Sansan「30%値上げ」 顧客単価の“頭打ち”脱却なるか

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2024年04月17日 08:21  ITmedia ビジネスオンライン

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商品パッケージの組み換えと合わせて、定価ベースで約30%の値上げ(価格の適正化)を行った

 Sansanが発表した2024年5月期第3四半期(12〜2月)の決算は、売り上げ、利益ともに好調に推移した。第3四半期までの累計で、売上高は前年同期比で33.3%増の242億3400万円となった。中でも業績の牽引(けんいん)役となっているのが、インボイス管理サービスの「Bill One」だ。


【画像】Sansanはこの第3四半期、顧客単価が横ばいとなった


 SaaS企業分析メディア「Next SaaS Media Primary」のアナリスト、早船明夫氏は「全社のARRが300億円の大台を突破し、成長率も昨年の20%台から、再び前年同期比33.4%増まで伸ばすなど再加速が見られる。要因はひとえに、国内SaaS史上最速で伸びているBill Oneが、前年同期比149%という驚異的な成長を続けていることだ」と分析する。


 20年5月にスタートしたBill Oneは、コロナ禍による経理のデジタル化のニーズと、インボイス制度という法令改正の後押しもあって、急速に成長した。毎四半期ごとに導入企業は増加し、直近第3四半期のストック型売上高は16億8000万円にも達している。これまでの年平均成長率は約383%、毎年4.8倍のペースで成長してきた形だ。


 Bill Oneの売上高比率は全体の18%まで拡大してきており、ますますSansan内における重要性が高まってきている。インボイス制度が23年10月にスタートし、その反動での成長率鈍化も懸念されたが「インボイス制度開始後も大きな反動影響はなく、新規契約の獲得も順調に進んだ」(橋本宗之CFO)と、堅調だ。今期、5月末にARR(定常収益)75億円を目標として掲げているが、第3四半期終了時点で68億円まで達した。


 ARRは顧客数と顧客単価(ARPU)の掛け算で決まるが、いずれも好調だ。契約件数は対前年比100.5%増、ストック売上の顧客単価は23.9%増となっている。さらに解約率も0.33%と過去最低水準となっており、顧客に根付いていることが分かる。


●顧客単価は頭打ち? 30%以上の価格引き上げ実施


 とはいえ、今後に死角がないわけではない。顧客単価、いわゆるARPUの伸びが頭打ちになりつつある点だ。要因はさまざまだが、Sansanの顧客単価はこの第3四半期、19万3000円で前四半期から横ばいとなった。Bill Oneの顧客単価も21万4000円から21万8000円と、成長が鈍化している。


 この理由は何なのか。そもそも、Sansan、Bill Oneともに顧客単価が上昇してきたのは、大企業への導入が進んだという背景がある。


 Sansanはもともと大企業に強く、中小企業での導入率が0.3%なのに対し、従業員1000人以上の大企業では17.7%が導入しているという特徴を持つ。同様にBill Oneも大企業での導入が加速することで、顧客単価の上昇が続いてきた。もちろん、未導入の大企業も多く成長余地は残っているが、大企業シフトによる顧客単価上昇には難しさも出てきたと橋本CFOは話す。


 「すでに、かなり大企業向けの利用が進んでいるため、さらに加速してエンタープライズを強化していくというよりも、広く手を広げて攻めていく戦いになってくる。なかなか簡単にARPUは上がっていかない」(橋本CFO)


 また導入企業内での利用者数増加も限界が近い。Sansanは、大企業の一部門でまず導入され、そこから他部署、全社へと広がっていく形で普及してきた。利用ユーザー数に応じた課金体系のため、利用者が増えるほど顧客単価(契約企業あたりの単価)も上昇してきた形だ。ところが全社利用に達すると、この流れの単価上昇も頭打ちになる。


 Bill Oneについては、企業の請求書の受領枚数に連動した価格設計を取っているため、既存顧客の中で自動的に単価が上がるという仕組みにはなっていない。


 こうした背景の中、Sansanについては2月に定価を30%引き上げ、Bill Oneについては23年12月から「Sansanよりも大きな値上げ幅」(橋本CFO)で価格を改定した。価格改定は行ってもセールスは好調で、Sansanでは「2月は過去最大の新規受注額」だという。


 同社は、過去も定期的にパッケージの組み換えや新エディションの作成を行っており、それに伴って新機能を盛り込むことで、価格の引き上げを行ってきた。「今回の取り組みについても、特段何か『3年に1度のすごいことをやった』というよりは、通常のビジネスの営みの中で価格の適正化をまたやりましたという感じ」(橋本CFO)


 こうした値上げの効果は契約更新時から現れていくため、業績に反映されるのは25年3月期からとなる。ただし値上げ幅である30%分売り上げが上昇するかというとそうでもない。これはあくまで定価であって、当然個別交渉で価格は決まるからだ。


 最終的に、大企業シフトの限界や社内利用者増加の頭打ちを、値上げが相殺する形になると橋本CFOは見ている。「定価分、そのままARPUがあがることは考えにくい。これまでのARPUトレンドに沿った伸びになる見込み」(橋本CFO)


●Bill One、次の展開


 顧客単価をアップするには、機能追加を行ってより高価なエディションに乗り換えてもらうアップセルや、既存顧客に関連するサービスを提供するクロスセルといった手法が一般的だ。その中で、注目は急成長を続けるBill Oneの次の一手だろう。


 早船明夫アナリストは「向こう1、2年は、メガヒットSaaSであるBill Oneをどこまで伸ばせるかが、今後のSansanにおける業績の最大の変動要素になりそうだ」と指摘する。


 Bill Oneは、請求書という企業のお金の動きに直結する部分に携わっており、フィンテック領域への拡大を図るとしている。すでに23年6月には法人カード「Bill Oneビジネスカード」の提供を始めており、クロスセルに向けた弾は増えつつある。今後、どんなフィンテックサービスを投入するかに注目したい。


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