【舛添要一連載】凋落する民主主義、その潮流に「ポピュリズム」が拍車をかける

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2024年04月27日 05:20  Sirabee

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(©ニュースサイトしらべぇ)

2010年以降、世界で民主主義が退潮している。イギリスのオックスフォード大学の研究者らが運営する「アワー・ワールド・イン・データ(Our World in Data)」の調査によると、この10年間に民主主義国家に住む人口は2割以上も減り、今では全体の29.3%である。権威主義国家に住む人口は70.7%と、実にその倍以上である。

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■東西冷戦の終焉

歴史を振り返ると、1930年代はドイツでヒトラーが政権に就くなど、権威主義国家が増えていった。当時は、日本もイタリアも権威主義国家群に属していた。

しかし、第二次世界大戦後は、日本、イタリア、西ドイツも民主主義国家となり、民主主義が世界に拡大していった。

東西冷戦時代には、民主主義陣営が約40%、権威主義陣営が約60%の状態が続いた。しかし、1989年にベルリンの壁が崩壊し、3年後にソ連邦が解体すると、東欧諸国が民主化していった。その結果、21世紀になると、民主主義陣営の人口が約55%となって、権威主義陣営の約45%よりも多くなったのである。

東西冷戦の終焉がもたらした朗報であった。しかし、状況は2010年代に変化し始める。権威主義の中国が経済発展を遂げ、2010年にはGDPで日本を追い抜き、アメリカに次いで世界2位に躍り出た。米ソ冷戦が終わったときには、民主主義でなければ経済発展はしないという認識が一般的であった。ところが、共産主義独裁国家である中国が、目覚ましい経済発展を遂げたのである。

 

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■民主主義の魅力が減った

それに対して、欧米や日本の経済は低迷し、しかも人工妊娠中絶、LGBTなどのテーマで社会は分断されている。発展途上国にとっては、民主主義は魅力の乏しい体制になってしまった。

しかも、民主主義国家は、政策決定に時間がかかりすぎる。それは民主主義の欠陥であり、迅速性、効率性では独裁国家に敵わない。プーチン政権下のロシアは権威主義国家であり、三権分立は存在していないと言っても過言ではない。ウクライナ戦争の過程で見てきたように、議会は大統領の決定を追認するだけの機関となっている。

民主主義が基本的人権を守る体制であるのみならず、経済を発展させる仕組みであることも実証しなければ、権威主義国家との戦いに勝てなくなる。ファシズムやナチズム、そして共産主義の問題点については、ムッソリーニ、ヒトラー、スターリンという独裁者の統治を経験して、人類は認識したはずである。

 

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■蔓延するポピュリズム

独裁と対極にある民主主義にも問題がある。大衆が、政治を取り仕切る政治家や高級官僚などのエリートが自分たちの利益を代弁していないと感じたとき、その不満を既成の政治を覆すことによって解消しようとする。そのときに、大衆の力を結集する政治家が現れ、大衆を扇動して人気を博し、権力の獲得を目指す。それがポピュリストである。

近年のポピュリズムの典型例は、イギリスのEU離脱(Brexit)とトランプ大統領の誕生である。今では、過半数のイギリス人は「Brexitは失敗だ」と思っている。また、トランプ治政下で、世界が大きな迷惑を被ったことは記憶に新しい。

ところが、今年の大統領選挙では、またトランプが共和党の候補となっており、彼がまた大統領になる可能性もある。

 

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■選挙で指導者を選ぶ制度

民主主義体制では、選挙で自分たちの代表を選ぶ。マスコミが発達した現代社会では、メディアが作り上げる虚像が一人歩きする。政策や人物の評価ではなく、選挙は人気投票となる。政党が、マスコミで名の売れているタレントを擁立しようと画策するのは、集票効果のためである。

大衆民主主義は、衆愚政治になりやすい。近年のSNSの発達によって、誰でも情報を発信できるようになった。それがフェイクニュースであることもあり、選挙にも大きな影響を与える。

そのため、選挙で選ばれた選良たちには政治家としての能力に欠ける者が多く見られる。たとえば、共産党独裁の中国では、熾烈な競争で指導者の選別を行うので、無能な者が選ばれることはあまりない。政治家の単純なIQ比較をすれば、権威主義体制のほうが民主主義体制よりも高いのではなかろうか。

残念ながら、民主主義が権威主義に敗退し、衰退していく可能性は否定できない。

 

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■執筆者プロフィール

Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。

今週は、「民主主義」をテーマにお届けしました。

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(文/舛添要一)

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