ちいかわ』のような作品も出ているのは嬉しいですね。


■作品を送り出すときは感極まることも


――画家としてデビューされて、手ごたえを感じることはありますか。


柴田:びっくりしたのが、作品を買われた方のほとんどは私の漫画家としての仕事を知らない方ばかりで、そして3分の1が海外の方だそうです。国籍も様々で、アメリカ、タイ、中国、イギリスなど様々な国の方にお迎えいただいています。


――購入された方とお話をされたことはありますか。


柴田:たまたま私が画廊を訪れたときに話すことはありましたが、守秘義務や身分を明かされない方もいますから、購入した理由を実際に聞く機会はあまりありません。海外の方には、色彩に興味を持っていただいているのかもしれないと思っています。ただ、作者としては作品が手元に戻ってこないのが一番寂しいですね。漫画の場合は原画が戻ってきますから。


――作品を送り出すとき、感極まることもあるのではないでしょうか。


柴田:すっっっごいあります。もうこの子に会えないんだなと、家でじっくり見てから送り出します。絵の持ち主の方に、大切にしてあげてね、飾ってあげてね、という願いがめっちゃありますね。


■龍を描いているときは接触厳禁!?


――柴田先生は画家になってからは、一人で創作をされているそうですね。


柴田:漫画家の時はアシスタントさんがいたので、寂しくないんです。画家は本当に一人っきり。こないだ、「ワイドナショー」に出演したときは、2週間ぶりに人と会ったくらいです。「電波少年」のなすびさんは、家の中にずっと一人でいて発狂しそうになったんだろうな、と思いましたよ。普段は1週間から10日分の食料を買いだめして、家に籠っています。早くアシスタントさんが使える大物の画家になりたいですね。


――創作はまさに自分との戦いですね。


柴田:画廊の小宮山さんに申し訳ないのですが、龍を描いているときは頭がおかしくなっていて、いらいらすることが多いんです。龍神様の祟りなんじゃないかと思うほど。


――龍を描くときはどんな心境になるんですか。


柴田:龍を描いているときは「終わらない〜」って愚痴ばかりXに書いていますね。私のXは、フォロワーさんに向けて情報発信している面もありますが、75%は仕事関係者に向けた生存確認になっています。ありがたいことに、事務所のスタッフさんも今は龍を描いているから連絡しちゃダメだとか、凄く気を使ってくれています。


――柴田先生にとって龍は特別な題材なのですね。


柴田:私にとって、というよりも龍自体がもつ力が凄いんじゃないかなと思いますよ。猫とか、タンノくんを描いている時なら精神状態が安定していますから(笑)。


――そんな柴田先生の渾身の力作が多数展示される個展です。この記事を読んで、来場したいと思った方へメッセージをいただけますか。


柴田:見に来ていただくだけでもありがたいですので、気軽に足を運んでいただければと思います。そして、動物たちの姿や鮮やかな色を見て、明るい気持ちになっていただければ嬉しいです。


(文=山内貴範)


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