生成AIで死者を“復活”させるビジネスは人を救うのか 指摘される懸念とは?

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2024年04月27日 06:31  ITmedia ビジネスオンライン

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生成AIで死者を“復活”させるビジネス

 最近日本で、中国発のこんなニュースが話題になった。


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 TBSの報道によると、「世界では今、インプットされたデータから文章や画像などを自動で作り出す『生成AI』の技術が急速に進化しています。こうした中、中国では『生成AI』を使って、亡くなった人を『復活』させるビジネスが登場し、論争を呼んでいます」という。


 つまり、生成AIに死んだ人の画像や声などを学習させることで、亡くなった人と対話ができるというものだ。これは中国での話だが、実は世界では米国を中心にすでにこうしたサービスは始まっており、物議になっているケースもある。


 TBSが報じた中国のサービスでは、亡くなった老人や、幼くして亡くなった子どもの動画を作って、家族にAIサービスを提供している。確かに、家族などを失った人が、亡くなった家族と擬似であってもやりとりできるなら、心を癒やす効果があるというのは理解できる。


 同サービスは「スーパーブレイン」という会社が提供しているもので、何カ月も前から海外メディアでも取り上げられていた。フランスのテレビ局も2023年12月に報じており、こうしたデジタルクローンに注目が集まっていると紹介している。世界的に注目度が高いのは間違いないし、ビジネスチャンスも広がっているということだろう。


●亡くなった創業者の「スピーチ」を公開した例も


 AI動画をめぐっては、こんな例もある。2024年3月、中国のAI関連企業であるセンスタイム(商湯集団)が年次総会を行った。その総会では、共同創業者の湯暁鴎氏がスピーチをしたのだが、実は湯氏は前年の12月に亡くなっており、スピーチは言語モデルの機械学習プログラムを使って作られた湯氏のデジタルクローンによるものだった。


 現在、先に紹介した死者と対話できるサービスも、こうしたデジタルクローンも同様に、生成AIで動画を作るのは技術的にも非常に簡単だ。筆者も先日、オンライン上の詐欺広告について取材をしていた際に、自分が話している動画を使って、AIで自分の顔を別人に変えてみたところ、あっという間にできてしまった。今では、動画の顔を入れ替えてしまう生成AIのサービスや、音声サンプルからAIで人の声を再現できてしまうサービスがインターネットですぐに見つかる。


 こうしたデジタルクローンは、「ディープフェイク」という言葉でも知られている。そもそも、AIを使って人の顔を動画に埋め込む技術は2017年に米国で初めて問題視され、当時からディープフェイクと名付けられて注目されてきた。当時、「ディープフェイク」という名のネットユーザーがAIを使ってセレブの顔をポルノ動画にはめ込み米人気オンライン掲示板で公開したことで、大きな問題になり、論争になってきた。


 以降、そのようなAIで顔を入れ替える動画は、一般的に「ディープフェイク」と呼ばれてきた。また、作成アプリなども登場し、一般ユーザーが手軽に動画を作るようになった。多くの人が使うようになって、クオリティーもますます高くなっている。


●世界各国で生まれる「死者をAIで復活」サービス


 中国発の「亡くなった人を復活」させるサービスは、米国でもすでに登場している。


 カリフォルニア州のストーリーファイル社では、亡くなった人とさまざまな対話ができるサービスを499ドルで提供。実際に、大事な人を亡くして落ち込んでいる人たちの心の支えになっているケースも報告されている。


 こうした企業は米国でいくつも立ち上がっている。例えばある企業は、亡くなった女性の葬儀で、AIで復活させたその女性と参列者が対話できるサービスを提供した。亡くなった女性と、その本人の葬儀で「ビデオ通話」ができるなんて、感情的に揺さぶられて複雑な気持ちにさせられるサービスではないだろうか。


 また別の企業は、生前にインタビューを何時間分か収録しておき、その人が亡くなった後で、その人と対話ができるサービスを提供している。その人の話し方や口調なども復活させることができる。インタビューで語られた内容が対話に反映されるので、なかなか深い話ができる可能性がある。


 アマゾンが提供する「アレクサ」でも、亡くなった祖母の声で本を読んでくれるサービスなどがある。こうしたサービスはこれから世界中で増えていく可能性があるだろう。


 米国以外でも、韓国では死者をAIで復活させるスタートアップ企業も出てきている。2020年に原因不明の病気で亡くなった6歳の女の子をAIで復活させて、母親と再会させるドキュメンタリーを制作して話題になった。台湾では有名ミュージシャンが、珍しい血液の病気で亡くなった22歳の娘を、生前の音声や画像を使ってAIで復活させたことが最近ニュースになっている。


 ただこうしたサービスは、人を救っているのは間違いないが、同時に物議を醸している。


●精神に「害を及ぼす」可能性も指摘


 TBSの報道では、死者をAIで復活させるサービスを提供している中国人の男性が「私は今、人々を救っていると感じます。人々に精神的な安らぎをもたらしているのです。私の夢は、普通の人がデジタルの力で『永遠に死なない』ことを実現することです」と述べている。筆者もこの感覚は理解できるが、この考え方自体を疑問視する声もある。


 というのも、亡くなった人といつでも普段通りに対話できるようになることで、人の精神衛生に害を及ぼす可能性があるというのだ。家族など大事な人が亡くなったとき、人はその悲しみを受け入れ、克服していく。そして自分の人生を前進させていく。AIで死者を復活させることに対して、「忘れるという行為は健康的である」と主張している報道もある。


 米国ではこうしたサービスが、心理学の研究対象にもなっている。コロラド大学のジェッド・R・ブルーベイカー教授らの研究では、こうしたサービスが死者の存命中に生成したコンテンツを反復するのではなく、新規コンテンツを生成する能力があることから、このようなサービスに使われるAIを「生成ゴースト」と呼んでいる。


 生成ゴーストと対話を続けると、現実社会との関係に混乱が起きる可能性もあるとこの論文は警鐘を鳴らす。論文を引用すると、「例えば、生成ゴーストの広範な採用は、労働市場、対人関係、宗教組織など、現代社会の基礎を根本的に変える可能性があります」という。


 また、故人の情報を学ばせて生成する場合は、倫理的な課題もある。プライバシーの問題もあるし、亡くなった人が死後に自分が復活することを望むかどうかという問題もある。こうした議論は今後さらに活発になるだろう。


 生成AIを使えば、ディープフェイク画像を簡単に作れるので、中国などでは画像を不正に使って有名人を復活させるケースも出ている。著作権や肖像権を侵害するこうした行為が批判を浴びているのは言うまでもない。


 新しいテクノロジーの登場は、ビジネスチャンスであるのと同時に、考慮すべき課題ももれなく付いてくる。今回の新しいサービスは、人の死が関わっているだけに慎重な議論とともに展開されていく必要があるだろう。


(山田敏弘)


このニュースに関するつぶやき

  • 技術特異点(シンギュラリティー)の理論と組み合わせて考えるなら肉体は持たないが、思考そのものの永遠なる発達は可能になるかも?人類にとって幸か不幸かは分からないけどね。
    • イイネ!8
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