3月20日は「電卓の日」だった! 60周年を迎えるキヤノン電卓の歴史と電卓のこれからを考える

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2024年03月22日 12:41  ITmedia PC USER

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キヤノン電卓事業における歴史的なモデルと最新モデル

 今から50年前の1974年3月20日、電子式卓上計算機の生産数量が年間1000万台を突破した。また、初の国産電卓「CS-10A」(旧早川電機工業、現シャープが生産)誕生から10年(正確には1964年3月18日発売)の節目を迎えたこともあり、3月20日を「電卓の日」と日本事務機械工業会(現 ビジネス機械・情報システム産業協会)電卓部会が定めた。


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 電卓の日を前に、2024年10月に電卓事業60周年を迎えるキヤノンマーケティングジャパンが「キヤノン電卓事業60周年 記者説明会」を開催した。キヤノンマーケティングジャパン コンスーマ新規ビジネス企画部 コンスーマ新規ビジネス推進課 長健夫チーフがこれまでの歴史を振り返りつつ、今後の展望を語った。


●キヤノン電卓の歩み


 キヤノンの電卓1号機は卓上型であり、世界初のテンキー式だ。発売は1964年10月20日で、名称は「キヤノーラ130」である。


 「世界初のテンキー式」ということだが、それまでの電子計算機はどのようなキーを搭載していたのだろうか。それは「フルキー」方式で、1の位から10の位またはそれ以上の位まで、それぞれに1〜9のボタンが並ぶものだった。つまり、「33万9857」という数字を入力する場合、1の位の7を、10の位の5を、100の位の8を押す、というわけだ。


 テンキー式にすることで、コンパクトかつ軽量になり、使いやすさも増した。1台39万5000円(当時の乗用車と同程度)という価格にもかかわらず、人気を博したという。


 その後の60年間で、キヤノンが発売してきたモデルは合計で約400種に上り、累計出荷台数は2億9000万台にもなる。


 それからわずか6年で、持ち運び可能な「ポケトロニク」を発売、小型軽量化を重ね、クレジットカードサイズの超薄型電卓「キヤノンカードLC-7」(1979年2月)まで誕生している。


 なお、日本で売れたのは抗菌機能のある「HS-1200C」(1988年5月発売)や千万単位機能搭載電卓「LS-120TU」(2002年2月発売)、コンパクトで大画面、そして軽減税率に対応したカラフル電卓「LS-105WUC」(2017年7月発売)などがある。


 興味深いのが、2023年に米国で売れたモデルとの比較だ。米国では、1位こそ「LS-82Z」という国内で販売されているのとあまり変わらないモデルであったが(それでも1ドルの価値が高いため桁数は8)、2位と3位ではプリンタ電卓となっている。


 変わり種としては、21人分の電話帳データを記録できる「パームトロニクLCメモ」(1978年5月発売)、前述のクレジットカードサイズの超薄型電卓、PCのテンキーとして使える他に計算した結果をPCに送信でき、さらにトラックボールやスクロールホイールが付いた「KS-1200TKM」(2003年12月発売)、テンキー搭載マウス「LS-100TKM」(2008年7月発売)などだ。


 キヤノン電卓の中の「最も○○な電卓」も紹介された。


 最も高価だったのは、1967年5月発売の「キヤノーラ325」で価格は59万5000円だった。最も軽いのは「キヤノンカードLC-7」で重量は約37gだ。


 2004年以降で最も売れたのは2009年8月発売の「HS-121T」で、累計出荷台数は98万台となっている。LS-121Tは抗菌タイプで、抗菌製品技術協議会ガイドラインで品質管理、情報公開された証であるSIAAマークを取得しているモデルだ。


 そして、最もロングセラーとなったのは、プリンタ付き卓上電卓「MP1215D-V」だ。1987年8月の発売から2008年まで21年間も販売されていた。「今でも銀行や保険会社など金融機関で愛用していただいている」と長氏は付け加えた。


●懐かしの名機たちが一同に


 発表会の会場には、キヤノンマーケティングジャパンが60年の間手がけてきた歴史的名機も含めた、さまざまな電卓が展示されていた。


 中でも、ひときわ目立っていたのが世界初のテンキー式電卓キヤノーラ130だ。商店街で見かけるレジスターほどの大きさがあり、重量は約18kgもある。「子供くらいの重さがあります」と長氏が解説していた。


 開発のきっかけは、カメラ事業の効率化を図りたいというものだった。キヤノンではカメラやレンズを開発しているが、その中で光学計算をするためだけの人員がいたという。それではあまりに非効率だということで、社内向けに計算機を開発して、生まれたのがキヤノーラ130というわけだ。


 金融機関や米国で愛用者の多いプリンタ搭載電卓の「P120-DH」。業界初の大型LCDを採用したACアダプター必須の電卓でもある。


 こちらもプリンタを内蔵した電卓だが、印刷方式がバブルジェットタイプだ。


 筆者が気になったのは、こちらのテンキー搭載マウス「LS-100TKM」だ。2008年発売の製品なので、今でも愛用している人がいるかもしれない。


 もちろん、関数電卓も開発している。関数電卓にしてはカラフルなので、持っていたらちょっと自慢できそうだ。


 デザインが自慢といえば、こちらも目を引いた。全体的にフラットな「X MARK I」だ。ちょっとオシャレな建築事務所などに置いてあれば「映える」と感じた。


 「懐かしい!」と感じたのは、クレジットカードサイズの電卓だ。一定以上の年齢の読者であれば、財布に忍ばせていたのではないだろうか。


 アラーム時計付きマルチ電卓「CC-10」は、変形ロボ的なギミックが非常に良い。携帯時は女性の化粧品アイテムのコンパクトのように、電卓として使うときには開いて伸ばして、アラームなど時計機能を使いたいときには、三角になるように組み立てて視認性を高められる。旅行に重宝する人が多かったというのもうなずける。


 最後は、最新モデル「HS-1220TUB」だ。使いやすい大きさのこの電卓は、キヤノン電卓として初めて植物由来の原料(バイオマスプラスチック)を使用した環境配慮型電卓となる。キーの一部にバイオマスプラスチックを、その他のプラスチック部品には再生プラスチックを重量の40%以上で使用している。


 機能によって整形の異なる3タイプのキー「快速入力傾斜キー」を搭載し、早打ちでも入力ミスを最大限抑制するようにしている。


 最後に、電卓市場の今とこれからの電卓を見ていこう。


●これからの電卓の行方は?


 国内の電卓市場は右肩下がりだ。特に2020年は、2019年の出荷台数が454万台以上あったのが393万台まで落ち込んだ。理由は新型コロナウイルスのまん延だ。「出社する人がいないから、備品としての電卓が必要ではなくなったのではないか」と長氏は見ている。


 その後も台数は下がり続けており、2023年では出荷ベースで3300万台、2024年〜2025年には少子化の影響や、それまで電卓を使っていたような業種で、より便利なツールが登場していることから、さらに下がるとキヤノンマーケティングジャパンでは予想している。


 とはいえ、キヤノンでは電卓事業の今後について悲観してはいない。その理由の1つは「しっかりした電卓への回帰が見られること」だ。クレジットカードサイズの電卓がもてはやされた時代もあったが、最近ではしっかりと素早くキーを打てる“きちんとした”電卓に人気が集まっているという。


 また、スマホにも電卓機能があるが、日商簿記検定でスマホの利用は認められていないし、ビジネスパーソンであればスマホアプリ以外の電卓の所持を求められる。


 その他の理由としては、自由度が高く小回りが利くことから、短いフローで商品化できること、抗ウイルス製品やバイオマスプラスチックなど時代のニーズを反映しやすいこと、「何より、やっていて楽しい仕事だと思えること」だと長氏。


 「60年という歴史の重みに責任を感じつつ、長く愛用してくださっているお客さまを裏切らないような製品を作っていきたい。そして、60周年を迎えたばかりだが、70周年、そして80周年と続けていきたい」と締めくくった。


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