「料理は“型”があれば迷わない」スープ作家・有賀薫さんが教える、レシピなし料理の秘訣

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2024年04月05日 20:00  クックパッドニュース

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クックパッドのポッドキャスト番組「ぼくらはみんな食べている」。食や料理に熱い思いを持ち活躍するゲストを迎え、さまざまな話を語ります。クックパッド初代編集長の小竹貴子がパーソナリティを務めます。今回はスープ作家の有賀薫さんがゲストの後編です。

前編の記事はこちら

男女の「料理への意識の違い」を認識することが大事

小竹:有賀さんは男性向けの料理教室も開催されていると聞きました。

有賀さん(以下、敬称略):料理教室ではなく、ごはんの話をただするだけのイベントを行っていまして、その男性限定版をやったんですね。

小竹:おもしろそうですね。

有賀:普段はどんなごはんを食べているのかみたいな話をするのですが、みんなで話すと意外と盛り上がるんです。

小竹:具体的にはどういった話をするのですか?

有賀:例えば、小竹さんは夜ごはんはどんな風に食べていますか?

小竹:2回に分けて食べていますね。長女と夫が先で、塾に行っている次女と私が後です。

有賀:どういったごはんを食べていますか?

小竹:ごはんと味噌汁とおかず2つくらいですね。

有賀:小竹さんの食卓の風景が少し見えてきましたが、こういった話を聞いてみると、食生活って驚くほど多様で本当におもしろいんです。

小竹:うんうん。

有賀:こういったイベントを行うとやはり女性が多くなるので、たまには男性の話も聞きたいと思い、男性限定で2回くらい行いましたね。

小竹:どんな感じでしたか?

有賀:そのときは、料理も含めた家事全般というテーマだったため、普段から家事をしている男性が結構集まったのですが、男性は家事をタスクやミッションのように捉えていて、目標に向けて仕事みたいに片付ける人が多いと感じました。

小竹:へぇ、おもしろい。

有賀:「◯◯に家事のモチベーションを持っています」みたいな感じで。女性が集まってそんな話になることはないですからね。

小竹:ないですね。

有賀:そういったところに男女の違いがあるということに気づくのも大事かなって。ただお互いが不満だけを言うのではなくて、どこに差があるのかを認識する。

小竹:なるほど。

有賀:夫婦参加もありだったので、ご夫婦それぞれの話も聞けたのですが、旦那さんは自分が6:4で家事をやっていると思っていて、奥さんは自分が6:4で家事をやっていると思っていたんです。

小竹:数字が合わないですね(笑)。

有賀:合わせたら12になっちゃう(笑)。でもそうすると、そこに何か食い違いが生じているなとか、意識の差があるなということに気づける。

小竹:それはとても大切なことですね。

有賀:昔は男性の料理というと、スパイスカレーとか肉の塊を焼くみたいな感じでしたが、最近の家事をする男性は冷蔵庫にあるものでパパッと作るのが得意という人も多くて、そこに男女差はあまりない気がしました。

小竹:男性の料理というと、材料費がかかるとかキッチンを汚すみたいなことを耳にするケースが多い印象ではありますよね。

有賀:この予算でやるみたいになったら、たぶん男性のほうが強い気がします。制限された時間の中で計画的に課題解決をするといった感じで。

小竹:もう完全に仕事ですね(笑)。

環境から変えて「食への負担感」を減らしたい

小竹:男性の場合、キッチン台が低すぎて腰が痛くなるから料理をしたくないというケースも多くて、そういった問題もありますよね。

有賀:私も料理の問題点を箇条書きにしてみたのですが、そのうち結構な割合を占めるのが「キッチン」なんです。

小竹:そうなんですね。

有賀:高さの問題もあるし、キッチンが寒いといった問題もある。あと、今のキッチンは1人用が多い。

小竹:たしかに、1人で料理をする前提で作られていますよね。

有賀:そうそう。だから、キッチンに立つのはいつもお母さんということにもなる。そういう意味でもキッチンの問題は結構大きいと感じます。

小竹:そうですね。

有賀:私が作った『ミングル』というミニキッチンもそういったことに対応するためのものです。

小竹:どのくらいの大きさなのですか?

有賀:一辺が95cmの正方形のダイニングテーブルで、真ん中にIHが1つ埋め込まれていて、テーブルの角に小さなシンクがついています。さらに、テーブルの下には食洗機が埋め込まれています。


小竹:すごいですね。

有賀:作る、食べる、片付けるがオールインワンでできる。そして、四方からみんなが料理に参加することもできます。

小竹:コンロが真ん中だからみんなが手が届きますもんね。

有賀:キッチンの代わりというより、セカンドキッチンとしてリビングに置く。リビングで料理をするので、1人でやっている感覚がなくなり、手伝ってもらいやすくもなる。

小竹:作りながら食べたりもできますね。

有賀:もともとは1人暮らしや2人で住んでいて、あまり料理をしない人のキッチンとして考え始めたんです。

小竹:うんうん。

有賀:食というものを環境から軽くしていくことで負担感を減らしたくて。家庭料理に対して求めすぎている傾向があって、その理想からのマイナスによって、不満やしんどさなどが生じていると思うんです。

小竹:すごくわかります。

有賀:最初の基準を簡単にしつつ、料理をするという行動はなるべく促すような仕組みができないかということで考案しました。

小竹:そのように環境から新しい提案をしようと思い始めたきっかけは?

有賀:いろいろなスープの提案をしてきましたが、やはりレシピだけではそこまで多くの人には届かないので、環境からアプローチをする方法もないかなと感じ始めるようになりました。

小竹:スープの後に次のアプローチとなると、普通はほかの料理ジャンルにいくのに、いきなり環境にいったのはすごいですよね。

有賀:料理家の先生がよく自分のエプロンを作ったり鍋を作ったりするのと、そんなに感覚的には変わらないです。

小竹:そうなんですね。

有賀:スープのときも、ダシがなくてもできるとか煮て塩をかけるだけでもおいしいみたいな提案をしたら、そういう発想でレシピを作る人が少しずつ増えた気がするので、キッチンなども提案することによって、さらに改良していってもらえたらいいかなと思っています。

自分の“型”を持つと料理が楽になる

小竹:クックパッドはレシピサービスとして長く運営していますが、レシピがあることで逆に料理の楽しみを奪っているのではないかと思う部分も少しあるんです。

有賀:それはどういった点で?

小竹:カーナビに近いのですが、カーナビがあれば目的地にすぐに行けますが、ドライブの楽しみがなくなる面もあるかなって。景色を楽しむとか寄り道をするとか地図を広げるとか。

有賀:うんうん。

小竹:それと同じで、レシピがあると冷蔵庫の中身を見て考えるとか味の調整を楽しむみたいなことがなくなる気がするんです。

有賀:私は基本的にはレシピは絶対にあったほうがいいとは思っていますが、レシピが向く人と向かない人はいると思います。

小竹:すごくわかります。

有賀:レシピを見ながらどんどん作って、失敗しても次に活かそうと考えるトライアンドエラー型の人はいいですが、料理経験が全くない人や初心者の人などは適量や加減もわからないから、やはり目安としてレシピは絶対に必要だと思うんです。

小竹:そうですね。

有賀:あと、分量を書くことでレシピの違いが出る。肉じゃがでもいろいろなタイプの肉じゃがあり、料理をしていく段階でそういった違いがあることがわかってくると、やはりレシピはあったほうがいいと感じるはずです。

小竹:うんうん。

有賀:自己流だけでは行き着く先が止まってしまうので、そこから先に進むときには必要ですよね。

小竹:有賀さんの本は、レシピ以外にも、こうするといいよみたいな“型提案”にも結構ページを割いている印象があります。

有賀:そうなんです。そうも言いつつ、レシピを見ずにパパッと作れるのが家庭料理の理想だとも感じています。

小竹:理想ですね。

有賀:家で作るときに、迷わずにできる“型”があるといい。私がスープで提案しているのは、具材とダシと調味料とオイル。この4つでスープは成り立っていると話しています。

小竹:具体的にいうと?

有賀:例えば、具材がトマトとチキンなら、だしはトマトとチキンから出るからそれを利用する。調味料の塩とオリーブオイルを入れると洋風のチキンスープになります。

小竹:そうですね。

有賀:調味料の塩と鶏ガラスープの素を入れて、オリーブオイルではなくごま油を入れたら中華スープになる。こんな感じで自分の中に型を持つと、レシピに頼りすぎずに普段の料理をパパッと作れるようになります。

小竹:毎日作るものですからね。

有賀:家庭料理で一番大事なことは「料理がある」こと(笑)。今日はごはんがありませんとなってはダメなので、骨組みだけでもあれば生き延びられるという料理ができることがまず重要です。

小竹:なるほど。

有賀:レシピがあることが問題なのではなくて、ありすぎてどこからスタートすればいいかわからないことが問題。だから、まずは“型”のようなシンプルなものからスタートすれば、レシピはすごくおもしろいものだと思います。

小竹:有賀さんのスープは、あることから始まるという骨組みを提案しているのですね。

有賀:そうそう。スープだけではなくて、料理でも自分の絶対的な“型”を2つ3つ持っていると強いですよね。

「味噌汁」を上手に作る裏ワザとは…

小竹:有賀さんはこれまでに本を何冊出されているのでしょうか?

有賀:さっき数えてみたら単著で14冊出していました。

小竹:さまざまな本を出されていますが、最新刊の『私のおいしい味噌汁』はどういった経緯で企画を考えたのですか?

有賀:味噌汁は毎日のごはん作りに密接に結びついた料理です。私も結婚してから30年間ずっと味噌汁を作り続けています。朝はスープを作り、夜は味噌汁を作り続けている(笑)。


コーンとアスパラのバター味噌汁。禁断のバター落としで変化をつけた、アレンジ味噌汁です。コーンがたっぷり入っているのでお腹にもたまります

小竹:知らなかったです(笑)。味噌汁のレシピ本が出るのは私の中で斬新でしたが、読むと気づきがとても多かったです。

有賀:味噌汁もやっぱり型ですよね。考え方を伝えておけば、それによって自分の味噌汁が作れるよっていう。

小竹:私が一番共感したのは、最初にお玉の中に味噌を放置しておくっていうこと。私もこれをやっているんです(笑)。

有賀:風味が落ちるから味噌は直前に溶くとか、沸騰させてはいけないとか言われるじゃないですか。でも、私は煮る最初のときにお玉に味噌を入れてポンッて入れちゃいます。

小竹:うんうん。

有賀:そのまま溶かないで置いておくと、ほかの料理を作っている間に味噌が少しずつ緩んできて、最後に全て仕上がった後にお玉を触るとサラサラって溶けるんですよ。

小竹:「私と一緒の作り方だ!」と思って、そのページに付箋を貼りました(笑)。

有賀:味噌こしとか使うのはめんどくさいですもん。

小竹:こしに味噌が残っちゃうからもったいないですしね。最後に、今年やっていきたいことなどがありましたら教えてください。

有賀:1つは、YouTubeでスープ旅というものをやっていて、日本全国を訪ねて各地域の汁物や郷土料理などをピックアップして、私なりのアレンジをして動画にして出しているので、これは続けていきたいです。

小竹:芋煮会の回、とてもおもしろかったです。

有賀:ありがとうございます。あと、私はノートをよく使っていて、ノートを活用した本に近いものができないかなと考えているので、そういったこともやっていきたいです。

(TEXT:山田周平)

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【ゲスト】

第1回・第2回(3月22日・29日配信) 有賀 薫さん


スープ作家。息子を朝起こすために作りはじめたスープを SNS に毎朝投稿。10 年間で作ったスープの数は3500 以上に。現在は料理の迷いをなくすシンプルなスープを中心に、キッチンや調理道具、料理の考えかたなど、レシピにとどまらず幅広く家庭料理の考え方を発信している。著書『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』(文響社)で第5回レシピ本大賞入賞、『朝10 分でできる スープ弁当』(マガジンハウス)で第7回レシピ本大賞入賞。ほかに『スープ・レッスン』(プレジデント社)、『有賀薫の豚汁レボリューション』(家の光協会)、『私のおいしい味噌汁』(新星出版社)など。

X: @kaorun6
Instagram: @arigakaoru

【パーソナリティ】 

クックパッド株式会社 小竹 貴子


クックパッド社員/初代編集長/料理愛好家。 趣味は料理🍳仕事も料理。著書『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』『時間があっても、ごはん作りはしんどい』(日経BP社)など。

X: @takakodeli
Instagram: @takakodeli

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このニュースに関するつぶやき

  • 「料理は簡単だ」というのは、「数学なんて簡単だ」というのと同じくらい欺瞞。元からセンスのないもんにはどうにもならん。できん子は何やったってできん。
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