映画『ルックバック』は劇場で観るべき作品? 監督、方言、原作の“行間”……予告映像を漫画編集者が分析

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2024年04月22日 10:20  リアルサウンド

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『劇場アニメ「ルックバック」本予告』動画サムネイルより © 藤本タツキ/集英社 © 2024「ルックバック」製作委員会

 6月28日に公開予定の映画『ルックバック』の本予告映像が公開され、ファンの注目が集まっている。原作は『チェンソーマン』の大ヒットで知られる藤本タツキによる読切作品で、多くの漫画フリークが待望していた映像だ。


(参考:『チェンソーマン』藤本タツキの名作群を読み解く方法 最大のキーワードは「映画」だった


 人気作の映像化には賛否の議論が巻き起こるものだが、原作を高く評価する漫画のプロは今回の予告編をどう捉えたのか。漫画編集者で評論家の島田一志氏は、「1分半の短い映像だったが、それでも泣きそうになった」と語る。


「押山清高監督はアニメーター出身であり、ジブリ作品でも原画を担当していて、藤本タツキ作品では『チェンソーマン』の悪魔デザインも手掛けています。アニメーションの監督は自分で絵が描けなくてもできるわけですが、『ルックバック』は作品のテーマ上、絵を描く人の感覚がわかっている監督が好ましいと思っていました。実際、予告映像を見るだけでも作中の漫画や絵を描く人の心の機微を丁寧に描いており、見入ってしまいましたね。


 また、本作の舞台は山形ですが、漫画ではそのことがあまり強く伝わってきませんでした。今回の映像では、京本(CV:吉田美月喜)の言葉に抑え気味ながら東北弁のニュアンスがあり、地域性が深まって、没入感があります。風景描写も実写の日本映画のような雰囲気で期待感たがかまりました」


 そもそも「映画」は、藤本タツキ作品に共通するモチーフだ。だからこそ、劇場に足を運ぶ価値がある作品になるだろうと、島田氏はいう。


「藤本タツキさんの作品には、映画を観るシーンが頻出します。連載デビュー作の『ファイアパンチ』もそうですし、話題になった短編『さよなら絵梨』もそう。また『チェンソーマン』でも序盤で、デンジとマキマが映画を観るシーンがあり、その後、二人が衝突する際にデンジが<マキマさん アンタの作る最高に超いい世界にゃあ糞映画はあるかい?>と投げかけるシーンの伏線になっていました。『ルックバック』でも一瞬だけ、藤野と京本が一緒に映画を観るシーンが描かれています。


 二人のキャラクターが並んで映画を観るシーンは、二人が同じ方向を見ている(見ていた)ことのメタファーになっています。藤本作品には自らの人生と向き合う、あるいは大切な人の死を受け入れて前に進む、という構造があり、そこで“映画”というモチーフが効いている。『ルックバック』は漫画でつながった二人の青春を描いた作品ですが、その中にある“あの時こうしていれば”という感覚は普遍的なものですし、劇場の暗闇のなかでスクリーンに自分を投影して観る、あるいは大切な人と並んで観る、ということでケミストリーが起きる作品になるのではと思っています」


 また、映像化に際して明かされる謎もあるのではないかと、島田氏は期待を込める。それは例えば、物語の終盤に描かれるある4コマ漫画についてだ。


※以下、『ルックバック』のネタバレを含みます。


「『背中を見て』というタイトルの4コマ漫画が、藤野が再び前を向くきっかけになるのですが、その作風は紛れもなく藤野のもので、しかし作者名は京本となっていました。藤野が描いて<京本>とサインしたのか、京本が藤野の作風を真似て描いたのか、原作では明らかになっておらず、いずれにしてもエモーショナルなのですが、どちらかによって物語の意味は大きく変わる。映画では漫画より具体性を帯びて描かれる可能性があり、注目したいポイントです」


 『ルックバック』はそのタイトルも含め、ネット上で考察合戦が盛り上がった作品でもある。確かに、映画では原作の“行間”が描かれる可能性があり、熱心なファンにとっては“答え合わせ”ができる作品になるかもしれない。劇場公開を待ちつつ、続報も楽しみにしたい。


(橋川良寛)


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