「povo2.0」に“最短3分”契約のデータ専用プランが加わった背景 新サービスへの布石か

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2024年03月30日 10:31  ITmedia Mobile

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KDDIは、povo2.0でデータ通信専用プランの提供を開始した。最短3分で開通することを売りにしている

 KDDIのオンライン専用ブランド「povo2.0」に、データ専用プランが加わった。音声通話やSMSには非対応ながら、「最短3分で開通」することを売りにしている。提供開始までの時間を短くするため、物理的なSIMカードはなく、eSIM専用。もともとpovo2.0は基本料が無料のため、データ通信専用でも料金は変わらない。音声通話に対応する通常のpovo2.0と同様、トッピングも利用できる。


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 一方で、音声通話やSMSができず、物理SIMもなく、eSIMプロファイルの再発行にも非対応。「大は小を兼ねる」という観点では、音声通話に対応した通常のpovo2.0よりもサービスが“劣化”しているようにも見えてしまう。音声通話に非対応だったiPadなどのタブレットにも、通常のpovo2.0は使えたからだ。では、なぜpovo2.0はデータ通信専用のSIM発行に踏み切ったのか。実際に契約しつつ、その狙いを解説していきたい。


●eSIM専用のデータ専用プラン、本人確認の省略が狙いか


 データ通信専用という点を除けば、そのスペックはおおむねこれまでのpovo2.0と同じ。音声通話とSMSは利用できない一方で、トッピングを付けることは可能で、5Gにも対応している。ネットワークもauやUQ mobileと同じだ。MVNOとは異なり、相互接続点(POI)にボトルネックがあるわけではないため、基本的には通信品質も変わらない。


 大きな違いは、物理SIMに非対応なところ。ユーザーがeSIM対応端末を持っていなければ利用はできない。また、eSIMのプロファイルを再発行し、新たな端末に移すことも不可能になっている。データ通信専用ゆえに、電話番号を新しい端末に移すための“機種変更”をする必要性は薄いが、トッピングを付けた状態のまま新しい端末にプロファイルを移せない点には注意が必要だ。


 また、申し込み時にクレジットカードの登録だけでなく、初回のトッピングを購入しなければならない。選べるのは、「データ使い放題(24時間)」か「データ追加0.3GB(365日間)」。すぐにpovo2.0で大量のデータ通信をしたいときには前者、タブレットなどに入れて長く使っていきたいときには後者をトッピングすればいいだろう。どちらも料金は330円(税込み)かかる。


 音声通話やSMS、プロファイルの再発行に非対応という仕様面だけで判断すると、通常のpovo2.0より劣っているようにも見えるが、データ通信専用SIMの売りはそこにあるわけではない。「最短3分」をうたっていることからも分かるように、KDDI Digital Lifeも利用開始までの時間の短さを売りにしている。


 音声通話に対応している場合、身分証明書を使った本人確認が法律で必須になっているからだ。povo2.0は、オンラインで契約できるeKYCに対応しているが、契約の途中で身分証明書と本人の画像を照合させるプロセスがある。画像などを使ったなりすましを防ぐため、画面の指示に従い、顔を動かす必要もあり、時間や手間がかかるのも事実だ。これに対し、データ通信専用のSIMであれば、本人確認を簡略化することが可能だ。


 MNOやMVNOの一部は、データ通信専用SIMでも本人確認を実施しているが、これはあくまで業界団体の定めた自主規制にのっとったもの。法律で定められたルールではない。実際、楽天モバイルも楽天カードなどの個人情報を使って契約を簡略化する際には、データ通信専用SIMを用意していた。支払いのためのクレジットカードや住所などの情報は必要だが、eKYCほど厳密な手続きをしなくて済むため、すぐにデータ通信をしたいというユーザーのニーズには応えられる。povo2.0のデータ通信専用SIMも、発想は同じとみていいだろう。


【更新:2024年3月30日13時05分 「MVNOの一部」→「MNOやMVNOの一部」と修正しました。】


●アクティベートまで8分で完了、あっさり契約できたデータ専用プラン


 では、実際、povo2.0のデータ専用プランのeSIMはどの程度簡単に発行できるのか。電話を利用する必要がないiPad Pro(11型)の回線として、これを発行してみた。「povo2.0 データ通信専用」は、アプリかサイトから申し込むことが可能。iPad Proには、iPhone用アプリをインストールできるため、ここで手続きを進めた。なお、申し込みの際には、別のモバイル通信かWi-Fiでの接続が必要になる。今回はWi-Fi経由を選択した。


 既存のpovo2.0回線ではないので「初めての方はこちら」をタップすると、「データ通信」のみか「通話+データ」を選ぶための画面が現れる。これは、今までのpovo2.0になかった選択肢だ。データ通信専用には、本人確認書類が不要な旨や、通話、SMSが使えない注意事項などが記載されている。MNPも利用できない。次の画面で改めて注意点を確認した後、初回トッピングの選択画面に移動する。


 筆者今回、iPad Proに入れておき、メインのソフトバンク回線がつながらないときの使う予備回線にする方針だったため、「データ追加0.3GB(365日間)」を選択した。iPad ProのSIMカードは、ソフトバンクの「データシェアプラス」だが、汎用(はんよう)性を取ってSIMフリー用のSIMカードを入れている。こうした事情で、利用にはAPN構成プロファイルが必要になっていた。海外でeSIMを使い、日本に戻ったときなどにはプロファイルの再ダウンロードが必要になるが、これもpovo2.0があればWi-Fiに接続する必要なく作業を行える。


 トッピングを選択したら、重要事項説明などを開いていき、全てを見たら同意にチェックをする。次の画面では、アカウントの登録が必要になり、メールアドレスと連絡先電話番号をそれぞれ入力。メールとSMSそれぞれに届いた認証コードを入れ、氏名、生年月日、住所を入力した後、支払い方法をクレジットカードとペイディから選択する。筆者はクレジットカードを選び、番号を入力した後、「eSIMの設定に進む」をタップした。


 初期設定はわずかこれだけ。povo2.0は3回線目で登録するメールアドレスに少々迷ったり、別回線の紹介コードを入力しようとしたりしたことで余計な時間はかかってしまったが、こうした事情がなければもっとスムーズに回線を設定できる。このような回り道をしつつ、本稿に掲載するためのスクリーンショットも撮りながら進めていったが、eSIMプロファイルのインストール終了までにかかった時間は、わずか8分だった。


 うたい文句通りの3分にはならなかったものの、モバイル回線の契約と考えれば十分は速さといえる。KDDI Digital Lifeがデータ通信専用回線で提供したかったのは、まさにこのスピードと手軽さ。思い立ったらすぐに回線を追加できる気軽さは、データ通信専用回線の優位性といえる。ただし、現状、即時利用可能になるのが9時30分から20時までに限定されており、この点はコンセプトに沿った改善が必要だ。


●ホワイトレーベル化に必要なピースとしてのデータ専用プラン、新たなサービス登場も近い?


 このタイミングでpovo2.0がデータ通信専用のサービスを開始した背景には、同ブランドのホワイトレーベル戦略が密接に関係しているとみていいだろう。2月にスペイン・バルセロナで開催されたMWC Barcelonaで、KDDI Digital Lifeはpovo2.0の今後の展開を明かした。SDKを通じて他社のサイトやアプリからpovo2.0の回線を利用できるようにすることで、黒子として回線を提供するのが同社の次の一手だ。


 MWCでは、そのデモとしてアイドルのファンサイトから直接、povo2.0のeSIMプロファイルを発行したり、トッピングを購入できたりする仕組みを展示していた。ユーザーはそれをpovo2.0と意識せず、そのサイトで利用するのに必要な回線やトッピングを入手するというのがそのコンセプトだ。ホワイトレーベル化のテストとして、日本ではライブ配信サービス「SHOWROOM」に直接povo2.0のトッピングを購入できる仕掛けも展開していたという。


 KDDI Digital Lifeの代表取締役社長、秋山敏郎氏は「テレコ(通信事業者)が持っていた機能をオープン化し、パートナーに自由に使ってもらうというのが趣旨」と語る。秋山氏が例として挙げていたのは、テーマパーク。ワンデーチケットを販売するようなアプリ内にpovo2.0を組み込み、Wi-Fiの代わりにモバイルネットワークを提供するというものだ。スポット的に場所が限定されるWi-Fiとは異なり、基本的にはどこでも通信ができるため、テーマパークとは相性がいい。


 これまで通り、povo2.0側が回線を販売することもできるが、テーマパークのユーザー接点としてのアプリからpovo2.0をスマホに組み込めた方がフローとしては自然だ。テーマパークに限らず、カラオケやレストランなど、リアルな場への応用も効く。また、SHOWROOMのようなデジタルサービスを提供する事業者が、コンテンツの利用に必要な分だけpovo2.0のトッピングを配布するといったことがしやすくなる。現在、povo2.0ではローソンのからあげクンや、ミスタードーナッツのギフト券を組み込んだトッピングを販売しているが、ホワイトレーベル化は、これと逆ベクトルの取り組みといえそうだ。


 ワンショットでpovo2.0の回線を使ってもらう際に課題になっていたのが、本人認証を含めた回線契約の煩雑さだ。秋山氏は、そのハードルを「最大の問題は(eKYCで)首を振らなければいけないこと」と語り、「さすがにそれはない」と断言。解決策の1つとして、「今のような使い方だと音声はいらない」と述べ、本人確認が比較的緩いデータ通信専用回線の導入を示唆していた。データ通信専用回線の導入で、ホワイトレーベル化に必要なピースがそろった格好だ。


 ただし、住所入力やメールアドレス登録の手間など、まだ乗り越えるべき壁がある。povo2.0のアプリ以外からeSIMを発行する場合には、その事業者のアプリに登録した氏名や住所を流用できるようにするなど、仕組みを整えていくことは必要だ。また、今回の契約では、Safariに登録したクレジットカード情報を使えなかったが、これも自動入力できた方がより契約を簡素化できる。


 有料の場合でもアカウント情報や決済情報を入力するだけで済むWi-Fiに近い使い勝手を実現するには、あと一歩といったところだろう。こうした細かな改善点がある一方で、データ通信専用回線の提供でホワイトレーベル化に一歩近づいたのも確かだ。秋山氏は「来年度(24年度)上期で3つ、4つは出していかないといけない」と語っていたが、その要素を急ピッチで整えていることがうかがえる。


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