バッファロー開発陣に聞く「Wi-Fi 7」にいち早く対応したメリット 決め手は異なる周波数を束ねる「MLO」【前編】

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2024年04月23日 16:41  ITmedia PC USER

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インタビューに応じてくださったバッファローの皆さん。左から下村洋平氏(コンシューマーマーケティング部 次長)、永谷卓也氏(コンシューマーマーケティング部 BBSマーケティング課)、森川大地氏(ネットワーク開発部 第一開発課)、市川剛生氏(ネットワーク開発部 FW第一開発課 課長)、成瀬廣高氏(ネットワーク開発部 第一開発課 課長)

 2023年12月22日、総務省が電波法に基づく「技術基準」と「無線設備規則」の一部を改正した。これにより、国内でもIEEE 802.11be規格の無線LANの利用が可能となった。2024年1月9日(日本時間)にはWi-Fi Allianceが同規格の無線LAN機器の認証プログラム「Wi-Fi CERTIFIED 7」を発表したことで、今後IEEE 802.11be(Wi-Fi 7)対応機器が相次いで登場するものと思われる。


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。→「IEEE 802.11be(Wi-Fi 7)」「320MHz幅」での通信が解禁に――総務省が技術基準を改正 即日施行


 Wi-Fi Allianceの発表に合わせて動いたのが、国内における無線LAN機器の老舗であるバッファローだ。同社は1月9日、Wi-Fi 7認証を取得した“国内初”の無線LANルーター「WXR18000BE10P」の発売を予告。2月上旬から販売を開始した。


 読者の皆さんはご存じかもしれないが、規格としてのIEEE802.11beはまだ正式なものではない。現状では「Draft(ドラフト)」と呼ばれる暫定規格の状態である。そのため、現状発売されているWi-Fi 7対応デバイスは暫定規格に基づくものである。


 マーケティング理論でいう「アーリアダプター層」のユーザーは、現段階のWi-Fi 7対応製品に手を伸ばしても問題ないのか――バッファローの開発陣に直接、質問をぶつけてみた。


●日本における「Wi-Fi 7」の現状はどうなっている?


 「Wi-Fi 6」ことIEEE 802.11ax規格の無線LANは、2019年に正式な規格となった。同規格では従来のIEEE 802.11シリーズが想定していた2.4GHz帯と5GHz帯に加えて、他用途との競合が少ない6GHz帯の利用を想定しており、特に6GHz帯に対応するものは非対応製品と区別するために「Wi-Fi 6E」と呼称している。


 日本では2022年9月2日付で6GHz帯の一部がアンライセンスバンド(無線局免許なしで通信できる帯域)となり、Wi-Fi 6E対応機器の国内出荷が可能となった。


 先述の通り、総務省は2023年12月22日付で電波法に基づく技術基準/無線設備規則を改正した。この改正は、IEEE 802.11be規格の国内導入に必要な技術的要件を定めたもので、具体的には最大320MHz幅での通信を合法化している(従来は最大160MHz幅)。


 IEEE 802.11beでは、利用できる電波の帯域を最大160MHzから320MHzに広げた他、変調の高度化(1024QAM→4096QAM)や、MLO(※1)の導入などによって、理論上の最大通信速度が9.6Gbpsから46Gbpsと一気に約4.8倍に引き上げられた。このインパクトは大きい。


(※1)Multi Link Operation:離れた帯域の電波をまとめることで、通信速度を向上する技術(モバイル通信において「CA(キャリアアグリゲーション)」と呼ばれる技術とほぼ同じ)


 もっとも、現在の家庭向けブロードバンドサービスの最大速度は10Gbps程度なので、この高い理論値をすぐに生かせるわけではないが、中長期的な視点に立つと実効速度の改善につながるので、そのポテンシャルはすぐに生かせるだろう。


 規格としてのWi-Fi 7は、現時点でまだDraft規格となっている。バッファローのWXR18000BE10Pを含めて、Wi-Fi 7対応のルーターは既に複数発売されているが、今購入しても問題はないのだろうか。


●Wi-Fi 7ルーターは買っても大丈夫? 正直に聞くと……


 バッファローのWXR18000BE10Pは、国内メーカーとしては初めてWi-Fi CERTIFIED 7を取得したWi-Fiルーターだ。しかし、先に触れた通りIEEE 802.11beという規格自体はまだ確定していない。


 IEEE 802.11シリーズの無線LANでは、過去にもDraft時点で認定プログラムが登場したり、対応製品が発売されたりしたこともある。その際はDraftから仕様が大幅に変わることがなかったので、Draft準拠の製品も規格確定後に「正式規格に準拠したもの」として見なされた。


 とはいえ「まだ確定していない規格の製品を買っても大丈夫なのか?」という不安はどうしても拭いきれない。このことを率直にバッファローの皆さんに伝えたところ、成瀬廣高氏(ネットワーク開発部 第一開発課長)がこう答えた。


 結論からいうと、大きく2つの理由から心配する必要はないと考えています。 1つは米IEEEにおける規格の議論状況にあります。IEEE 802.11be規格に関するタスクグループでは2023年6月頃から「Draft 4.0」の議論が進行していますが、「Recirculation Ballot(投票の再実施)」という標準化を前にした細部のすり合わせ段階に入っており、本規格にさらなる新機能が搭載されるリスクはないことを意味します。少し言い方を変えると、IEEE 802.11be対応の通信チップの再設計を求められるような仕様変更はあり得ないということです。 もう1つは、当社製品の話になりますが、今回発売したWXR18000BE10PはWi-Fi CERTIFIED 7の認証を“しっかりと”取得したことです。この認証を取得するには、「新規格における互換性」はもちろんですが、「旧規格との互換性」や「他ベンダーとの互換性」を確保することも求められます。新旧規格で互換性のある運用を行える“お墨付き”を得たことになりますので、少なくとも同認証を得たWi-Fi 7機器は、安心して購入して頂いても大丈夫です。


●「Wi-Fi 7」認証を早期に取得&発売できた秘密は?


 時系列を振り返ると、2023年12月に「規格の合法化」が行われた後、WXR18000BE10Pは2024年1月に「Wi-Fi CERTIFIED 7取得」、同年2月に「発売」と、かなり短いタイムスパンで発売までこぎ着けたように見える。なぜ、ここまでスピーディーに認証を取得し、発売にこぎ着けることができたのだろうか。


 成瀬氏は「実は想定よりも約4カ月前倒しされた」と明かした上で、次のように説明した。


 本製品(WXR18000BE10P)の開発は、半導体メーカーなどと密にコミュニケーションをとりながら約2年間をかけて進めてきました。電波法や関連規則類の改正タイミングは、メーカーとして把握するのは難しかったので、できることは先に進めておこうと準備を進めてきた格好です。 当初、IEEE 802.11be規格に関連した規則改正を2024春頃に行われると予想していたのですが、それがまさかの2023年の年の瀬に早まってしまいました。 早期の発売に当たっては、ハードウェア面でも半導体のリードタイムが非常に長い時期でしたので苦心しましたが、一番大変だったのはファームウェアの調整工程だったと思います。


 ファームウェアは、ルーターを動かすために必要なソフトウェアだ。その開発に当たった市川剛生氏(ネットワーク開発部 FW第一開発課長)が、こんなエピソードを語ってくれた。


 当社では普段、コンシューマー製品と法人向け製品でファームウェアの開発チームを分けているのですが、想定よりも早くIEEEE 802.11beが解禁されたことに伴って法人向けチームを巻き込んだ“総力戦”で開発に挑みました。人員の規模でいうと、普段の2〜3倍程度です。ベテラン社員の知見などを生かしつつ、チームメンバーの1人1人が自主的に取り組むことで、想定よりも短縮されたスケジュールにも何とか対応できました。 もちろん、IEEEE 802.11be(の通信機能)自体は、チップベンダーが作りこんでくださったので大きな苦労はありませんが、そこにセキュリティ機能を始めとするバッファロー独自機能も組み込む必要もあります。ここにはしっかりと投資をしなくてはなりません。


 Wi-Fi CERTIFIED 7の取得にも、苦労があったという。必要な試験に対応するために、一部のスタッフは台湾に1カ月半ほど出張していたそうだ。


 そこまでして早期に発売することにこだわったのはなぜなのか。下村洋平氏(コンシューマーマーケティング部 BBSマーケティング課 次長)はこう語る。


 「Wi-Fi 7」というキーワードは、かなり早い段階から一般に認知されるようになっていましたので、我々としても早く販売したいという思いやプレッシャーはもちろんありました。一方で、この先の数年間で主流になっていく規格の“始まり”でもありますから、中途半端なものに仕上げてはいけない面もあります。 迅速なリリースを意識しつつも、安心して使ってもらえる品質の製品に仕上げることにもこだわりました。実際のところは、我々の納得のいく製品をお届けするために、ユーザーの皆様をお待たせしてしまったくらいかもしれません。


 WXR18000BE10Pは、Wi-Fi 6E対応ルーターのフラグシップモデル「WXR-11000XE12」の事実上の後継でもある。なぜ、初めてのWi-Fi 7対応ルーターをフラグシップモデルとしてリリースしたのだろうか。


●Wi-Fi 7をフラグシップモデルから投入した理由は?


 過去の製品展開を振り返ると、バッファローがWi-Fi 6E対応ルーターの“初号機”として出したのは、「Wi-Fi Easy Mesh」対応のミドルレンジモデルだった。


 今回、Wi-Fi 7対応ルーターの第1弾として、フラグシップモデルを投入したのはなぜなのか。下村氏に尋ねるとこう答えた。


 Wi-Fi 6Eの際に、あえてメッシュ対応Wi-Fiルーターと、そのセット品を先にリリースしたのは、6GHz帯の無線LANに端末するクライアント機器(端末)がすぐには出てこないだろうという状況を踏まえた判断でした。Wi-Fiルーター間のバックホール通信で6GHz帯を生かしてもらおうと思ったわけです。 一方、今回のWi-Fi 7ではやはり「最大通信速度46Gbps」というポテンシャルに期待してフラグシップモデルを求めるお客さまが最も多いだろうと考え、その期待に応えられる製品から投入いたしました。


 なお、同氏は「Wi-Fi 6E対応モデルには、6GHz帯が使えるメリットがある」ともし、今後もメインストリームモデルを中心にWi-Fi 6E対応モデルを継続展開する可能性を示唆した。


●Wi-Fi 7のメリットを生かすための仕様変更も


 バッファローは、Wi-Fi 7対応端末は比較的早期にリリースされると予想しているという。そのメリットを生かすべく、WXR18000BE10Pは従来の同社製ルーターから変更された仕様がある。


 従来の同社製ルーターでは、初期状態でアクセスポイント(SSID)を「2.4GHz帯用」「5GHz帯用」「6GHz帯用(Wi-Fi6E対応モデルのみ)」と、周波数帯別に用意していた。それに対して、WXR18000BE10Pでは初期設定で6GHz帯用SSIDを2.4GHz/5GHz/6GHzのいずれの帯域からもアクセスできるようにしたした(※2)。これは、Wi-Fi 7で新たに搭載される「MLO」を生かしやすくするための工夫だ。


(※2)設定を変更することで、従来通りの6GHz用SSIDも用意できます


 このようにした狙いを、永谷卓也氏(コンシューマーマーケティング部 BBSマーケティング課)は以下のように語る。


 当社がWi-Fi 7においてユーザーメリットが一番大きいと考えている機能がMLOです。これまでのWi-Fiでは1つの周波数帯でしか通信ができませんでしたが、MLO対応のWi-Fi 7機器では複数の周波数帯を同時に使って通信できるようになります。 MLO対応のアクセスポイントと端末を組み合わせると、5GHz帯と6GHz帯の通信を自動的に切り替える「切替モード」を利用できます。これは従来製品における「バンドステアリング」よりも周波数帯切り替え時の遅延を低減できます。 また、MLOには複数のチャンネルを束ねて1つのSSIDとして通信できる「同時モード」もあります。こちらはMLO対応端末で使えばスループット(実効通信速度)を向上できますし、このモードでメッシュネットワークを構築すれば、MLO非対応端末でも親子間通信のスループット向上による通信品質改善効果を得られます。


 国内メーカー初のコンシューマー向けWi-Fi 7ルーターとなったWXR18000BE10Pの実売価格は、税込みで6万円台半ば程度だ。Wi-Fiルーターとしては若干高価ではあるが、機能面をよく考えるとメリットの多い製品なっている。


 本製品の“深掘り”は、別の記事に譲りたい。


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