雄ヒナ殺処分の抑止へ。卵が孵化する前に性別を判定するeggXYtの遺伝子編集技術

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2024年04月18日 18:00  Techable

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毎年65億羽以上の鶏の雄ヒナが殺処分されているというショッキングな事実をご存じだろうか(参考)。

AgFunder Newsによると、多くの孵化場は数十億個の卵を孵化させ、孵化するまで21日間待った後、孵化したヒナの性別を判断するために訓練を受けた「ひよこ鑑定士」を雇っているという。雄の鶏は卵を産むことができず、卵産業と食肉産業で使用される鶏の品種が異なるため、市場へ投下されることなく殺処分されている。

この非倫理的な行為に対し、いま世界各国が抑止に取り組んでおり、なかでもドイツとフランスは2022年に雄ヒナの殺処分を禁止した。同年に、イタリアは生後1日目の雄ヒナを殺すことを2026年から禁止すると発表している。

カナダは、2018年に非侵襲的な技術で卵が産まれる前に胚を鑑別する技術に84万ドルの資金を提供すると発表。またアメリカでは2016年に鶏卵生産者団体(UEP)が雄ヒナの殺処分撤廃を呼び掛け、2021年に声明を更新している(参考)。

このように近年注目されている雄ヒナの殺処分問題に終止符を打つ解決策を提案しているのが、イスラエルのスタートアップであるeggXYtだ。
産卵したその日に性別を判定するeggXYt卵が孵化してから性別を判定する場合、孵化に必要なコストがかかる点や殺処分を行う必要がある点から、卵が完全に孵化する前に性別の判定を行う方法がある。

現在、市販されているのは、卵の殻を透かして内部の胚の性別を判断する方法や、卵から液体を1滴抽出し、卵の性別を識別するためのバイオマーカーを検査する方法などだ。

しかし、これらの方法では孵化するまで数日待つ必要がある。広島大学によると、鶏の卵は産卵後7日目には痛みを感じる機能が発達し始めるという。また、動物擁護団体のHope For Animalsは、産卵後13日目には神経管が機能的な脳に発達し、孵化の数日前には完全な意識を持つとしている。

そのため、卵の段階で性別を選別する際に、孵化前のヒナに苦痛を与えないよう、産卵後の早い段階で雄雌を判定する技術が求められている。

[caption id="attachment_231932" align="aligncenter" width="1880"] Image Credit:eggXYt[/caption]そんな中、2014年設立のイスラエル企業eggXYtはCRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)と呼ばれる遺伝子操作技術を開発している。2020年にカリフォルニア大学バークレー校の研究者らがCRISPR Cas9(ゲノム編集技術)の発見でノーベル賞を受賞したことで、さらに注目を集めている技術だ。

eggXYtはこの革新的な遺伝子編集技術を応用し、雄染色体上に発光バイオマーカーを配置する100%の精度で識別できる技術を開発した。同技術では卵が産まれた日に性別の判定が可能だ。

"Above all, [Yehuda Elram] says, "you're saving lives, and giving supermarkets and consumers what they want, which is more ethical food." From a sustainability perspective, meanwhile, you're also dramatically reducing the carbon footprint..."https://t.co/fbXxMUZuGq

— eggXYt (@EggXYt) January 10, 2021 AgFunder Newsで食品農業研究財団(FFAR)は「孵化場が、産まれた日に卵の性別を判断できる技術を持っていれば、60億個を超える雄卵が食品、動物飼料、ワクチンの製造に使用される可能性がある」「これにより、採卵卵の孵化コストと二酸化炭素排出量が大幅に削減されると同時に、雌卵の孵化スペースが確保され、生産効率が向上する。推定によれば、雄のひよこの殺処分を防止すれば、産業界は卵と労働力の無駄から約5億ドルを節約できるだろう。」と指摘している。

実際にeggXYtのテクノロジーの導入は、孵化コストを削減することで、孵化場の運営経費を最大15億ユーロ節約可能であり、広く導入されることで、世界の鶏卵供給量が年間 70 億個増えると見込まれている(参考)。

このようにeggXYtの技術は従来の性別判定技術にはないメリットがある。
業界期待の的、一方で遺伝子編集に対する逆風もeggXYtはEUとイスラエルイノベーション庁からの助成金を受けているほか、様々な賞を受賞している。

これまで同社はモナコ大公アルベール2世による環境技術研究優秀賞や、MassChallenge コンテストで最優秀賞を獲得している。また、Disrupt100では、世界を変えている500万のスタートアップ企業の中から2017年のトップスタートアップ100社の1社に選ばれており、実用化に向けて期待されている。

このように高い評価を得ており、商品業界からも注目を集めているeggXYtの技術だが、雄ひよこの殺処分をなくすための解決策を探す600万ドルの世界的コンペであるEgg-Tech賞には参加できないようだ。それはEgg-Tech賞の参加基準で遺伝子編集を伴う提案が除外されているからだという。

遺伝子編集は比較的新しい技術のため、人間への効果が明らかとなっていない。人間の医療や農業での使用がすでに規制されており、厳しい安全性と倫理基準が設けられていることに注意することが重要である。

eggXYtの共同創設者兼CEOであるYehuda Elram氏は「eggXYtの技術は雄の卵のみにバイオマーカーを配置するため、雌の卵のDNAは編集されず、従来の卵と同じである」とFoodNavigator-USAで語っており、今後は安全性の検証が期待される。

また近年は畜産に対する遺伝子編集が承認される場合もある。2020年には、アメリカ食品医薬品局(FDA)がGalSafe豚と呼ばれる家畜ブタの系統において、食用またはヒトの治療用に使用される可能性のある意図的ゲノム改変(IGA)を初めて承認した。今後は鶏卵における遺伝子編集が承認されることが期待される。

参考・引用元:eggXYt

(文・MOMMA)

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