ロイヤルホストと「安さがウリのファミレス」で分かれた明暗。“質にこだわる姿勢”が功を奏す結果に

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2024年04月27日 09:11  日刊SPA!

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経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回はロイヤルホールディングス株式会社(以下、ロイヤルHD)の業績について紹介したいと思います。
ロイヤルHDは主力ブランドである「ロイヤルホスト」のほか天丼チェーンの「てんや」を展開し、外食の他にもホテル事業や高速SA内レストランも手がけています。多角経営を進めてきましたが、事業の特性上、コロナ禍でリスクは分散されず、近年の業績は大幅に悪化しました。しかし、資本業務提携をした総合商社・双日から出資を受けた結果、最近では新規事業の開拓を進めています。沿革と新規事業についてまとめました。

◆機内食事業から始まり、レストラン・ホテル事業へ

ロイヤルHDは1951年に創業した現・福岡空港内の機内食及び喫茶店事業をルーツとします。2年後の53年に福岡市内でフランス料理店を開店し、59年にはファミリー向けのレストランとして「ロイヤル」をオープンしました。そして1971年から郊外型ファミレスとして「ロイヤルホスト」業態を始め、やや高価格帯ながらも品質にこだわったファミレスとして、その地位を確立しました。73年には高速PA内のハイウェイレストラン事業にも参入します。

1983年には東証一部に上場し、95年には大和ハウス工業などと共に5社が出資する形でホテル事業(ロイネットホテル)にも参入しました。2004年には同ホテル事業の一部を継承し、現在では「リッチモンドホテル」として運営されています。その後、2006年には丸紅系として運営されていた「てんや」事業を買収し、2013年から同業態の海外展開を始めました。

◆“ほとんどが直営”のロイヤルホスト

直近2023年12月期の売上高は1,389億円であり、各事業の構成は以下の通りとなっています。

外食事業:ロイヤルホスト、てんやなど(売上高619億円)
コントラクト事業:高速SA、空港内レストランなど(売上高435億円)
ホテル事業:リッチモンドホテル及びホテル内レストラン(売上高295億円)
食品事業:「ロイヤルデリ」などの家庭向け冷食(売上高118億円)

ちなみに外食事業に関しては、ロイヤルホストの222店舗中ほとんどが直営で、てんやは182店舗中34店舗が国内FC、32店舗が海外FCです。リッチモンドホテルは同期末時点で47拠点展開し、一泊一人1万〜1.5万円と“中の上”のビジネスホテルとして知られています。

◆リスクが分散されず、業績は大幅に悪化…

リスク分散になるはずの多角経営も、事業の特徴からコロナ禍では全事業の業績が悪化しました。2019年12月期から23年12月期までの業績は次の通りです。

【ロイヤルホールディングス株式会社(2019年12月期〜23年12月期)】
売上高:1,406億円→843億円→840億円→1,040億円→1,389億円
営業利益:46.5億円→▲192.7億円→▲73.7億円→21.9億円→60.7億円
売上高(外食事業):626億円→463億円→451億円→535億円→619億円
売上高(ホテル事業):303億円→140億円→167億円→232億円→295億円
自己資本比率:49.6%→19.7%→31.0%→35.8%→38.0%

20年12月期に至っては全社40%、ホテル事業単体で54%の減収となりました。外食事業については必需性の低いレストラン業態、てんや業態が悪化の要因です。とはいえ「てんや」に至っては天丼並盛を税込500円から540円にした18年1月の値上げ以降、業績悪化が続き、外食事業全体ではコロナ禍以前より軟調に推移していました。ホテル事業は言うまでもなく出張や旅行客、インバウンド減少の影響を受けた形です。

利益面では20年12月期の275億円の最終赤字が財務を圧迫し、期末時点の自己資本比率は50%から20%へと大幅に悪化しました。しかし翌21年には資本業務提携により総合商社・双日から100億円の出資を受け、その後も追加増資を受けたことで自己資本比率は持ち直しています。後述の通り、双日との提携は今後の新規事業開拓にも関わってきます。

◆ロイヤルホストがいち早く回復した理由

業績回復は現時点でも道半ばですが、ロイヤルホストはいち早く回復。22年12月期第4四半期で既存店売上高は2019年度と比較して110%台となりました。バラエティ番組『ジョブチューン』(TBS系)の放送内容がSNSで話題となるなど、メディアの影響もありますが、やはり質重視の姿勢が消費者を惹きつけたといえます。

近年、外食チェーンでは値上げやサイズ・質を下げたステルス値上げが横行しており、サイゼリヤを除いて1,000円以下で食べられるファミレスも少なくなりました。安さがウリだったはずのチェーンでその魅力が失われつつあります。

一方、ロイヤルホストは客単価が2,000円と言われ、確かに割高ですが従来通り質にこだわった料理を提供し続けてきました。「どうせお金を払うなら高くてもちゃんと食べたい」といった「ロイヤルホストに対する肯定的な意見」も見られ、質重視の姿勢が改めて評価されたと考えられます。

◆海外で高い知名度を持つ「天ぷら」には可能性が?

前述の通り双日はロイヤルHDに出資し続けました。今までの増資に伴い、現時点でロイヤルHDの株の20%を双日が握っています。双日が出資を決めた背景には非資源事業を強化したい狙いがあります。これまで石炭や石油、金属関連事業で儲けてきた総合商社。脱・炭素化が進むなか、彼らにとって非資源事業の模索は急務となっています。

双日との提携後は特に外食事業で新規事業を開拓する動きが見られます。23年1月には2社間で合弁会社を設立し、8月には「コスタコーヒー(COSTA COFFEE)」の1号店を渋谷にオープンしました。コスタコーヒーはヨーロッパのカフェブランドとして45か国に展開し、イギリス・アイルランドだけで店舗数は2,800店舗を数えます。エスプレッソを中心としたメニューで1杯400円台とスタバとは大きく変わりませんが、ジュースやコーラ、カップケーキなども充実しており、アイテム数が多い点が特徴です。

また、てんやの海外進出強化に加え、ロイヤルホスト初の海外直営店を24年6月にシンガポールで出店する予定です。パスタは2,000〜2,500円と日本の2倍以上の値段に設定し、日本と同様のメニューを提供する他、ある程度の現地化もされるようです。

丸亀製麺を手がけるトリドールHDは「うどん」ではなく「天ぷら」を訴求するなど、天ぷらは寿司・ラーメンに次ぐ日本食として海外では一定の認知度があります。てんや事業に関しては出店と共に「天ぷら」文化を定着させられるかがカギとなるでしょう。

ロイヤルホストについては未知数ですが、国内のようにリーズナブルな値段で高い品質を提供できれば、ヒット店になるかもしれません。国内外で展開する新規事業の今後に注目です。

<TEXT/山口伸>

【山口伸】
化学メーカーの研究開発職/ライター。本業は理系だが趣味で経済関係の本や決算書を読み漁り、副業でお金関連のライターをしている。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー Twitter:@shin_yamaguchi_
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