愛するペットへの慰謝料…アメリカの制度も日本と変わらず “市場価値”に縛られた現実【弁護士が解説】

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2024年04月14日 20:40  まいどなニュース

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家族を傷つけられ、殺されたことによって受ける心の痛みは、人間の場合に劣るところはないでしょう ※画像はイメージです(Pixel-Shot/stock.adobe.com)

アメリカでは、9000万世帯以上が少なくとも1匹のコンパニオン・アニマル(伴侶動物)と生活をともにしているそうです。もちろん、それだけ数が多ければ、アメリカでも、ペットが事故に遭ったり、人や他の動物から危害を加えられたりすることもありますし、獣医療過誤事件も発生します。

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日本では、ペットは法律上「物」として扱われており、そのために賠償額や賠償費目に制約がかかっていますが、この点、アメリカでは、日本とは違った賠償を受けることはできるのでしょうか。今回は、アメリカにおけるペットの賠償制度についてご紹介します。

結論を先に述べてしまうと、アメリカでも、ペットに関する損害が生じた場合の賠償は日本と同様であり、その地位に対して十分なものとは言えません。

ペットが傷つけられてしまった場合、飼い主は自己に生じた損害の賠償を加害者に求めることができます。これが損害賠償制度です。

ところで、物の賠償額は、その物の市場価値に制限されます。例えば誰かに殴られてメガネが壊されたら、同じメガネが買えるだけの金額を賠償しなければなりません。

私は交通事故事件も多く取り扱っていますが、車の場合、市場価値として中古車価格が参考にされます。そのため、車が事故に遭っても、支払われる賠償額が新車に買い替えもできず、修理代にも不足する額だった、というケースは決して珍しくありません。

このような仕組みになっているのは、あくまで法律は、物の賠償額を算定するにあたって、その物の経済的価値にのみ着目しているからです。その物について持ち主がどんな思い入れを持っているか、どれだけ愛着を持っていたか、といったことは問題にされません。市場で買える物は壊されたら買い換えれば良い、それなら、その金額を賠償すれば足りるでしょう、ということです。

この法理はアメリカでも同様に当てはまります。アメリカは州ごとに違った法律を持ちますが、どの州も原則的には経済的な考え方に従い、物の賠償額はその物の市場価値に限定されるとの扱いをしています。

ペットに話を戻します。

日本では、ペットは法律上「物」として扱われるため、ペットが傷つけられたときの賠償額は、そのペットの市場価値に制限されます。30万円で購入した猫が殺傷された場合、賠償額は30万円までに制限されるのです。

アメリカの各州も、同様の考え方を採用しています。ペットは飼い主の所有物であり、物として扱われるため、殺傷された場合の賠償額も物としての市場価値に制限されます。

もっともこの考え方ですと、ペットショップで買った犬猫ならともかく、保護犬・保護猫や、誰かからもらってきた犬猫はゼロ円、損害賠償なし、となってしまいます。同じペット、同じ生き物であるのに不合理だという批判は、日米問わずあるところです。

現実的に、このような不都合を埋め合わせしているのは、慰謝料の制度です。

通常、物を壊されたことに対する慰謝料は発生しないものとされています。物の賠償金額はあくまでその物の経済的価値、交換価値にとどまる、という考え方のためです。例えば交通事故で車が損傷した、家族の思い入れが詰まった車を壊されたのだから、精神的苦痛に対する慰謝料を請求したい、と言っても、裁判所は認めてくれません。

かつて日本では、「ペットはあくまで物である」という考え方から、ペットが事故に遭ったり傷つけられても、慰謝料を認めてきませんでした。

しかし、ペットの普及と地位の高まりにより、現在では、ペット事故について慰謝料が認められることが一般的になってきています。例えば東京地方裁判所平成25年8月21日判決は、愛玩動物は家族の一員として飼い主にとってかけがえのないない存在であることは「公知の事実」、いわば常識であるとして、慰謝料の請求を認めています。また大阪地方裁判所令和3年10月20日判決も、近年では飼い主が愛護動物を家族の一員として愛情を注ぐことは一般的なことであるとして、やはり飼い主の慰謝料請求を認めています。もっともその金額は、皆様が想像するよりも低額です。今挙げた事例でも、慰謝料は10万円にとどまっています。

この話はアメリカでも同様です。ペットの死亡による飼い主の精神的苦痛による慰謝料は、原則として認められていません。動物法務歴史センターのアンジー・ベガ氏によると、ペットの飼い主が受けた精神的苦痛に対する賠償を認めている州はほんの一握りであるとのことです。

しかし、ペットが家族の一員であることは裁判例でも明言されているように今や「公知の事実」です。その家族を傷つけられ、殺されたことによって受ける心の痛みは、人間の場合に劣るところはないでしょう。したがってその慰謝料の金額も、いきなり人間並みに何百万、何千万円という額までは難しくても、少しずつ高額化されていくべきだと思います。

この点で、京都地方裁判所令和6年3月26日判決では、獣医療過誤でウサギを喪ったことについて慰謝料等66万円が認められたとの報道を目にしましたが、私も注目しているところです。

◆石井 一旭(いしい・かずあき)京都市内に事務所を構えるあさひ法律事務所代表弁護士。近畿一円においてペットに関する法律相談を受け付けている。京都大学法学部卒業・京都大学法科大学院修了。「動物の法と政策研究会」「ペット法学会」会員。

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