「SCMのパナソニック コネクト」になれるか? 新たな買収で攻勢をかける同社の野望

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2024年04月08日 17:21  ITmediaエンタープライズ

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パナソニック コネクトの樋口泰行氏(代表取締役 執行役員 プレジデント・CEO)

 「企業の基幹業務を支えるITとして、(ERPやCRMなどの)オフィス系とともにサプライチェーン系が、これから一段と有望な市場になると確信している」


「SCMのパナソニック コネクト」になれるか? 新たな買収で攻勢をかける同社の野望


 パナソニック コネクトの樋口泰行氏(代表取締役 執行役員 プレジデント・CEO)は、同社が2024年3月29日に開いた企業買収についての記者説明会でこう力を込めた。


 パナソニック コネクトがサプライチェーン分野へ本格的に攻勢をかける思いや取り組みについては、2023年2月20日公開の本連載記事「パナソニック コネクトが打って出る『一大勝負』とは? SCMに注力する理由を樋口社長に聞いてみた」で紹介した。それからおよそ1年たった今、さらなる攻勢へ打って出た格好だ。企業の基幹業務ソフトウェアの観点から見ても興味深い動きなので、筆者なりに考察したい。


 まずは今回の発表内容について、樋口氏の説明を基に概要を紹介する。


●子会社のBlue Yonderを通じてワンネットワークを買収


 今回の発表の骨子は、同社がSCM(サプライチェーン管理)ソフトウェアを提供する子会社の米Blue Yonderを通じて、企業間のデジタルサプライチェーンネットワークを提供する米ワンネットワークエンタープライズ(One Network Enterprise)を買収することで合意したというものだ。買収額は約8億3900万ドル(約1270億円)。2024年度第2四半期(7〜9月)をメドに買収を完了する予定だ。


 ワンネットワークが提供するデジタルサプライチェーンネットワークとは、「複数の企業が同一のプラットフォーム上で需要や供給、売買、物流、在庫といったデータをリアルタイムで共有、可視化、活用できる仕組み」のことだ。同社のプラットフォームには現時点で15万社を超える企業が接続しており、1日の処理件数は560万件に達する。


 Blue Yonderのソリューションの概要について樋口氏は、「お客さまのバリューチェーンの川上から川下までエンドツーエンドでAI(人工知能)を活用したソフトウェアの力によってサプライチェーンが自律的に最適化される。それによってオペレーションが効率化され、お客さまのキャッシュフローが改善する。さらに排出ガスや輸送などに関わるCO2(二酸化炭素)の削減といった環境負荷の低減も実現するようなソリューションを提供している」と紹介した(図1)。


 Blue Yonderによるワンネットワークの買収は、「これまでの投資とは異なり、圧倒的なゲームチェンジャーになり得るものだ」。どういうことか。「現在のBlue Yonderのお客さまは、SCMソフトウェアをSaaS(Software as a Service)として活用することで自社のサプライチェーンの最適化を図っている」という(図2)。


 しかし、「サプライチェーンは本質的に自社だけで完結しない。取引先やパートナーといった複数の企業がさまざまなプロセスに関わっている。それがサプライチェーンを複雑にし、最適化する難しさの大きな要素となっている」と指摘する(図3)。


 「今回のワンネットワークの買収がもたらす価値は、まさにそうした問題を解決できることにある」と樋口氏は話す。その理由は何か。「Blue Yonderが抱える3000社のお客さまにワンネットワークのプラットフォームを提供することで、お客さまの取引先などがネットワークでつながるようになる。そうしてつながった企業の数は指数関数的に増え、可視化の範囲も大きく広がる。ネットワークにつながったお客さまにBlue YonderのSCMソフトウェアを適用していけば、一層大きな付加価値を提供できる。さらに、取得できるデータ量が増加するので、Blue YonderのソリューションのコアであるAIの計算精度が飛躍的に高まることになる」と説明した(図4)。


 Blue Yonderがワンネットワークと生み出すシナジーについて、「提供価値や技術的な強み、顧客基盤といった、いずれの観点から見ても大きな効果を生み出すと考えている。Blue Yonderは企業間のネットワークと、AIによるエンドツーエンドの最適化ソリューションの両方をワンストップで提供できるようになる。それによって次の成長ステップに移行し、さらなる企業価値の拡大を図る」との見方を示した(図5)。


●「サプライチェーンのパナソニック コネクト」と呼ばれるか


 以上が、樋口氏の説明を基にした今回の発表の概要だ。サプライチェーン分野の事業拡大に向けたパナソニック コネクトのさらなる攻勢の動きをどう見るか。


 筆者が感じたのは、パナソニック コネクトがBlue Yonderを通じて買収したのは、ワンネットワークというサプライチェーン関連企業にとどまらず、ワンネットワークのプラットフォームを生かして「サプライチェーン業界」そのものを対象にしたということだ。「圧倒的なゲームチェンジャーになり得る」と表現したのは、買収の対象が企業というより「業界」だからだろう。


 確かに業界をネットワークでカバーできれば、ガリバー的な存在になり得るが、ポイントになるのはカバー率とアクティブ率だ。樋口氏によると、グローバルのサプライチェーン分野におけるワンネットワークの接続企業数は「トップレベル」というが、国・地域によっても業種によっても異なる広大なサプライチェーン分野からすると、それほど高いカバー率はなかなか獲得できないのではないか。また、ワンネットワークの接続企業数15万社の中で、アクティブなサプライヤーは4万9000社超だという。このカバー率とアクティブ率は、すなわちパナソニック コネクトのサプライチェーン業界への影響力に直結する話だ。


 とはいえ、サプライチェーン業界に対して同様のアプローチで動く企業がなければ、パナソニック コネクトの存在感が今後、グッと高まる可能性は大いにある。


 もう一つ、筆者が今回の動きで感じたのは、パナソニック コネクトのサプライチェーン分野への執着と意気込みだ。冒頭で紹介した樋口氏の発言がそれを象徴している。企業の基幹業務ソフトウェアという観点から見ると、「ERPのSAP」「CRMのSalesforce」「データベースのOracle」「オフィスソフトウェアのMicrosoft」と分野ごとにトップベンダーの社名が挙げられる中で、「SCMのパナソニック コネクト」と呼ばれるようになることを狙っているのだろう。基幹業務ソフトウェアにおいて、日本企業の製品やサービスがグローバル規模の「代名詞」になったことはかつてないだけに注目だ。


 最後に、樋口氏が冒頭の発言に続けて話したことを紹介しておきたい。


 「生成AIが昨今、注目されているが、これとモノが動く実行レイヤー、例えばロボティクスが組み合わさると高度に自律的なシステムができる。すなわちロボット自身が考えて動く。当社はロボティクスをはじめ実行レイヤーで長年にわたってビジネスを展開してきたので、そことBlue Yonderのソリューションがつながると、よりオートノマスなサプライチェーンが実現できるようになる。さらに今回、企業内に閉じたソリューションから企業間をつなぐような最適化を図り、その下に実行レイヤーとして当社が得意なインダストリーエンジニアリングやロボティクスへと連携が広がる可能性をひしひしと感じている。こうした夢に向かってチャレンジしたい」


 サプライチェーンは基幹業務であり、グローバルでは地政学、国内では物流の2024年問題や災害対策などに深く関係する非常に重要な分野だ。冒頭で紹介した樋口氏の発言で「これから一段と有望な市場になっていく」とあったのも、こうした意味合いが込められているのだろう。そこに同社および樋口氏の大いなる野望を感じる。


 なお、先ほど基幹業務ソフトウェアの観点で「SCMのパナソニック コネクト」になれるかどうかと述べたが、「実行レイヤー」まで含めた形で「サプライチェーンのパナソニック コネクト」とグローバルで呼ばれるようになるかどうか、同社の今後の動きに注目したい。


○著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功


フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。


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