最大15万円を支給 オンデーズの「社内出稼ぎ制度」、1年が経過して見えてきたこと

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2024年04月28日 08:31  ITmedia ビジネスオンライン

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オンデーズが「社内出稼ぎ制度」を実施、効果は?

 メガネ・サングラスの製造販売を手掛けるOWNDAYS(オンデーズ、那覇市)は、2022年12月から人手不足解消に向けたユニークな取り組みを導入している。その名も「社内出稼ぎ制度」。人員が不足している店舗で応援勤務をする制度で、1カ月間の勤務で最大15万円のインセンティブを付与している。


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 導入から1年間で約30人が利用し、中には複数回利用した社員もいるという。インセンティブによる収入増だけでなく、キャリアアップの機会として有効活用した社員もいるそうだ。


 「社内出稼ぎ制度」の特徴と効果については人事部の是永茄奈未氏に、メリットと課題については応援勤務を経験したあと、現在は店長を務めている翁長那智氏に聞いた。


●1カ月間の応援勤務で最大15万円を支給


 全国に262店舗(2024年4月下旬時点)を展開するオンデーズ。同社は十分に販売員が配置できている店舗と、採用が難しく販売員が不足している店舗があり、人員不足の店舗では売り上げが低かったり、社員が疲弊したりする課題があった。


 オンデーズは顧客に寄り添ったメガネ選びにこだわりがあり、接客を重要視している。商品選びのサポートや会計だけでなく、視力測定や加工・調整などの業務も発生するため、どうしても人手が必要になる。


 これらの課題解消に向けた施策として生まれたのが、社内出稼ぎ制度だ。人手不足の店舗に出向いて1カ月間の応援勤務を行うことで、一定のインセンティブを付与している。


 応援を必要とする店舗は、地域ごとにS・A・B・C・Dと5つに振り分けられ、販売員の充足率が低い地域ほどインセンティブが高額になる。もっとも充足率が低いS地域は、1カ月の応援勤務で15万円を付与する。応援期間中は店舗付近のビジネスホテルに滞在し、移動費と宿泊費も支給している。


 「当初は1〜3カ月の勤務期間を想定していたのですが、以前に応援勤務を体験した社員の声を聞くと、2〜3週間でもキツいと。外食が多くなりがちなホテル暮らしのストレスや長期で自宅を空けることへの不安が大きいようです。そうした声を受け、現状は1カ月単位の募集としています」(是永氏)


 応援が必要な店舗が出てきた時点で全社員に向けてアナウンスを流し、希望者を募るのが基本的な流れだ。対象となるのは社内で1人前の証となる「3級」の資格を持つ社員で、基本的に入社6カ月以上となる。


 希望者が所属する店舗の状況を踏まえ、実施が先送りになることもあるが、なるべく本人の意向に沿うようにしているそうだ。


●以前の運用では、不平等や不満があった


 オンデーズの新入社員の9割超は、転居を伴う異動がない地域限定社員となる。これは、「転勤をしたくない」という学生の意向を尊重しているためだ。


 「転勤ありきでは採用が難しいため、当社では自宅から2時間圏内の店舗での勤務を確約して採用をしています。新入社員の1割弱が全国転勤ありで、地域限定社員よりも月給が2万円高くなりますが、転勤をしたくない人が多いですね」(是永氏)


 このような事情があり、中部や北陸など販売職を志望する学生が少ないエリアでは採用が難しく、充足率が低くなってしまう。また、売上向上を狙ってテレビCMを打つタイミングなどで、一時的に人員増加が求められるエリアも出てくる。


 社内出稼ぎ制度の導入以前は、会社側からの「一方的なお願い」として、充足率が高い店舗に対して応援勤務を依頼していた。結果的に、人員に余裕がある店舗で働く社員は応援勤務をすることになり、ネガティブな声があがっていたという。


 「応援勤務は1週間〜1カ月ほどの期間でお願いしていて、多い店舗では毎月2週間ほどの“応援”が発生していました。1人当たりで見ると、2〜3カ月に1度の頻度です。1日当たり1500円ほどの手当を出していましたが、メリットを感じづらいようで『できれば行きたくない』という声が集まっていました」(是永氏)


 発生頻度が偏らないよう配慮はしていたが、どうしても「私たちの店舗だけ応援勤務が多い」という不平等が生まれてしまっていた。一方、人員不足の店舗は残業が多く、社員の疲弊が目立ち、退職にもつながっていた。


 そこで、双方の課題解消に向けた施策として、社長が「社内出稼ぎ制度」のアイデアを出し、実施する流れになったという。


●沖縄→千葉に出稼ぎ後、千葉の店舗で店長に


 実際に社内出稼ぎ制度を活用した、新浦安店の店長・翁長那智氏にも話を聞いた。2022年に中途入社し、那覇市の店舗で販売員を務めていた翁長氏は、2023年10月に同制度を利用して千葉県のイオンモール津田沼店で応援勤務を実施した。


 「以前から出身地である沖縄の県外で働きたい希望があり、同制度を利用しました。インセンティブもありましたし、何より県外の店舗の様子や関東の地域性を見る良い機会だと考えました」(翁長氏)


 イオンモール津田沼店で1カ月間の勤務後、翁長氏は社内立候補制度を活用して、2023年3月に新浦安店の店長に就任した。社内立候補制度とは、学歴、社歴、年齢、国籍、性別などに関係なく、店長、スーパーバイザー、エリアマネージャーの3つの営業管理職を選挙で勝ち取れる人事制度だ。


 「応援勤務の期間中に新浦安店をはじめ近隣の他店舗を回って、社員の話を聞きながら情報収集をしていました。また、勤務を通じて、関東のお客さまは沖縄のお客さまよりも動きが早く、店内に入ってきたら素早くアプローチする必要があるなど、多くの学びを得られました。そうした経験が現在の人事につながっていると思います」(翁長氏)


 見知らぬ土地での1カ月間にわたる暮らしは、どうだったのか。意外にも「かなり充実していた」そうだ。


 「外食が増えるので食費がかかる、自分でつくった食事が食べたくなるといったことはありました。一方でそれ以上にメリットがあり、関東エリアの友人と遊びに行ったり、旅行に行ったり、非常に楽しい時間を過ごせました」(翁長氏)


●人手不足は解消していないが、一定の効果が出ている


 2022年12月に新制度を導入してから、1年間で約30人が利用した。中には複数回にわたって利用した人も。店長などの役職がある人は出稼ぎが難しいこともあり、利用者は「収入を増やしてプライベートを充実させたい」と望む20代半ばぐらいまでの若手社員が中心だという。


 同制度の導入によって、充足率が低い店舗にどんな変化があったのか。一例として、翁長氏が2023年10月に働いたイオンモール津田沼店では、翌月と比較して社員の総残業時間が10時間も削減された。


 とはいえ、出稼ぎ制度の実施期間は繁忙期やCMを放映しているタイミングで、通常よりも忙しくなる。店舗によっては応援勤務があっても残業が増える場合もあるそうだ。


 売り上げについては、応援勤務がある時期は、それ以外の時期よりも向上している傾向がある。ただ、さまざまな要因がからんでいるので、「一概に応援勤務の成果とは言えない」とのこと。一定のメリットはあるが、同施策だけで人員不足を解消できていないのが実情だ。


●社員の意欲を引き出し、人手不足解消へ


 現在、人事部では利用者の声を受けて、制度のアップデートを検討しているという。


 「社内出稼ぎ制度には、出稼ぎを通じてそのエリアの魅力を感じて、自ら異動を望む人を増やしたい狙いもあります。そのためインセンティブ付与だけでなく、現地での思い出づくりができる仕組みがあるといいのかなと。インセンティブを減らす代わりに休日を増やしてテーマパークのチケットをプレゼントするなど、エリアの魅力が伝わる内容にしたいという話が出ています」(是永氏)


 現状は「休日が増える」をオプションにして、「インセンティブ」または「休日増」を選択できる形を考えているという。さらに、より快適に過ごせるようホテルを少し豪華にする、朝食を付けるなども検討材料としてあがっているそうだ。「いずれは、人員不足の店舗をなくしていきたい」と是永氏は展望を話した。


 100%の課題解決にはいたらずとも、社内出稼ぎ制度は社員の意欲を引き出し、人手不足解消への良い循環を生むきっかけになっているようだ。制度のアップデートにより、さらなる成果が期待できるかもしれない。


(小林香織)


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