「高級おにぎり」ブームは必然か? イノベーター理論に当てはめて考える

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2024年04月23日 07:21  ITmedia ビジネスオンライン

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高級おにぎりがブームになっている(画像:ゲッティイメージズより)

 今、「高級おにぎり」がちょっとしたブームになっていることを、皆さんはご存じでしょうか。


【画像で見る】ローソンの「金しゃりおにぎり 焼さけハラミ」


 2023年版の「惣菜白書」によると、総菜市場は2年連続でプラス成長。カテゴリ別にみると、おにぎりを含む米飯類は市場全体の約45%を占めており、堅調な伸びをみせています。


 日経トレンディが発表した「2023年ヒット商品」では21位に「ぼんご系おにぎり」がランクインしました。「ぼんご」とは、1960年に開店した都内のおにぎり専門店。具材が大きく、ふっくらとした、あったかいおにぎりがウリで、休日には数時間待ちの行列ができるほどの人気店です。


 コンビニ各社の動きも活発です。セブン-イレブンは、京都の老舗米問屋とコラボしたおにぎりを販売。ローソンは200円以上する「金しゃりおにぎり」の握り方を一新し、ご飯をふっくらさせました。ファミリーマートも同様に「手巻きおむすび」をリニューアルして、ご飯をふっくら化。具材が大きく少し値が張るラインアップは以前からありましたが、これらの動きは全て2023年のことです。


 しかしながらどうして今、高級おにぎりがブームになっているのでしょう……?


 複合的な要因ではありますが、このブームはいわゆる「大手小売のマーケティング戦略」にとどまらない面白さがあるようです。それは「専門店のおにぎりが、コンビニにも影響を与えた」という、ユーザー主導で発生したものであるということです。


 それは一体どういうことか。今回は高級おにぎり人気の理由を「イノベーター理論」を参照しながら考えてみましょう。


●イノベーター理論は「新商品」以外も当てはまる


 イノベーター理論とは、新しい商品やサービスがどのように市場に普及するのかを示したものです。


 まずは、特定のカテゴリに対する関心が高い「イノベーター」が利用したものを「アーリーアダプター」であるインフルエンサーが拡散し、その影響を受ける「アーリーマジョリティ」が採用することで世の中に普及していく……というのが、大まかな流れです。


 分かりやすい具体例として、ハイブリッドカーがあります。1990年代後半に、その未来感や先進性に引かれて初代プリウスを購入した人がイノベーターだとすれば、2000年代に、燃費などの実用面にも魅力を感じて購入した人がアーリーアダプター。当たり前の選択肢になった今は、アーリーマジョリティに達したといえます。22年の乗用車におけるハイブリッドカーの販売比率は49%なので、上図の採用者数に照らしても妥当です。


 このイノベーター理論は、決して先進的なものや新しい商品だけに当てはまるわけではありません。


 例えば今、1970〜80年代シティポップのリバイバルブームが起きているのはご存じでしょうか。YouTubeで配信されている竹内まりやさんのMV『Plastic Love』のコメント欄の盛り上がりを見れば、その雰囲気を感じられるかと思います。


 このリバイバルブームは、海外の音楽フリークが、楽曲配信サービスなどを通じて日本のシティポップに出合ったことから始まっています。その人こそがイノベーターですが、本来イノベーターは「広めたい」というスタンスではありません。次の段階であるアーリーアダプターがその魅力に気づき、インフルエンサーとして発信をしたからこそ、今日のブームは起きています。


 さて、このようなシティポップの売れ方は、高級おにぎりに似ていると思いませんか?


 「ぼんご」は決して新しい店ではなく、ずっと常連さんに愛され続けてきたところに、口コミやメディアの露出などが加わり、多くの人に見つかりました。他ではなかなかお目にかかれない「ふっくら」「具材が大きい」「あったかい」おにぎりは、特別感をもって迎えられ、さらにコンビニが追随したことにより、高級おにぎりは一大ブームに。


 これはまさに、「常連さんというイノベーター」「インフルエンサーとしてのアーリーアダプター」「当たり前のようにコンビニで購入するアーリーマジョリティ」という流れです。


●「馴染みがあって、新しい」こそが、広めたくなる「特別感」


 アーリーアダプターは、先進性に引かれるだけでなく「具体的なメリット」も大事にする人たちです。つまり、尖っているだけの商品だとイノベーター止まりでブームにはなりません。


 高級おにぎりは、なぜその先に進むことができたのか。それには、まさに「おにぎりが本来持つ力」そして「特別感」が関係していると考えられます。


 ここでは「MAYA理論」を参照しながら、その正体について考えていきます。MAYA理論とは「Most Advanced Yet Acceptable」の略で「人は驚きを求める一方で、馴染(なじ)みあるものが欲しい」という人間の性質を示しています。


 おにぎりは「ご飯+具材」という基本的なフォーマットがあって、それはまさに「馴染み」あるもの。具材の「内容」や「大きさ」を工夫することで「好奇心」が駆り立てられ、そこに「ふっくら」が加わることで、より一層の特別感が出たと言えるでしょう。


 現代人は次から次に新しい情報を浴びているので、具材を工夫するだけではもはや特別感を抱きづらい。しかし「ふっくら」が加わることで、明らかにこれまでとは違う「Wow!」がある。でもそれは、馴染み深い本来のおにぎりの姿でもある。


 これに似た売れ方をしている商品は他にもあります。例えば、ファミリーマートの「生コッペパン」。見た目は普通のコッペパンなのに、ふわっと食感は普通超え。「馴染み+新しい」のお手本のような商品で、案の定、ヒットしているようです。


 「誰かに広められる特別感」は面白いだけでは不十分で、相手にとっても馴染みあるフィールドである必要があります。そのフィールドの中で新鮮な情報を届けるのが、アーリーアダプターすなわちインフルエンサーというものです。


●結局のところ、世の中に広まるのは「コスパがあってこそ」


 3段階目のアーリーマジョリティの人たちは、すでに始まっている流行に乗っかります。つまり、2段階目のアーリーアダプターに大きく影響を受けています。


 口コミやメディアなどの情報を通して、すでに伝わっている特別感。慎重な姿勢をとるアーリーマジョリティを振り向かせるには、これまでの生活を変えるわけではなく、馴染むような体験にできるかがポイントです。


 1つ目の観点としては「どこでも簡単に入手できるか」があります。


 「ぼんご」のような専門店だと、あくまで「知る人ぞ知る」止まり。だからこそ生まれる熱狂を活用するのもマーケティング戦略のひとつではありますが、ここはみんなの食べ物「おにぎり」です。大手小売店で売られることにより、「ぼんごのおにぎり」から「高級おにぎり」という、点ではなく面としての人気にフェーズが移行するのです。コンビニに並べば、それはスタンダード認定を受けたようなもの。一つの分岐点といえるでしょう。


 ユーザーが自分から探しにいくのではなく、自然とそこで売っているから買う。それこそが「馴染んでいく」ユーザー体験です。


 そして2つ目の観点は、やはり「コスパ」や「タイパ」ではないでしょうか。


 昨今の物価上昇などもあり、ランチのお財布事情も厳しくなっています。その中で積極的に選ばれるためには、やはり優れたコスパであることは欠かせません。嗜好性の強くないものに無理をしてチャレンジする人は少ないのです。


 おにぎりがいわゆるコスパに優れていることはよく語られています。腹持ちは良いですし、具材も豊富で選択肢が多い。健康にも良さそうです。それが高くても200円台のため、複数個買ってもそれなりの値段に収まります。


 でも、私たちはただ手軽に栄養を摂取できれば良い生き物ではありません。限られた予算だとしても美味しいものを食べたいし、楽しく選びたい。


 いつも食べている好きな具材や、旬の食材を使った期間限定品……。おにぎりには、好きなものを選んで、好きなものを食べるという「楽しい体験」があるのです。それを最小限のコストで体験できる価値は大きいといえます。


 さらにタイパの観点でいうと、スマホの影響も大きいでしょう。左手におにぎりを、右手にスマホを持ちながら、いわゆる「ワンハンド」でランチ。なんてことも珍しくはありません。


 コスパもタイパも、決して機能的な側面だけではなく「楽しさ」といった情緒面も考慮されるもの。そんな意味を含めても、おにぎりは現代社会にうってつけの食べ物といえるでしょう。


 どこでも手に入り、コスパ・タイパに優れ、楽しさもある。だからこそ人々の日常に馴染んでいき、広まっていく。これもまた、昨今の高級おにぎり人気の理由の一つと考えられます。


●全ては「目の付けどころ」


 さまざまな観点で考察を述べましたが、やはり昨今の高級おにぎり人気で特筆すべきは、その始まりが「ぼんご」という、昔から愛されていた小さな専門店だったという点にもあると考えています。


 普段、何気なく愛用しているものの中に、全国的なヒットの種が潜んでいるかもしれない……そんなロマンを感じてしまうのは、筆者だけではないはず。


 今回は、イノベーター理論を参照しながら、高級おにぎりがブームになった理由に迫りました。皆さんもぜひ、普段から愛用しているサービスや商品を見直すところから始めてみませんか? いつの日にか「まさか自分がイノベーターだったとは」と思い返すような、そんな特別感を発見できるかもしれません。


●著者紹介:高階有人


株式会社グッドパッチ UX/サービスデザイナー。大手SIerにてシステム開発やデジタルビジネス企画を経験。その後コンサルティングファームにて、官公庁向けのITコンサルティングや調査研究に従事。2021年にグッドパッチにUX/サービスデザイナーとして入社。暮らしや仕事になじんでいくサービスを生み出すことを信条としている。趣味は音楽とアイスランド。


このニュースに関するつぶやき

  • ペットボトルのお茶やカルピス、おにぎりなんかも、家でできる物が売り出された時には驚いたもんだけど、今は便利という言葉で片付くんだもんなぁ。脳が昭和な人間の感想でした。
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