「わらびもち専門店」が海外でも好調 行列ができる秘密は?

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2024年05月01日 06:11  ITmedia ビジネスオンライン

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わらびもち専門店「甘味処鎌倉」が人気、理由は?

 2019年に1号店の「弥彦神社店」が新潟県弥彦村にオープンし、今では全国に50店舗以上を展開している、わらびもち専門店の「甘味処鎌倉」。


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 国産本わらび粉に独自の配合を加え、モッチリとした食感、とろけるような口溶け、つるんとしたのど越しを実現した「わらびもち」が看板メニューだ。国内では新店舗がオープンするたびに行列ができるほどの人気店である。


 2024年1月には海外初出店となる「香港 Hysan Place店」が、2月には「シンガポール One Holland Village店」がオープン、いずれもオープン直後は200人以上の行列ができたという。それから数カ月が経過した現在も好調のようだ。


 甘味処鎌倉を運営するK&S社(新潟市)の代表取締役 田中真司氏に海外店舗のビジネス戦略を聞いた。


●わらびもちを「文化」として根付かせたい


 甘味処鎌倉は、イートインとテークアウトの「わらびもち」「わらびもちドリンク」などを展開している。重厚感がある従来の和菓子屋よりも敷居が低く、気軽に入りやすい雰囲気を目指したという。


 「1号店を出店したのが新潟県の観光スポットである弥彦神社の近くで、旅のお供に気軽に食べたり、飲んだりできる商品として提供し始めました。若年女性をターゲットにした“トレンド感”を狙うのではなく、幅広い層の方が入りやすいような店舗や商品にしています」


 弥彦神社店の開業時、神社や温泉、昔からの飲食店などがある歴史的な観光エリアで、手軽に食べ歩きができる新しい形態のカフェとして話題になったという。その後もたびたびメディアに取り上げられたり、口コミが広がったりして、新店舗がオープンするたびに行列ができる人気店に成長していった。


 国内ではフランチャイズの割合が約9割で、歴史的な観光地や古い商店街など昔からにぎわっているエリアへの出店が多い。あえて、渋谷や表参道といったトレンドが生まれる街や駅前などは避けているという。


 「私自身が数値目標を立てて成長を追い求めるようなタイプではなくて。ただ、食べたい方がいるのに、食べられないエリアがあるのは嫌だなと思うので、オーナーさんに『わらびもちを広めていきたい』思いがあり、当社の考えにマッチしている場合に出店していただいていますね」


 「一過性のブームではなく、わらびもちを食べる文化を幅広く根付かせたい」と考え、こうした戦略を取っているそうだ。


 「名古屋では、わらびもちが夏の銘菓で自分のお抱えのわらびもち屋さんがあるぐらい一般的なスイーツなんです。そういった文化をつくりたいと思っています」


●香港・シンガポールに進出、日本の味を再現


 国内で人気を高めてきた甘味処鎌倉は、2024年1月に海外初出店となる「香港 Hysan Place店」を、2月に「シンガポール One Holland Village店」をオープンした。


 以前から出店計画を立てていたのかと尋ねると、「全くそうではない」と田中氏。


 「2023年の始めごろから、海外から問い合わせがくるようになりました。日本に旅行した際に当店のわらびもちを食べて、『すごく気に入ったから自分の国でも展開したい』と。それまで海外事情は知らなかったのですが、問い合わせがあった国に出向いて現地を見て、希望者と話して、やりましょうとなりました」


 香港もシンガポールも出店希望者の熱量が高く、スピーディーに出店が実現したという。


 「海外の方からすると、趣があって落ち着いた、いわゆる『日本らしい雰囲気』とは違っているけれど和のテイストを感じる当店のデザインが目新しく映るようです。わらびもちを食べてみると、食感や味に想像を超えるインパクトがあったと。日本滞在中に何度も通ってくれる方が多いんです」


 香港もシンガポールも、「日本の味を再現したい」というオーナーの強い意向により、日本から材料を送り、日本と同じ機械を使い、甘みや食感を変えないそのままの味を再現。現地にわらびもち専用の工場をつくり、クオリティーを維持している。メニューも国内店舗と同様だ。


 価格帯は、送料などを踏まえて日本の1.5倍ほどになっている。田中氏いわく現地の物価で相応の価格帯だという。


 「わらび粉やきなこ、黒糖、抹茶といった商品の味を決める材料は、日本の店舗と全く同じものを使っています。ただ、乳製品などは輸入制限がかかってしまうので、ホイップクリームは現地の材料を組み合わせて、できるだけ同じ味を再現しています」


 送料を削減するため、当初は抹茶など一部材料を現地調達できないかと考えたが、断念したそうだ。


 「開業前に日本からさまざまな抹茶を持ち込んで、シンガポールの一般の方にブラインドテストを実施しました。そうしたら90%近くが味で抹茶の等級を当てたんです。日本人より舌が繊細なのではと驚き、クオリティーを維持しないと見透かされると思いました」


●シンガポールは計画値の250%、反響の理由


 そうしたクオリティーの追求もあり、オープン前から一定の反響が得られる手応えがあったという。実際、香港もシンガポールも行列ができる繁盛ぶりだった。特にシンガポールは反響が大きく、これまでの売り上げは想定の約250%にのぼるそうだ。


 「香港のフランチャイジーは、現地で数十の大型レストランを運営している企業、シンガポールはオーナー自身には飲食店の経験がないものの、広い人脈を駆使して強力なチームをつくって運営しています。どちらもオーナーの熱量が高く、『この味を広めたい』という思いで取り組んでくれたことが好調の理由だと思います」


 「香港もシンガポールも、わらびもちを食べたことがある人がわりといるのですが、知っているわらびもちの食感や味をいい意味で裏切っているようです。食べ始めはもちもちとした弾力があり、あるタイミングで溶けていく食感を狙っていて、それがインパクトになるようです」


 抹茶や黒糖、コーヒー、いちごといった材料も原価が高い厳選した素材を使っており、味のクオリティーを総合的に高めているそうだ。


 特に人気なのはテークアウト用のわらびもちとわらびもちドリンクで、6:4でテークアウト用のわらびもちが売れているとのこと。わらびもちドリンクは抹茶が一番人気となる。


 オープンから3カ月ほどが経過した現在、香港もシンガポールも好調な状態が続いている。香港は駅前で行列をつくれないため整理券で対応、シンガポールは多いときで300人ほどが並ぶという。リピーターも少なからずいるようだ。


●課題はブランドを生かす「ローカライズ」


 現状は日本の味を再現して現地で反響を得ているが、長く定着させるには「ローカライズが必要だ」と田中氏は言う。


 「もともと視察の段階では、ローカライズが重要だろうと考えていました。現地の人にも、ファミリー向けのメニューなど商品ラインアップを広げたほうがいいと言われましたし。ただ、闇雲に広げるのではなく、ブランドにフィットする形で変化していく必要があり、ここが最も難しいと考えています」


 田中氏は、カナダやマレーシアなど日本の飲食店が多く出店しているエリアで、ローカライズに失敗している事例を多く見てきたという。


 「現地では、『メニューを増やせば売れる』というのが一般論です。ですが、例えば『天丼専門店』でありながら、現地のニーズに合わせて中華料理の麻婆豆腐丼を売り始めたとしたら、商品の幅は広がってもストーリーはつながりません。当社でいえば、『わらびもち専門店』でありながら、日本食という広いカテゴリーでラーメンも売り出すなど。こういった度が過ぎたローカライズは、定番人気の獲得につながらないと思います」


 目先のローカライズとしては、甘みや食感の微調整に着目しているという。例えば、シンガポールでは小売店や自動販売機で購入できる甘味飲料、及び飲食店やホテルで提供される甘味飲料に含まれる糖分量をA・B・C・Dにランク付けし、表示を義務付けている。国民の健康意識が総じて高く、糖分多めや氷入りの冷えた飲み物を避ける傾向もある。


 こういった背景から、現地の人が好む甘さや味の濃度、食感などが日本とは異なるかもしれないと考えているそうだ。


 初の海外出店で勢いよくスタートダッシュを切った甘味処鎌倉。年内に新たな国への進出も予定しているといい、今後の動向も気になるところだ。


(小林香織)


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