Lenovoは「AI」にどう取り組む? デバイス部門のダリル・クロマーCTOに聞く

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2024年04月04日 12:41  ITmedia PC USER

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Lenovo インテリジェント・デバイス・グループのダリル・クロマーCTO(写真提供:Lenovo)

 最近は「AI(人工知能)」に関するニュースを聞かない日はない。PCやスマートフォンで使うAIといえば、従来はクラウド(オンラインサーバ)側で処理するものがメインだったが、昨今は「オンデバイスAI」(デバイス内で処理が完結するAI)にも注目が集まっている。


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 オンデバイスAIの鍵を握るのが、推論処理に特化した演算プロセッサである「NPU(ニューラルプロセッサ/推論アクセラレーター)」だ。NPUの搭載はスマートフォン/タブレット向けのSoC(System on a Chip)で先行していたが、2023年半ばからPC向けCPU/APU(GPU統合型CPU)にも広がっている。


 少し大げさにいうと、2024年はある意味で「オンデバイスAI元年」といえる。デバイスメーカーは、各種AIにどのように取り組んでいくのだろうか。Lenovoのインテリジェント・デバイス・グループ(※1)でCTO(最高技術責任者)を務めるダリル・クロマー氏から話を聞いた。


(※1)PC事業、スマートデバイス事業、モバイル事業(Motorola Mobilty)を統括する部門


●AIは「パーソナル」の定義を変える ユーザーを知るPCに


―― 最近、「AI」がものすごい“バズワード”になってきていると思います。Lenovoとしてクライアント製品、とりわけPCやスマートフォンにおいてどのように取り込んでいこうと考えていますか。


クロマー氏 おっしゃる通り、最近は生成AIを始めとして、AIに関する期待が非常に高まっています。当社のPCやスマホでいえば「カメラの画質向上」「電力の管理」「放熱の管理」「デバイスの障害予測」といったことにAIを使っております。


 生成AIについて、私たちは非常に期待を高めています。生成AIを使うことでお客さまに新しい機能を提供できるということもあると思います。(生成AIに基づく新しい機能によって)AIそのものの“使い方”も変わっていく可能性もあります。それを(快適に)使えるデバイスを提供していきたいと考えています。


 AIは、デバイスの体験も向上できるものです。「PC」は「パーソナルコンピュータ」を意味します。今までは「個人が所有する」という意味でパーソナルでしたが、これからは「デバイスがユーザーを理解する」という意味でパーソナルということで、パーソナルの定義が変わっていくのかなと思っています。


 とりわけ、私たちとしてはAIを使った作業の効率化に寄与したいと考えています。私たちは長年AIを使ってきましたが、(デバイス類の)開発や製造、そして企業運営など、AIを一層活用して変革していきたいと思っています。


●オンデバイスAIを快適に使う鍵は?


―― AMDがノートPC向けにNPU搭載のAPU(Ryzen 7040/8040シリーズ)をリリースして、IntelもノートPC向けにNPU搭載のCPU(Core Ultraプロセッサ)を投入しました。オンデバイスAIの処理を高速にこなせるということで、今後、特に生成AIで面白いことができそうな予感もするのですが、このことが「Think」「Yoga」「Idea」といったLenovoのPC製品の“形”や“位置付け”に変化をもたらすことはあるのでしょうか。


クロマー氏 とても良い質問だと思います。他社の動向を話せませんが、全般的なトレンドから話しをすることはできます。


 生成AIをオンデバイスで処理するということになると、(ハードウェアに)さまざまな要件が課されます。例えばLLM(大規模言語モデル)を使おうとなると、何十億、何百億というトークンを処理する必要があります。データを並列で読み出す必要があるので、それに対応するだけの大容量かつ高速なメモリが必要になります。デバイスの設計で重視すべきことを変更しなくてはなりません。


 ただ、私たちとしては、クラウド、エッジ、そしてオンデバイスで分散してAI処理は行う「ハイブリッドモデル」になるのではないかと思っています。「このタスクはPC(オンデバイス)寄りで」「あのタスクはクラウド寄りで」といったように、処理すべきタスクの種類や性質に応じて、いろいろな形で処理を分散するイメージです。


 もう少し具体的に言うと、大規模なパブリックモデルを使うAIはクラウド処理、プライベートファウンデーションモデルを使うAIは、学習をクラウドで行い、それをもとにオンデバイス、あるいは(そのまま)クラウドで処理という感じになるのではないでしょうか。


 今後もCPU、GPU、そしてNPUは新たな機能を搭載していくと思います。このことで、処理能力が向上し、メモリの帯域幅も拡大していきます。将来的には、(学習段階から)単独でパーソナルファウンデーションモデルを処理できるPCやスマホも出てくるのではないでしょうか。


―― 今後のPCやスマホではメモリへのアクセススピード、言い換えると帯域幅が重要になるということでしょうか。


クロマー氏 これも良い質問です。これからのPCやスマホに求められるスペックを考える上で、「どれだけの演算処理が必要か?」「どれだけのデータを扱うのか?」を考えなければいけません。


 そうなると、どうしてもメモリやストレージの容量は多く求められます。例えば、80億パラメーターの言語モデルは、容量に換算すると8GBほどです。これをメモリに高速展開するとなると、メモリやストレージには(容量だけでなく)一定の帯域幅も必要です。


 処理すべきワークロード(作業内容)によって、必要な「CPU/GPU/NPUの処理能力」と「メモリやストレージの帯域幅や容量」は決まってきます。処理すべきモデルが大きければ大きいほど要件は高くなるわけですが、その分レスポンスも良くなります。


 現在、米国や日本において、パートナー企業の協力を得ながら1つ1つのワークロードに対して“適正な”コンフィギュレーション(仕様)を探る研究に注力しています。この研究が進めば、お客さまに“適正な”スペックのデバイスをお勧めしやすくなると考えています。


 ご存じの通り、ThinkPadシリーズであれYogaシリーズであれ、私たちは世界有数のパフォーマンスと電力管理、軽量性や薄さを備えたPCを取りそろえています。これからの時代のPCも、業界をリードするようなものになると自負しています。


 「AI PC」の時代になっても、Lenovoのエンジニアリング精神はしっかりと生き続けると確信しています。


●AI PC時代の大和研究所の役割


―― 研究開発といえば、日本にはレノボ・ジャパンの大和研究所があります。AI PC時代に同研究所はどのような果たす役割を果たすのでしょうか。


クロマー氏 大和研究所はLenovoにおいて重要な研究開発拠点の1つで、長年に渡ってThinkPadシリーズの研究開発を担ってきました。私たちのAI PCの創造においても、大和研究所の貢献は大きなものです。


●ビジネスPCにおけるAI利用も期待


―― Lenovoは「ThinkStation」や「ThinkPad Pシリーズ」のようなPCベースのワークステーションも販売しています。今後、ワークステーションにもNPUの搭載が進んでいくと思いますが、ワークステーションを含むビジネスPCは、コンシューマーPCとは異なるAIの使い方(使われ方)になるのでしょうか。


クロマー氏 違う部分は出てくると思っています。クラウドサービスにも「コンシューマー向け」と「ビジネス向け」がありますが、それぞれにサービス面での差分があるのと同様です。


 コンシューマーであれば、ゲーミングや教育でもAIの利用が進むと見ています。また、パーソナルファウンデーションモデルが普及すれば、個々人の人生における重要な意思決定にもAIが使われるかもしれません。


 ビジネスでは、生産性の向上、業務の効率化、(業務への)理解を深める用途でAIが使われるでしょう。クリエイティブでも、3Dモデリングの生成などでAIが活用が進むと思います。


 「AIが話題になっている」という冒頭の話に戻りますが、そもそもなぜAIに多くの期待が集まるのかといえば、特に生成AIは“あなた”も“私”も使える新しい技術だからという面もあります。


 自分の娯楽に使うこともあるでしょうが、その過程でクリエイティブな作業に参画することもあるでしょう。Copilotを使って(プログラムの)コーディングをすることや、ChatGPTを使って何かを質問することも含めて、非常にオープンかつインクルーシブ(包摂的)な形で(今までできなかったことに)参画できるということが重要なのです。


 コンシューマーであれ、SMB(中小ビジネス)であれ、エンタープライズ(大規模ビジネス)であれ、文教分野であれ、製品にAIを始めとする新しい機能を搭載することで、私たちの製品をより便利に使っていただきたいと考えています。


●LenovoはAIでどんな世界を目指す?


―― Lenovoとして、AIを使ってどのような世界を構築していきたいのか、考えがあれば教えてください。


クロマー氏 私個人は1987年、当時のIBMが「PS/2(Personal System/2、※1)」をリリースした頃からPCビジネスに携わっています。「PCの体験をユーザーにとってより良くしよう、改善しよう」という思いで仕事をしてきました。


 今後、(NPUを備えるデバイスによって)新たな体験を提供していくことになりますが、「みんながデバイスを理解する」のではなくて「デバイスがみんなを理解する」ということが重要なのだと思います。より使いやすくなって、より楽しくなって、そして生産性も向上する――そんなPCやタブレット、スマホを提供していくことが、私たちの使命ですし、そのような機会を提供できることを光栄に思っています。


(※1)日本では、基本的にハードウェア(ごく一部のモデルはソフトウェア)で日本語表示/入力機能を追加した「PS/55(パーソナルシステム/55)」として販売された。ちなみに、現在も一部のPC(マザーボード)で使われているPS/2端子は、その名の通りPS/2シリーズで初めて使われたものである


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