おおひなたごう「はやく『レコード大好き小学生カケル』を描き上げたい」漫画家人生を振り返る展覧会開催

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2024年04月06日 12:10  リアルサウンド

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■おおひなたごうの歩みを振り返る展示会

 ギャグ漫画界の鬼才として知られる漫画家・おおひなたごう。破天荒かつシュールな『おやつ』『目玉焼きの黄身 いつつぶす?』などの作品で知られ、豪華ゲストと「ギャグ漫画家大喜利バトル」を開催したと思ったら、2013年からは京都精華大学の教授も務める教育者としての一面をもつなど、多岐にわたる活躍で知られている。


  そんなおおひなたの漫画家人生を回顧する展覧会「What an OHINATAful World〜この素晴らしきおおひなたごうの世界〜」が、「京都国際マンガミュージアム」で開催されている。デビュー前に描かれた漫画の展示から、なんとWEBTOONを思わせる縦読み漫画の“絵巻物”まで登場するなど、斬新な内容が話題だ。1991年にデビューし、漫画家生活33周年を迎えたおおひなたに展示の見どころを聞いた。


■1990年代は、不条理ギャグ漫画全盛期

――おおひなたごう先生の個展がはじまりました。見どころを教えてください。


おおひなた:会場は時系列順に「黎明期」「量産期」「迷走期」「激変期」「成熟期」の5つの章に分かれ、僕の作風の変遷を見ることができます。こんなに作風が変わっているんだ、と実感していただけると思います。


――作風が多彩なことで知られるおおひなた先生は、1991年にギャグ漫画家としてデビューしました。


おおひなた:90年代は、不条理漫画や4コマ漫画が盛り上がっていたので、ギャグ漫画でデビューしやすかったんですよ。バブル景気の余韻もあって次々に新しい雑誌が創刊されていたので、たくさん仕事をいただいていた時期です。


――まさに「量産期」にあたりますね。


おおひなた:そうですね。月に最大11本連載していたこともあります(笑)。週刊、隔週、月刊の連載を並行して描き、月に20回締切があるという状態でした。


■雑誌の衰退で新たな作風を模索

――思えば、90年代は漫画雑誌に必ずギャグ漫画が掲載されていた時代でした。


おおひなた:巻末には必ずと言っていいほど載っていましたからね。ところが、2000年代になると徐々に出版バブルが弾けていき、雑誌が休刊になったり、ギャグ漫画が打ち切られるようになっていきます。さらに、売れ筋の作品じゃないと単行本が出なくなりました。僕も例外ではなく、長期の連載ができなくなり、打ち切りも相次ぎました。どんどん仕事が減っていったので、作風を変えることを余儀なくされました。


――2002年以降を「迷走期」と呼んでいるのはそのためでしょうか。


おおひなた:僕の中では厄年が続いた時期ですね。企画も通らず、連載が「テレビブロス」の1本だけになったこともありましたから。


――とはいえ、迷走と言いながらも、試行錯誤が繰り返されているように思います。


おおひなた:今回は展示ができなかったのですが、『まほう少女トメ』という原作付きのホラー漫画の合作は印象深い仕事でしたね。ギャグ漫画家は原作に回ることが多いですが、僕の場合は作画を担当しました。絵柄もまるごと変えたかったし、ネーム原作だったので他人のコマ割りで描くことによって、新しい表現も身につけられたように思います。また、90年代の「おやつ」は毎回3〜4ページでしたが、この頃からページ数が多い作品が増えています。


 


■『目玉焼き』のヒットが自信に

――そして、迷走期を脱し、2012年におおひなた先生の代名詞ともいえる『目玉焼きの黄身 いつつぶす?』が誕生するわけですが、その前に京都精華大学の教員にもなっていますね。


おおひなた:京都精華大学にギャグマンガコースが新設される際に、教員のオファーがきました。講師の仕事をしながら新作を描き続け、『目玉焼きの黄身 いつつぶす?』がそれなりに話題になってくれたので嬉しかったですね。アニメやドラマにもなり、なんとか厄年を脱出できました。


――『目玉焼き』のヒットで周りからの目も変わりましたか。


おおひなた:僕のファンじゃない人も読んでくれている、という実感が得られたんですよ。従来のファンからも、読後に「これ、おおひなたごうだったのか!」と、驚かれたケースも多かったようですし。ネットでエゴサ―チをしていると「こんな奴と飯を食いたくない!」とか(笑)、作品の内容に踏み込んだ感想も多くて、純粋に作品の内容を楽しんで読んでもらえていると思いました。


■大好きなレコードを漫画の題材に

――デビューから33年を迎え、おおひなた先生は現在を「成熟期」と表現しています。そんななかで『レコード大好き小学生カケル』を発表されていますね。


おおひなた:『レコード大好き小学生カケル』は、今まで影響されてきたもの、見聞きしてきたもの、そして大学で教員として教えてきたもののすべてを結集した集大成のような作品にしたいと思って描いています。始まるまでにも試行錯誤があって、はじめは『目玉焼き』のようなリアル寄りの絵柄でした。そして、主人公のアラフォーの主婦がレコードに目覚めていく……というストーリーを考えていましたが、ちょっと地味すぎて、やり直しました。


――まるで別物ですね。


おおひなた:いっそのことキャラを総とっかえにして、アラフォーのリアルな生活より、ギャグに振り切ってレコードを題材に描こうと。よく考えたら、ギャグ漫画なら主人公が多少常識外れなことをやっても許されるんですよね。そして、原点回帰の意味で、90年頃の絵柄に戻しました。


――絵柄の話が出ましたが、おおひなた先生は創作した漫画のジャンルが多彩ですし、展示を見てわかるように、絵柄も大きく変化しましたよね。


おおひなた:「月刊プリンセス」で、まさか自分が少女漫画誌に描くことになるとは思いませんでした(注:作品は『空飛べ!プッチ』)。絵柄については、『スーツマン』あたりからリアリティのあるストーリーものを描きたくて、意識的に頭身の高いキャラクターを描くようにしました。


――ご自身でも、ここまで幅広い作風になるとは思わなかったのではないでしょうか。


おおひなた:いや、でも根本は変わっていないので、自分としてはそこまで幅広いものを描いているとは思っていません。ストーリー漫画にも絶対にギャグを入れてしまいますし。これから作風を広げるとしたら、ギャグ無しのストーリー漫画になるでしょう。


■京都展に合わせて漫画の絵巻物を制作

――今回の展示で興味をそそられたのは、漫画の絵巻物です。WEBTOONのような縦スクロール漫画を紙で表現する、画期的な試みですね。


おおひなた:縦スクロール漫画は紙のコミックスにするのが難しいのがネックで、そこが日本の漫画家が二の足を踏む一因になっていると思います。だったらコミックス化をしてみようということで検討した結果、絵巻物になりました。今回は縦スクロールで製作しましたが、伝統的な意味では、横スクロールの方が合っているのかもしれません。


――しかも装丁が凝っています。


おおひなた:そこは、きちんとした業者に依頼して作っています。知り合いに装丁を手掛ける会社に勤めている人がいて、相談したところ、絵巻も製作できると言われたんです。すぐに話し合いをして、実現の可能性を探っていきました。


――伝統的なスタイルの絵巻物は、京都の展示会にぴったりですよね。


おおひなた:今回の絵巻物は限定で販売もしていますが、日本最古の漫画といわれる「鳥獣戯画」も京都の高山寺にありますし、京都に合っていると思います。「京都国際マンガミュージアムには漫画の歴史に関する展示もありますが、電子書籍ではない最新のコミックスの一例として、この絵巻物が展示されたら面白いですよね(笑)。


 


■『カケル』をしっかり完結させたい

――おおひなた先生は常に新しい企画に挑戦を続けています。今後の抱負を教えてください。


おおひなた:今は『レコード大好き小学生カケル』を最後まで描き切ることしか考えていません。カケルは小学生ですが、中学生になったら中学生編、その後には高校生編、予備校生編……と続き、課長編、取締役編まで続けたいなと思っています。


――『島耕作』シリーズみたいですね(笑)。


おおひなた:レコードって、年齢に合わせた楽しみ方があるんですよ。子どもはお小遣いでなかなかレコードが買えないし、高級なオーディオは揃えられないじゃないですか。それでも、年齢に合った聴き方、こだわり方があるんです。カケルの成長に合わせて、レコードの魅力を描きたいなと思っています。


――完結どころか、永遠に描けそうじゃないですか。手塚治虫先生の『火の鳥』のように、おおひなた先生のライフワークになりそうです。


おおひなた:いやいや、まずは作品の人気が出てくれないと続きが描けませんから(笑)。4月12日に単行本の1巻が出ますので、まずはしっかり売ることを目標に頑張っていきたいですね。


▼展示会情報
「What an OHINATAful World 〜この素晴らしきおおひなたごうの世界〜」
会期/2024年3月14日(木)〜6月25日(火)
※前期:3月14日(木)〜5月7日(火)、後期:5月9日(木)〜6月25日(火)。会期中、一部原画の展示替えが行われます。
休館日:水曜日(3月20日、5月1日を除く)、3月21日(木)
時間/10:30〜17:30(最終入館は17:00まで)
会場/京都国際マンガミュージアム
〒604-0846 京都市中京区烏丸通御池上ル(元龍池小学校)
料金/大人900円、中高生400円、小学生200円(ミュージアムの入館料)
https://kyotomm.jp/ee/ohinataful-world/


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