『オッペンハイマー』を圧倒した『変な家』 同調圧力の強い社会で生じるリアルな“呪い”

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2024年04月11日 19:41  日刊サイゾー

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間宮祥太朗(写真/Getty Imagesより)

 3月15日に公開された間宮祥太朗と佐藤二朗のW主演映画『変な家』が、4月8日発表の全国週末興収成績(興行通信社調べ)で4週連続の首位になっています。世界的なメガヒット作である、クリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』は初登場となった先週と同じく4位止まり。世界唯一の被爆国である日本では、「原爆の父」の伝記映画よりも、不動産ミステリーが興収面で圧倒するという結果になっています。ある意味、“こわい間取り”ならぬ“こわいランキング”じゃないですか。

 YouTubeで話題となった雨穴(うけつ)氏の書き下ろした小説『変な家』(飛鳥新社)は、100万部突破のベストセラーとなっています。一家にまつわる怪しげな因習や建物に隠された間取りの秘密は、横溝正史や江戸川乱歩を知らない若い世代には、すごく新鮮に感じられているようです。

 ある一軒家の間取り図を手にしたことから、オカルト系YouTuberの雨男こと雨宮(間宮祥太朗)と設計士の栗原(佐藤二朗)は間取りの奇妙さに気づき、その家で暮らしていた家族の恐ろしい因果関係を知ることになるというサスペンスドラマです。春休み中の中高生たちが映画館に押し寄せ、興収34.5億円を突破するという予想外の大ヒットとなっています。

 とても読みやすい原作小説では、柚季(川栄李奈)たち一家にまつわる驚愕の秘密が明かされ、間取り図ごしにじわじわと恐怖が伝わってきます。ただし、映画では本家と分家との長年にわたる諍い、呪術師の正体、近親相姦……、といったドロドロした部分はばっさりとカットされています。大きな音や不気味な怪人を登場させるなどの古典的なホラー演出で、観客を怖がらせる作品になっています。

「ライトホラー」という新ジャンル

 本作を撮ったのは、TVドラマを数多く手掛けてきた石川淳一監督。劇場公開作としては、古沢良太脚本の『エイプリルフールズ』(15年)や『ミックス。』(17年)などの「笑えないコメディ映画」を残してきました。今回も「怖くないホラー映画」となっています。いや、ホラー映画というよりは、心臓が弱いお客さんにも配慮し、みんなが安心して楽しめる「ライトホラー」という新ジャンルなのかもしれません。

 名探偵・金田一耕助役で一世を風靡した石坂浩二は、どの場面に出ていたのか気づかないほどまったく無駄な起用です。クライマックスでベテラン女優の根岸季衣がチェンソーを振り回すシーンは、客席から失笑が起きていました。高嶋政伸演じる清次も、原作に比べて単純化されたキャラクターになっています。

 アリ・アスター監督の新感覚ホラー『ミッドサマー』(19年)や「罰金2000円 懲役3時間」とSNS上で騒がれた『ボーはおそれている』(23年)に比べ、ずいぶんと志の低い映画だなぁと感じてしまう次第です。

 それでも、若い世代は映画化された『変な家』が気になり、友達を誘って映画館に足を運んでしまうわけですよ。何が気になるのかと言えば、やっぱり一家にかけられた“呪い”の正体じゃないですか?

 柚希の母親・喜江(斉藤由貴)は、一族に伝わる「左手供養」という奇妙な儀式にずっと苦しんできたことが物語中盤で明かされます。今どき、法律を犯すような奇妙な風習が残っているのかと不思議に思うかもしれませんが、絶対にないとも言い切れません。

 日本のような同調圧力の強い社会は、非科学的な根拠による災い=“呪い”がすぐに発動することを、若い世代はよく知っているんだと思います。東日本大震災の後には、福島というだけで風評被害に遭い、コロナ禍では自粛警察によるバッシングが横行したことは記憶に新しいところでしょう。“呪い”が発動した後には、スケープゴートが必要とされる社会だということも、若い世代はリアルに感じているんじゃないですか。

 その点、被差別部落問題を描いた『破戒』(22年)に主演した間宮祥太朗と、『歴史探偵』(NHK総合)に出演中の佐藤二朗という主演コンビは、シリアスすぎず、おちゃらけすぎずにいいバランスの顔合わせだったと思います。唯一、この映画で評価できるポイントでしょう。

“呪い”を題材にした実話系の映画たち

 3時間にわたって天才科学者の苦悩を没入体験させる『オッペンハイマー』よりも、一見すると明るい平和そうな家族に隠された“呪い”のほうが、日本の若者たちにはより身近で気掛かりな問題なんだと思いますよ。

 4月5日から公開が始まった実話系映画『アイアン・クロー』と『毒娘』も、家族というドメスティックな環境に閉じ込められた人たちの悲惨なドラマです。『アイアン・クロー』は実在した「呪われたプロレスラー一家」を題材に、『毒娘』はネット掲示板に書かれた育児放棄された少女の逸話をモチーフに、家族という名の“呪い”を描いた作品になっています。

 まぁ、『オッペンハイマー』も、オッペンハイマー博士が「プロメテウスの呪い」に悩み続ける物語だと言えるし、どこのメディアも「数字を稼がなくちゃいけない」という強迫観念に囚われている状態でしょう。いろんな“呪い”が交錯しているのが、現代社会なのかもしれません。

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