auが沖縄で「一人勝ち」するワケ 本土とは異なる商習慣「オキナワ・ルール」に学べ

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2024年04月19日 08:41  ITmedia ビジネスオンライン

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「オキナワ・ルール」を知らないと機会損失すると話す伊波貢氏(筆者撮影)

 食卓に並ぶゴーヤーチャンプルーやサーターアンダギー。三線の音色が奏でる琉球音階。日本本土から見た沖縄の“異文化”は、なにも食や音楽に限ったものではなく「ビジネスでの勝ち方」にも多く存在する。それこそが、沖縄を拠点とするコンサルティング会社ブルームーンパートナーズ(同県那覇市)のCEO、伊波貢氏が提唱する「オキナワ・ルール」だ。


【画像】沖縄県那覇市のメインストリート「国際通り」


 なぜ「沖縄支店」を作らない方がいいのか。なぜあえて言葉の定義にこだわりすぎない方がいいのか。「これらのルールを知らないと大きく機会損失をしてしまう」と話す伊波氏は、東京・沖縄双方のビジネス経験からそのギャップを埋めようと、書籍『OKINAWA RULES』を出版した。


 キーワードは「沖縄に来る時には、日本語が通じる外国だという覚悟で臨んでください」


●著者プロフィール:長濱良起(ながはま よしき)


沖縄県在住のフリーランス記者。音楽・エンタメから政治経済まで幅広く取材。


琉球大学マスコミ学コース卒業後、沖縄県内各企業のスポンサードで2年間世界一周。その後、琉球新報に4年間在籍。


2018年、北京に語学留学。同年から個人事務所「XY STUDIO」代表。記者業の他にTVディレクターとしても活動。


著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)がある。


●「バターとマーガリン論」から見える沖縄の商習慣


 「そもそものルールが違うんですよ。『野球をやるつもりで沖縄に来たら、ソフトボールをやっていた』みたいなもので。その違いに戸惑うのではなくて、ルールが違うことを理解することが大事です」と伊波氏。その一つが「バターとマーガリン論」だ。


 「多くの沖縄の人は、マーガリンのことをバターと呼ぶことがあります。でもこれを本土の人が『これはバターじゃないよ、マーガリンだよ』と指摘すると『なんか面倒くさい人だな』と思われる場合があります」(伊波氏)


 沖縄出身である筆者も、個人的に腑に落ちる部分がある。バターという大枠の中に「本当のバター」と「植物性のバター的なもの(マーガリン)」があるという感覚だ。一方で香川出身の妻に尋ねると「バターはバターで、マーガリンはマーガリン。スプライトとジンジャーエールぐらい違う」と言い切る。逆にこちらが「そんなに違うの?」と驚くぐらいだ。


 この感覚の差を伊波氏は「本土の方は小分類で、沖縄の方は中分類で物事を考えるからです」と解説する。大きく間違えたり外れたりしていなければ、許容するということだ。細かく商品分類を定めたり、言葉の定義に一つ一つこだわったりするのは、あまり沖縄のビジネス風土には馴染まないのかもしれない。


 逆に「細かさをあまり求めない」ということが、プラスに働く場合もある。アバウトなまま走り出すことを「まず行動してやりながら軌道修正する」という、海外企業に多いアジャイル型思考と結び付け「今70点なら、30点の伸びしろがあると考えればいい」と伊波氏は提案する。


 「日本の基準で考えると『アバウトさ』はマイナス要素に見えるかもしれませんが、この考え方自体は世界的にはスタンダードです」(伊波氏)


●auが沖縄でシェア一強を築けたワケ


 伊波氏は強調する。「本土から『沖縄支店』で進出しようとするとあまりうまくいきません。沖縄の資本をちゃんと入れて、沖縄の社名にして、沖縄のリーダーや幹部を使って、沖縄のやり方で進める『現地法人』にすることが大事です」


 それが決定的に現れているのが、携帯キャリアのシェアだ。全国的にはdocomoブランドが業界トップだが、沖縄ではauブランドが約5割のシェアを占め、一強という様相だ。それは、auブランドの現地法人として「沖縄セルラー電話」が存在感を放っていることが大きいといえる。auの名を冠した地元テレビ番組があったり、各種イベントを開催したりと、地元に根付いた活動が多い。中学生時代の筆者は「auは沖縄発の会社だ」と思っていた時期もあるほどだった。


 「沖縄セルラー電話は、沖縄の会社としてのイメージがあり、経営者の顔が見えているからこそあれだけ成功していますし、地域貢献もしています」と伊波氏。沖縄式へと積極的に寄せていくことを吉とする背景について「沖縄の地元愛が強いからです。特にBtoC産業は、この“ルール”を守らないと致命的だと思います」と断言する。


 2024年1月にはこんなニュースも飛びこんできた。旅行会社大手JTBグループの「JTB沖縄」が、4月から「沖縄JTB」に社名を変更するというのだ。「これまで以上に沖縄に根ざした会社を目指す」という理由があるという。


 「たった少しの社名変更に見えますが、すごく意味のあることです。社名の最初に『沖縄』とか『琉球』を付けると“沖縄の会社”になるんですよ。『JTB沖縄』だと、あくまで『JTBの沖縄』ですが、『沖縄JTB』だと『沖縄のJTB』というニュアンスを感じられます」(伊波氏)


●沖縄で「本土ブランド」が有利なケースとは?


 このように、沖縄では「地元企業」が有利であることを述べてきたが、必ずしもそうではないこともある。それは「クオリティーに差があって高単価のビジネスモデル」だという。場合によっては「沖縄ブランド」と「本土ブランド」をうまく使い分けることを、伊波氏は勧めている。


 「例えば新車を購入する時です。本土ブランドの方が『気持ちの良い接客』や『信頼できる知識』を期待できるからです。特に1972年の沖縄の日本復帰前は、日本に対する強い憧れが全体として強かったと思います」


 一方で、士業などの「品質がしっかり担保されている分野」については、地元の事情に詳しい県内企業に分があるとも話す。「沖縄に進出したい企業は、とにかく何でも沖縄っぽくするのではなく、自社がどのポジションにあるのかをきちんと把握した上で、ブランディングや商品展開を考える必要があります」と伊波氏は指南する。


 日本企業が海外に進出した際によくある失敗例が「日本のやり方で物事を進め、管理職を日本人で固め、現地のスタッフとフラットに接していないことから、信頼を得られない」ことだという。「グローバルというのは、単に海外にいるとか、言葉が堪能だとか、そういうことではありません。考え方そのものがグローバルでなければならないのです」。大切なのは、その土地ごとのルールに自らをダイブさせることだ。


 伊波氏自身、大学を卒業してすぐに東京で働き始めたため、沖縄に戻ってきた時には“沖縄ルール”に慣れるまで3年程度かかったという。だからこそ、本土の人が沖縄にやってきて壁にぶつかったりストレスを感じたりする気持ちが痛いほど理解できる。


 「沖縄県民147万人の価値観を変えるより、自分の価値観を変えた方が良い」――。沖縄でより笑顔で過ごすことができ、ビジネスで成功できるように。「OKINAWA RULES」はそのナビゲーターとなりそうだ。


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