衆院補選で示された「政治への怒りと諦め」…与野党ともに求められる変革 豊田真由子が読み解く衆院補選結果

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2024年05月01日 20:40  まいどなニュース

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豊田真由子

4月28日に行われた衆院3補選では、自民党が全敗しました。結果自体は大方の予想通りであったと思いますが、有権者の投票行動から読み取れることや関係者からの話なども踏まえ、結果の分析や日本政治の問題点、今後への影響等について、考えてみたいと思います。

【グラフ】Z世代の約7割「日本社会の未来に、希望を感じていない」 理由1位は…「政治に期待が持てない」

【ポイント】

・自民への不信は相当深刻だが、立憲への全面的支持でもない
・政治全体への諦め
・衆院小選挙区では、「地元に根付いている候補」が強い
・“野党だけど保守系”は強い
・無党派層の動向がカギ
・投票してもらうには、「押し付け」ではなく、有権者自身が「その候補者をよいと思い、心を動かされること」が必要
・結局、野党も世襲頼み
・総選挙での野党共闘は容易ではない
・小池都知事も単独支援では勝てない
・“ポスト岸田”の動きが始動
・政局が一大事なのは政治家だけ

【考察】

▽“政治とカネ”の問題をはじめとする自民党への逆風は大きく、それも、「お灸を据えたい」といったレベルの話ではなく、「もういい、期待しない」という諦観や呆れに近い思いを持つ有権者も多い印象を受けました。そういったことを、自民党がどれくらい危機感を持って深刻に受けとめているか、が肝心で、今までのように「ここをじっとやり過ごせば、有権者はそのうち忘れる」と思っていたら、大変なことになると思います。

▽立憲民主党の公認候補が全勝し、それ自体は大いに評価すべきことだと思いますが、一方で、自民党への逆風という敵失の面も強く、立憲に政権を担ってほしい、といった強い全面的支持の表れということでもないように思われます。「政治改革」を求める声は大きいと思いますが、「政権交代」へのハードルはまた別にあり、国の舵取りをできると信頼されるに足る実力を付けることが求められます。

▽低い投票率(東京40.70%、島根54.62%、長崎35.45%)の理由は、補選であること、連休の中日であること、自公の候補者がいないところは、投票に行かない有権者も多かったと推察されること、長崎はなくなる選挙区であること、等が考えられますが、そもそも、「与党も野党も含め、政治全体への諦観・嫌悪」といったものも、感じます。

▽有権者の支持政党別の投票先データ(末尾に掲載)が興味深いです。野党候補の勝利に必要とされる「9:6:3の法則(野党支持層の9割、無党派層の6割、保守層の3割を獲得すれば、野党候補が勝てる)」というものがあります。現下の政党支持率から考えれば、野党候補は「自分の属する政党の支持層の票」だけでは勝てないわけで、「あまり過激でなく、保守層や無党派からも票を得られる候補」が重宝されます。3選挙区とも、勝った候補者は、与党票の一部と、そして無党派の票を相当数取っており、絶対数が多い無党派層の動向が勝敗を左右するともいえます。

▽一方で、「与党だけではなく、結局のところ、野党も世襲候補が強い」という、日本政治の根深い問題が露呈したともいえます。島根、長崎とも、立憲の候補は、由緒正しき世襲で、知名度があり、父親は自民党所属だった時期もあり、その子どもは「野党票」と「保守系」の両方の票が取れるという強みがありました。

▽「野党が選挙協力して、一騎打ちなら勝てる」との認識が高まっているかと思いますが、本選である総選挙では、そう簡単にはいかないと思います。今回の島根は、「与党新人vs地元で実績のある世襲野党候補」であり、他地域では実績のある与党議員も多いこと、維新等の独自性もあり「完全な野党共闘」は難しいこと、比例投票がある総選挙では存在感を示すために共産党も独自候補を立てる必要があること、等々から、全国で直ちに同じことが起こるとはいえないと思います。

▽東京15区の得票順位を見ても、やはり、衆院小選挙区は、参院全国比例や参院複数区のように、「地元に関係の無い有名人が、突然来て勝てる」わけではなく、やはり「地元で活動を続け根付いている/地元出身等で熱心な人脈がある」といった候補が強いといえると思います。

▽小池都知事の求心力に疑問符がついたと言われますが、そもそも、勝利した八王子市長選や江東区長選は、「自公」+「小池都知事」が結束することで勝利しており、別々に候補を立てた目黒区長選では敗北したことも踏まえれば、やはり両者の連携が無いと厳しい、ということだと思います。

ただ、(いろいろと批判はあるものの)知事自身への人気は根強くあると思いますので、7月の都知事選は乗り切れるように思いますが、「自身がイニシアティブを取って、国政を動かす」という目論見については、大きく見直しを迫られると思います。

▽今後の政局については、現時点ですぐさま「岸田降ろし」にはならないと思いますが、「岸田首相では次の選挙は戦えない」との不安が広がったことや、派閥問題での対応等で、党内に次期総裁として岸田氏を推す思いとインセンティブは少なくなっていると思います。

▽自公内では、解散・総選挙は秋以降を求める声が多いと言われますが、総裁選を巡っても、様々な思惑がうごめいています。ただ、政局が一大事なのは政治家にとってだけであり、国民が望んでいることは、あくまでも、山積する課題にきちんと取り組み、国民生活の不安に応え、より良い政策を実現してくれることだ、ということを認識する必要があると思います。

【各選挙区の結果の分析】

各選挙区の「有権者の支持政党別の投票先データ」は、末尾にお載せしています。

東京15区

勝った酒井氏は、助産師を経て区議を務め、前回の区長選にも出馬し、地元で名が知られていました。江東区は、都議(定数4)は共産1名、区議(定数44)は立憲1名・共産5名で、決して政治勢力として大きいとはいえませんが、労組票等のまとまり、闘病経験への共感、好印象の女性であること等で無党派層にも浸透したと思われます。

須藤氏は、当初は野党統一候補として擁立の動きもあったようで、全候補者の中で、唯一地元で生まれ育っていること、格闘界関係者のバックアップ、また、電飾自転車で地元を回るといった独自のパフォーマンスが“刺さった”面もあり、自民や無党派の票を取りました。

金澤氏は、普段から地道に駅立ちや地回りを続けている、との評価が定着しているとのことで、華奢な印象を覆す芯の強さを感じさせ、前回の衆院選も4.5万票を取っていました。自民や無党派の票も取りましたが、維新の東京進出への壁も示しました。

飯山氏は、一部ネット上での熱烈な支持、新たな日本保守党への期待といったこともあり、当初の予想より大きく票を伸ばし、存在感を示しました。参院比例など含め、今後の“岩盤保守”票の動向が注目されます。

乙武氏は、思ったような票が出ませんでしたが、これは、いろいろなファクターが絡み、今後の政局にも影響するところですので、ちょっと深掘りしてみたいと思います。

小池都知事の戦略ミスというか、狙い通りに行かなかった面があると思います。自民に逆風の中、「自民に厳しいことも言って反自民の支持も得つつ、自民の応援を得る」との戦略を描かれたのだと思いますが、前々回の江東区長選のしこりもあり、自民党の強い怒りを買いました。候補乱立の中で、自民、都民ファ、無党派層のどの票も十分集まりませんでした。

小池知事は熱心に応援演説に入っただけではなく、有力者と言われる人のところに乙武氏を連れて熱心にお願いに回ったようですし、最終盤では公明が動いたという話もありますが、それでも、自公が全力で応援した場合に取れたであろう得票には、遠く及びませんでした。

前述のとおり、八王子市長選も、江東区長選も、自公と小池氏の両方が強力に応援することで勝っているわけで、やはり「自公+小池氏」のきちんとした連携がないと厳しいということだと思います。

また、これは“国政選挙あるある”ですが、自民党の党本部、都道府県連、地元支部というのは、実は思惑がバラバラで、それぞれの溝が非常に深いです。「党本部から言われたから、都道府県連や地元支部が一丸となって動く」なんてことは、基本ありません。

特に、どの選挙区でも、地元には「ひとたび選挙となれば、汗を流して必死で働かなければならないのは自分たちなのに、『党本部や都道府県連が勝手に決めて、自分たちが選んでいない候補者』を応援しろ、と言われることへの抵抗感」が非常に強くあります。

市区長選や地方議員選挙に、党本部は実質的影響力がほとんど無いため、忠誠の必要性が乏しいこと、また、長年に渡り地元に君臨する方々がたくさんいる、という自民党に顕著な事情かと思います。

いずれにしても、どんな選挙においても、今どきは昔と違って、「有権者の心を動かす」大きな力は、「偉い人(有力者や自分の会社の社長や職域団体の長等々)から頼まれた」といったことではなく、「その候補者のことを、その有権者自身がいいと思って、応援したいと心から思ったこと」が大切になっている、と思います。

島根1区

勝利した立憲の亀井氏は、“保守票も取れる野党候補”であり、「9:6:3の法則(野党支持層の9割、無党派層の6割、保守層の3割を獲得すれば、野党の候補が勝てる)」を満たす候補者でした。実際に、無党派層の7割、自民支持層の3割、公明支持層の4割を取っています。

亀井氏は、岩倉具視氏を祖先に持つピカピカの家柄で、自身も参院・衆院議員を務めましたが、父親の久興氏は自民党で国土庁長官まで務め、父子ともに、地元では高い知名度がありました。

自民党への世襲批判がよくなされますが、所詮、野党も同じ(世襲議員の占める割合は違いますが)というところは、「お金持ちが圧倒的に有利(深刻な政治内経済格差)」という、日本政治の根本的な問題のひとつだと思います。

自民の錦織氏は、元財務官僚としての政策能力やがむしゃらに働くポテンシャルは十分あったと思いますが、いかんせん、逆風が強かったと思います。

島根は「自民党王国」とされ、自民が議席を独占しているという意味では確かにそうなのですが、前回衆院選は「細田前衆院議長6割、亀井氏4割」という得票で、亀井氏にすでに一定のポテンシャルもある中、今回派閥裏金問題の渦中で、自公の動きもフル稼働とは全く言えず(公明の推薦が出たのは告示日の前日)、岸田首相はじめ幹部が応援に入りましたが、聴衆の数や盛り上がりにも欠けていたようです。また、“弔い合戦”とはいっても、親族ではないので、その意味合いも薄くなります。

これまで国政選挙の補選では、自民党は、派閥の勢力拡大につながるため、候補者が所属する予定の派閥の議員や秘書が総出で応援に入る、というのが通例でしたが、派閥解散により、そういったことは行われなくなり、代わりに今回は、中国ブロック選出議員の事務所を中心に行われたものの、やはり派閥の持つ絆やポテンシャルには遠く及ばなかったと思います。

島根県では、国会議員は、衆が自民1名、立憲1名、参が自民2名。県議(定数36)は、自民26、公明2、立憲4、国民1、共産2という勢力図です。

長崎3区

勝利した立憲の山田氏は、現職の衆院議員(1期)で、父親の正彦氏は、民主党政権下で農林水産大臣を務めました。所属政党をたくさん変わられましたが、政治の世界には、「どこの政党に移ろうとも、『その人』を応援し続ける」という強固な支持者が存在し、「〇〇(候補者の姓)党」と呼ばれたりします。“お父さんに世話になった”は、地元でも永田町でも、大きな強みで、“地盤看板カバン”といった言葉では片付けられない、応援のエネルギーがあったと思います。

維新の井上氏は、長崎県には維新の国会議員も地方議員もひとりもいないという状況下で、奮闘されたと思います。やはり、国政を空中戦だけで戦うのは容易なことではなく、維新が全国政党化を目指す中で、地方議員や首長を増やし、地力を強くしていくことが不可欠であることを改めて示しました。

自民党は、今回候補者を擁立しませんでしたが、衆院の新1区から3区の支部長はすでに決定している中(1区は元県議、2区・3区は現職衆院議員)、今回の補選に候補者を立てても、次の選挙で行き場が無いという事情がありました。ただ通常は、勝つ見込みがあって、候補者を立てて勝った場合には、次の衆院選で比例に回す、といったことが行われますので、やはり、今回は不戦敗にせざるを得ない、という苦境を象徴していたと思います。

長崎は前回知事選が保守分裂でした。どこの地域でもそうですが、国政での勢力図の変遷は、地方選挙にも影響することになります。

長崎県では、国会議員は、衆が自民2名、立憲2名、国民1名、参が自民2名。県議(定数46)は、自民30、公明3、立憲3、国民3、共産1となっています。

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今回の補選結果を受けて、解散・総選挙がいつになるか、自民総裁選がどうなるか、といった政局の論議がさかんに行われています。いつも思うのですが、議員自身が次の選挙で当選するかどうか、党内力学がどうなるかといったことは、もちろん、当事者にとっては、極めて重大な関心事なわけですが、国民が望むのは、あくまでも、国民のことを真摯に考え、その不安に応え、国民と日本国の将来にとって、より良い政策を実現してもらうことであり、政局に明け暮れる永田町の人々の姿は、国民に一層の政治不信を湧き起こすだけではないだろうかと思います。

そして本来は、政権を担う実務能力を有する政党が複数存在し、政権交代が適時行われることが、政権運営に緊張感を生んでいくはずなので、逆に言えば、「政権交代が起こらない」ことが、現下の日本政治の大いなる停滞の要因のひとつといえるとも思います。

与党も野党も、自身や自党の勢力拡大ばかり考えるのではなく、そうしたことはあくまでも、政治においてより良い政策を実現するための「手段」であるという認識の下、国民に寄り添い、山積する課題に対処し、日本国の強く明るい未来を着実に作っていく、という「目的」の実現のために、ちゃんと働いてもらいたいと、国民の皆様は思っていると思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

【参考】支持政党別投票先(NHK出口調査より)

<東京15区>

投票率は40.70%で、前回の衆院選より18.03%低い。

支持政党の割合は、自民24%、立憲11%、維新8%、公明3%、共産3%、国民2%、れいわ1%、参政1%、都民ファ1%、無党派層43%。

支持政党別の得票率は、以下の通り。

酒井菜摘氏は、立憲支持層の80%あまり、共産支持層の70%台半ば、自民支持層の10%あまり、維新支持層のおよそ10%、無党派層の30%あまり。

須藤元気氏は、自民支持層のおよそ20%、公明支持層の20%台半ば、無党派層の20%あまり。

金澤結衣氏は、維新支持層の70%あまり、自民支持層のおよそ20%、無党派層の10%あまり。

飯山陽氏は、自民支持層の10%台半ば、無党派層の10%台半ば。

乙武洋匡氏は、自民支持層の10%あまり、公明支持層の50%台半ば、国民支持層の40%台半ば、都民ファの支持層の30%台半ば、無党派層の10%あまり。

   ◇   ◇

<島根1区>

投票率は54.62%で、前回衆院選より6.61%低い。

有権者の支持政党割合は、自民37%、立憲18%、維新4%、公明3%、共産2%、国民2%、れいわ2%、無党派層は30%。

支持政党別の得票率は、以下の通り。

亀井亜紀子氏(立憲):立憲支持層の90%台半ば、維新支持層の60%台半ば、無党派層の70%台後半、自民支持層のおよそ30%、公明支持層の40%余り。

錦織功政氏(自民):自民支持層のおよそ70%、推薦を受けた公明支持層の50%台後半、無党派層の20%余り

   ◇   ◇

<長崎3区>

投票率は35.45%で、前回の衆院選より25.48%低い。

投票した人の支持政党割合は、自民30%、立憲21%、維新8%、公明2%、共産2%、国民2%、れいわ3%、社民1%、参政1%、無党派層30%。

支持政党別の得票率は、以下の通り。

山田勝彦氏(立憲)は、立憲支持層の90%あまり、自民支持層の50%台後半、無党派層の60%あまり。

井上翔一郎氏(維新)は、維新の支持層の90%台半ば、自民支持層の40%あまり、無党派層の30%台後半。

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  • 国会議員になった事で、自分を特権階級であるかのように他人を見下し、蔑む暴言と行動で貶めた奴が涼しい顔して評論家ぶるのが不愉快だわ。
    • イイネ!5
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