高級メニュー並ぶ銀座の「くら寿司」 3貫1000円超に潜む勝算

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2024年05月02日 06:31  ITmedia ビジネスオンライン

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ついにくら寿司が銀座進出

 4月25日、くら寿司が銀座エリア初となる店舗「グローバル旗艦店 銀座」を出店した。日本の文化を発信するグローバル旗艦店としては国内6店舗目であり、通常店舗より和を意識した内装となっている。浮世絵や提灯を付けた屋台など、SNS映えを意識した装飾も目立つ。また、3貫で1200円の「特撰三貫『銀座』」のように、店舗限定メニューは強気の値段設定だ。銀座店の特徴と、その狙いを探っていく。


【画像】店舗の様子、独特の内装、多数の撮影スポット、1000円超の高級なメニュー


●和風の内装に、現代風のSNS映えとエンタメも


 銀座店は銀座エリアの有楽町駅にほど近い「マロニエゲート銀座2」の7階に位置する。店内の内装は白木をベースとしており、各テーブルには真っ白いのれんが垂れ下がっている。ロードサイドに構える通常の店舗より「和」を意識した内装だ。


 内装はこれまでに出店した国内5つのグローバル旗艦店と同じく、クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏がプロデュースしている。他の5店舗も白木をベースとした内装で、浅草店では高い天井を生かし、大きな屋根を設置しているのが特徴だった。


 入口付近には歌川広重の浮世絵「東都名所高輪廿六夜待遊興之図」のレプリカを展示。海辺で人々が屋台を楽しむ姿を描いたもので、屋台では当時のファストフードである寿司のほか、天ぷらや団子などを販売している。前述の佐藤氏はこの浮世絵を見て、くら寿司との親和性を感じ、グローバル旗艦店のアイデアを着想したという。


 銀座店には、浮世絵の世界を再現したコーナー「くら小江戸」を設けている。くら小江戸にはそれぞれ寿司・天ぷら・団子を提供する3つの屋台があり、夜空をイメージした壁には電飾の花火もあり、SNS映えやエンターテインメント性を重視している姿勢がうかがえる。


 3つの屋台では銀座店限定のメニューも提供する。注文は各席にあるタッチパネルから行い、料理が完成するとタッチパネルで通知。自分で屋台に取りに行く仕組みだ。混雑状況次第だが、空いていれば注文から受け取りまで5分程度だという。


●3貫で1000円超の高級メニューも


 店舗限定メニューはかなり強気の価格設定である。みたらしや白あんが乗った団子は150・200円だが、握りメニューは従来の回転寿司とは思えない価格だ。まぐろや車エビなど握り5貫とカステラ玉子焼が乗った「特上にぎり『蔵-KURA-』」は1800円。まぐろ・車エビ・すずきの「特撰三貫『銀座』」は1200円である。貝類3貫で1200円といったメニューもある。


 天ぷらも高めの価格帯で、徳島のアシアカエビや真あじなどが乗った「特上天ぷら盛り」は5個で1300円だ。店舗限定の天ぷら盛り4種のうち、3種類が1000円以上である。筆者もいくつか試食したが、回転寿司にしては高品質であり、値段相応と感じた。


 ちなみに、店舗限定メニューは他のグローバル旗艦店でも提供している。大阪のなんばパークスサウス店ではネタとシャリを海苔で巻いたsushiロールを、原宿店ではクレープメニューを提供する。原宿店では銀座店のくら小江戸と同様、店舗限定のクレープをスイーツ屋台から直接受け取るシステムを採用している。


 もちろん通常の寿司メニューもあり、銀座店の場合は1皿150円〜とやや高めの設定になっている。くら寿司の最も安い店舗は1皿110円〜。銀座店が特段高いわけではなく、150円以上の店舗は浅草や池袋、大阪・梅田など他にも約20店舗ある。立地を考えれば妥当といったところだろうか。


●回転寿司も健在


 くら寿司らしく、実際に寿司ネタがレーンを流れる“リアル回転寿司”も健在だ。2023年1月にスシローで起きた迷惑事件以降、大手回転寿司チェーンはレーンで寿司ネタを流すのを取りやめ、注文品や高速レーンのみとする動きが進んだ。同事件では男性客がしょうゆ差しの注ぎ口をなめる動画がSNSで拡散し、衛生面から回転寿司を忌避する消費者も現れたという。その後スシローは2023年11月、商品を常時レーンに流すサービスを再開しない方針を発表した。


 一方、くら寿司では銀座店を含め、通常店でも商品をレーンで流し、大手チェーンでは唯一とうたっている。こうしたスタイルを堅持する背景について「Z世代を中心に若年層の需要があること」「エンターテインメント性を重視したいこと」などの理由を挙げている。抗菌カバーで衛生面を確保し、不振な動きを察知するAIカメラで迷惑行為への対策も講じるなど、抜かりない。


 過去記事『スシロー「デジタル回転寿司」の衝撃 くら寿司との都心決戦を左右する「レーン戦略」』でも取り上げたように、くら寿司はサイドメニューが豊富で景品システムの「ビッくらポン!」を導入するなど、子供ウケを狙ったような施策が見られる。ファミリー層やインバウンドをターゲットとする上で、レーンで商品を流すエンタメ性は欠かせないのだろう。


●大手チェーンで続々とインバウンド特化の流れ


 一部の強気な価格設定について、同社はインバウンド価格ではないとしつつも「従来のグローバル旗艦店のインバウンド比率は約5割であり、銀座店はそれ以上になりそうだ」と話す。やはり高い価格設定や演出性のある内装は、少なからずインバウンドを意識しているのだろう。


 立地的にも、今回の銀座店がインバウンドをターゲットにしていることは明らかだ。出店したマロニエゲート銀座2にはユニクロやダイソーが出店するなど、インバウンドに人気の日本らしいテナントが入居している。中でもユニクロの店内は外国人の姿が目立つ。こうした店舗の来店客が、くら寿司も利用する相乗効果を期待しているのかもしれない。


 大手飲食チェーンでインバウンドに特化する動きは珍しいとはいえ、少しずつ出始めている。近年では吉野家がインバウンドをターゲットにしたような商品を出しており、観光客が多い約100店舗で「鰻重牛小鉢セット」を提供している。値段は鰻2枚盛りで2338円だ。築地銀だこを運営するホットランドも、天ぷら専門店「日本橋からり」などさまざまな業態店をインバウンド需要が期待できる観光地で出店する方針だ。


 インバウンド店には高い利益率を期待できる。飲食業態は人流回復で売り上げが伸びているものの、原材料費や人件費の高騰で利益は圧迫されている状況だ。くら寿司も売上高こそコロナ禍以前の水準を上回っているが、2023年10月期の営業利益は2019年10月期を下回る。収益の確保を目的として、今後は大手飲食チェーンによるインバウンド特化型店舗の出店や、対象メニューの提供が加速していくのかもしれない。


●著者プロフィール:山口伸


経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。


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