ユーザー企業にとって真の「共創パートナー」とは? Salesforceの新ビジネスから考察

0

2024年04月15日 18:51  ITmediaエンタープライズ

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmediaエンタープライズ

セールスフォース・ジャパンの浦野敦資氏(専務執行役員 アライアンス事業統括本部 統括本部長)

 「新たなパートナー施策として、AI(人工知能)を含む先端ITを活用し、アウトソーシングサービスの高付加価値化を支援したい」


ユーザー企業にとって真の「共創パートナー」とは? Salesforceの新ビジネスから考察


 セールスフォース・ジャパンでアライアンスおよびパートナービジネス戦略を担当する浦野敦資氏(専務執行役員 アライアンス事業統括本部 統括本部長)は、同社が2024年4月10日に開いた2025年度(2025年1月期)のパートナービジネス戦略に関する記者説明会でこう力を込めた。


 ITシステム運用などの社内業務を外部に委託するアウトソーシングサービスは以前からあるが、SaaS(Software as a Service)を対象にしたセールスフォースの新たな取り組みは、今後のクラウドサービスにおけるパートナービジネスの在り方を考察する上で興味深い。今回はこの点にフォーカスしたい。


●Salesforceの新たなパートナー施策とは


 セールスフォース・ジャパンの2025年度のパートナービジネス戦略は「『データ+AI+CRM+信頼』で今後の成長を加速」することをテーマに掲げている。「パートナーのビジネス拡大」と「エコシステムの強化」を二本柱とし、前者では「新規顧客の開拓」「『Customer 360』の提案・販売強化」、後者では「AI製品に関するイネーブルメントの強化」「人材育成と品質の最大化」を挙げる(図1)。


 この中で、新規顧客の開拓に向けて、今回新たな施策として本格的に展開するのが「アウトソーシングサービスプロバイダー(OSP)プログラム」だ。これはセールスフォースのパートナーであるアウトソーサー企業がセールスフォースのライセンスを所有・運用するビジネスモデルである。


 浦野氏によると、「これまでのパートナーシップではセールスフォースのライセンスを所有し、運用するのはお客さま(ユーザー企業)で、パートナー企業はサービスおよび関連したアプリケーションを提供する形だった。それに対し、OSPプログラムはパートナー企業(アウトソーサー)がセールスフォースのライセンスを所有し、運用する形になる」とのことだ。「このモデルはこれまでグローバルで先行して取り組み、日本でも試験的に手掛けてきたところ大きな手応えがあったので、2025年度から本格的に推進することにした」(浦野氏)(図2)。


 こうしたOSPプログラムはパートナー企業であるアウトソーサーとユーザー企業にどのようなメリットがあるのか。浦野氏はアウトソーサーのメリットについて「これは単にセールスフォースのサービスを使ったBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)ではない。アウトソーサーが持つ業種や業務の専門知識とITを組み合わせた「BPaaS」(Business Process as a Service)として提供することによって、アウトソーサーの生産性や品質が向上し、売り上げや利益を最大化することができる」と説明した。


 ユーザー企業(顧客)のメリットについては「アウトソーサーの専門知識とITを統合したサービスの利用により、アウトソーシングの成果を最大化することができる。先端のITを活用したDXと業務改革を同時に推進できる」と説明した(図3)。


●共創パートナーとなるアウトソーサーを探せ


 浦野氏はOSPプログラムを「業務とITの統合型アウトソーシングサービス」と呼び、「立ち上げの早期化にとどまらず、専門人材の確保や育成、継続的かつ安定的なDX活動を可能にし、Time to Valueを最大化できる」と述べた。図4は「Time to Value」の観点で、従来のレガシーシステムやSaaSの導入と、OSPによる導入を比較したイメージグラフだ。OSPによる導入がいかに効率的かが一目で分かる。ただ、Time to Valueなのでコストは加味されていない。


 セールスフォース・ジャパンはOSPプログラムを、まずはITアウトソーシング事業を推進している大手システムインテグレーター(SIer)向けに提案し、BPO事業者やビジネスコンサルティング会社などにも広げていきたい考えだ。


 同社はOSPプログラムをパートナービジネスにおいてどれくらいのボリュームにしたいと考えているのか。同プラグラムに対する力の入れ具合を確認したかったので、会見の質疑応答で聞いてみたところ、浦野氏は「割合などの数字は公表できないが、大きな成長を見込んでいる」と答えた。


 今回の新たなパートナー施策で筆者が特に注目したのは、パートナー企業であるアウトソーサーと、顧客であるユーザー企業の関係性だ。先述したように、アウトソーシングといえばITシステム運用などの社内業務を外部に委託することで、要は「外部委託」という印象が強い。一方で、ユーザー企業にとって業務改革に直結するDXは自らの手で進める必要があることから、果たしてアウトソーシングとDXはうまくかみ合うのだろうか。アウトソーサーはDXに取り組むユーザー企業の「共創パートナー」になれるのか。


 その疑問を解くカギは、浦野氏がアウトソーサーのメリットについて述べた「単なるBPOではなく、アウトソーサーの専門知識とITを組み合わせたBPaaSとして提供する」との言葉にありそうだ。もともとSaaSはDXの有効な要素なので、それをアウトソーサーがさらにBPaaSとしてユーザー企業の業務改革につなげられれれば、アウトソーサーも共創パートナーになり得るだろう。ユーザー企業からすれば、自社の共創パートナーになってくれるアウトソーサーを探したいところだ。その意味でBPaaSは重要なキーワードとなる。


 Salesforceの取り組みとして今後、注目したいのはOSPプログラムに参画するパートナー企業の裾野が広がるかどうかだ。今のところ大手SIer向けが中心なのでユーザー企業も大手が想定されるが、それを中堅・中小企業へと広げるつもりはあるのだろうか。これについては、クラウドサービスのライセンス契約形態、ひいてはパートナービジネスの在り方が変わるので注視していきたい。


 さまざまな意味で考えさせられたSalesforceの新たなパートナー施策発表だった。


著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功


フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。


    ランキングIT・インターネット

    前日のランキングへ

    ニュース設定