なぜ、PBなのに安くないの? ウエルシアとマツキヨココカラが「高級志向」を始めた背景

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2024年04月20日 06:41  ITmedia ビジネスオンライン

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幅広いPB商品を展開するドラッグストア

 PB(プライベートブランド)商品といえば、一般的に低価格性を売りにした商品として認識されている。広告宣伝費や物流費などを抑えられるため低価格を実現できるのがPBのメリットだ。一方、PB商品の品質は「値段相応」であり、高品質や目立った特徴を求める商品としての認識はされてこなかった(もちろん、セブン&アイ・ホールディングスの「セブンプレミアム」のような、価格が比較的高いPBの存在感も増している)。


【画像】インパクトの強すぎるウエルシアやマツキヨのPB商品(全7枚)


 しかし、近年PB比率の向上を目指すドラッグストア業界では、新たな付加価値を訴求する商品が増えてきた。従来のPBイメージと違い「安さだけ」を売りにしているわけではない。ドラッグストア業界におけるPB商品開発の動きとその思惑を探っていく。


●商品名が特徴的なウエルシア


 2014年にイオン傘下に入ったウエルシアホールディングス(HD)は、イオンのPB商品「TOPVALU(トップバリュ)」を店頭に置いてきた。その後、21年6月から独自ブランドとして「からだWelcia」「くらしWelcia」の2種類を展開している。


 からだWelciaは、総菜やスナック類など食品類を扱うブランドであり、くらしWelciaはトイレットペーパーや綿棒、脱脂綿といった日用品・雑貨類が主だ。方眼の背景に商品名を記載しただけのシンプルな商品パッケージは、どこか無印良品のような印象を与える。そしてこれらPB商品は「とまらないアーモンド小魚」「自然の恵み99%かつ薬用のハンドクリーム」のように「長い修飾語+名詞」の形式をとった商品名が特徴的である。


 ブランドメッセージは「いいものは、いいひとだ。」としており、商品開発では人格を作ることを意識しているという。特徴的な商品名には、血の通った温かな印象を与え、商品の特徴を伝えやすくすることを期待している。ちなみに商品名の設定には、サントリーや住友生命保険などで実績のあるコピーライターの岡本欣也氏が関わっている。


●近年では健康&自然保護を訴求


 近年では、健康や自然環境の保護を付加価値とした商品も目立つ。23年5月にウエルシアはPB商品に関する戦略発表会と総合展示会を実施し、新商品をいくつか紹介した。


 からだWelciaに関しては、従来の安さだけでなく健康やこだわりを意識した商品が目立つ。ウエルシアは「糖質を抑えた○○」という商品名で23年2月から比較的糖質の少ないパンを販売しているが、同年6月に第2弾として「糖質を抑えた平焼きデニッシュあんぱん」を発売。その後も第3弾・第4弾と新商品を発売している。


 同じく23年6月に発売した「食塩無添加がやさしい7種のこだわり神ナッツ」は、食塩と油を使用せず、こだわりの焙煎方法でカリッと香ばしく仕上げた商品であるとうたう。価格は245グラム入りで861円。従来のPB商品のように安さを売りにしているわけではなく、品質で勝負する姿勢がうかがえる。


 くらしWelciaでは海中生分解性不織布を使った「顔も体もこれ一枚!Ag配合フェイス&ボディシート」や自然由来成分を使った「ぬり心地が心地いいオーガニックリップ」など、環境へ配慮した商品が目立つ。前者は30枚入りで438円、後者は658円と、従来消費者がPB商品に対して持つ価格帯のイメージからすると、高めな印象だ。クルエルティフリー(=製造過程において、動物実験など動物を傷つける行為をしていない)の商品も扱っており、同ブランドでは環境保護を新たな付加価値としていることが分かる。


●絆創膏が話題になったマツキヨPB


 21年の経営統合で誕生したマツキヨココカラ&カンパニーも、近年PBを強化している。特にマツモトキヨシは1990年代からPB商品を投入、2006年から安さと品質の2軸で訴求するPBブランド「MKカスタマー」を展開し、15年には「マツキヨらしさ」を印象付ける新PBブランド「matsukiyo」を立ち上げた。matsukiyoのラジカセや買い物バッグなどのデザインを模したトイレットペーパーは、18年にドイツの世界的デザイン賞「iFデザインアワード」を受賞している。


 マツキヨのPBはたびたび評判となっており、小学4年生が発案したという「matsukiyo 指にまきやすい絆創膏」は、その機能性から2月にSNSで話題となった。従来の絆創膏と違い、パッドが真ん中ではなく端に寄っているため、パッドの両側がくっついてしまうことがない。子ども1人でも巻きやすい利便性を持っている商品だ。SNSでは子どもをもつ親世代からの反響が大きかったようだ。


 同社はアプリやカード、店舗など、マツキヨで培ってきた1億3000万件以上のビッグデータを有しており、データを活用して見込み客を予想し、PB商品を開発している。PB商品全体の売上高比率では、26年3月期に15%を目指す(23年3月期は12.7%)。


 マツキヨでは近年、化粧品など美容関連のPB商品を強化する動きが見られる。同社によると、23年4月に発売したパーソナライズヘアケアブランド「MQURE(エムキュア)」のシャンプー・トリートメント「MQURE for U」がヒットになったことが影響しているようだ。


 同商品は、髪質やライフスタイルなど、12項目の診断に答えることで自分に合わせたシャンプーやトリートメントが届く商品であり、診断はネットで可能。髪の太さや質、悩みや理想の髪型について回答し、好きな香りも選択でき、自分に合ったシャンプーを手にできるというわけだ。価格はシャンプーとトリートメントのセットで6600円と、従来のPBやNB(ナショナルブランド)と比較しても高価格帯に位置し、ハイブランドに位置付けられるだろう。


 3月からは、化粧品メーカーの伊勢半(東京都千代田)と共同開発した新コスメブランド「nake(ネイク)」を展開。コンシーラーやフェイスパウダーなど10商品を扱う。価格帯はいずれも1500円前後と、いわゆるデパートコスメより安いものの、特別安いわけではない。


 「スキンケア以上、メイク未満」をキャッチフレーズとしており、理想のすっぴん風メイクを目指すためのブランドという立ち位置だ。同ブランドもデータを基に開発しており「ナチュラルメイクをする人の大半が理想を叶えられていない」という調査結果から着想したという。


●業績から見る、PB戦略の意義


 近年の動きを見ると、ウエルシアは食品や雑貨で健康・環境対応を付加価値としたPB商品を打ち出し、マツキヨココカラ&カンパニーはPBの化粧品ブランドを強化していることが分かる。


 ウエルシアがからだWelciaとくらしWelciaで食品・家庭用雑貨のPBを強化する背景には、商品別比率が関係していると考えられる。同社の24年2月期における品目別売上高は、上位から順に食品(22.6%)・医薬品(調剤除く、19.0%)・化粧品(15.7%)・家庭用雑貨(13.7%)である。一方、各商品の売上高総利益率は医薬品が40.7%、化粧品が33.1%であるのに対し、食品・家庭用雑貨はそれぞれ19.0%・28.6%と全体平均の30.3%を下回る。


 ウエルシアはこれまで、安い食品で集客し、医薬品で利益を出すビジネスモデルを取ってきた。しかし近年の業績では、売上高が伸びても営業利益が伸び悩んでいる。こうした状況から利益率を改善すべく、食品や雑貨の分野でPBを強化していると考えられる。健康や環境保護を付加価値とした背景には、安売りを防ぐ狙いがあるのかもしれない。


 化粧品関連のPB強化が目立つマツキヨココカラ&カンパニーも同様に、品目別売上高が関係しているといえる。同社の場合、ウエルシアと違って食品の構成比は9%ほどしかなく、突出しているのは34%ほどの化粧品だ。つまり、得意分野とする化粧品でPBを強化した形と読める。経営統合による効率化や、市街地における人流の回復で直近の業績は好調だが、PBの拡充でさらに利益率を高めたい狙いがあるのだろう。統合時にスローガンとして「美と健康の分野でアジアNo.1を目指す」と掲げていたこともあり、今後も注力する姿勢は変わらないはずだ。


 ウエルシア・マツキヨココカラの両者は利益率の改善を狙い、PB比率の向上に取り組んできたが、従来の安売りだけでは限界があるのだろう。PBの付加価値を強化する背景には安さ以外の魅力で集客したい狙いがあるとみられる。NBの廉価版と位置付けられてきたPB商品だが、今後は他業種でも、付加価値を付けた商品がさらに増えていくのかもしれない。


●著者プロフィール:山口伸


経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。


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