「客室平均単価」が3年で3倍にも…“荒稼ぎするホテル業界”が稼ぎ時のGWを手放しで歓迎できないワケ

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2024年05月02日 09:21  日刊SPA!

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 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
 本格的なゴールデンウィークに突入し、高速道路や公共交通機関、観光地の混雑が本格化しました。コロナ禍で冷え込んだ国内の旅行マーケットは完全に回復しています。

 国内外の観光需要が盛り上がる中で、高騰しているのがホテルや旅館の客室単価。宿泊料金は2019年を上回る施設が続出する一方、需要の急増で人手不足という深刻な事情も抱えています。

◆なぜ「旅行単価」が下がっているのか

 JTBは、2024年のゴールデンウィークの国内旅行者数は前年比0.9%増の2280万人、平均単価は3.7%増の3万6100円になるとの調査を発表しました(2024年ゴールデンウィーク[4月25日〜5月5日]の旅行動向)。

 2019年の同じ調査では、旅行者数が2401万人、平均単価が3万6800円。完全回復とまでは言い切れないものの、コロナ前の水準に近づいています。ただし、物価高に見舞われているにも関わらず、旅行単価が下がっています。その要因の一つに旅行日数の影響があるでしょう。

◆2021年の3倍程度にまで跳ね上がった「ホテルの宿泊料金」

 2024年は1泊2日の割合が37.7%。2019年は36.9%でした。旅行先に滞在する日数が減り、宿泊費や食事代などの予算が減っているのです。

 今年の旅行者でホテルの利用意向を示しているのは60.8%で、前年から7.9ポイント上昇。旅館は26.3%。9.2ポイント増です。

 更に海外観光客も日本に押しかけています。観光庁によると、2024年2月の外国人宿泊者数は1144万人泊。この数字は2019年同月比の1.2倍にものぼるものです。

 2月の時点でシティホテルの客室稼働率は70.1%、ビジネスホテルは72.2%。リゾートホテルでさえも54.2%に達しています。

 需要が急増したために宿泊施設の客室単価は高騰しました。東京ホテル会が公表している加盟250の2024年2月の客室平均単価は1万5543円。3月は1万8276円でした(「2024年3月 東京ホテル会 報告」)。これは2019年の同月の価格を6000円以上も上回るもの。2021年の価格の3倍近くまで高騰しているのです。

◆リベンジ消費にインバウンド消費が加わり…

 コロナで大打撃を受けたホテル業界は、力強く回復しています。ワシントンホテルなどを運営する藤田観光は、2023年度のホテル事業の営業利益が2019年度を上回りました。

 ホテルの客室稼働率は83%で、2019年度の90%を超えていません。しかし、客室平均単価は1万1251円から1万3052円へと16.0%上昇しています。それが増益の原動力となったのです。

 しかも、藤田観光は2024年度の客室平均単価はリベンジ消費にインバウンド消費が加わり、更なる上昇余地があるとの見通しを示しています。

◆リゾナーレの客室単価は「4万円から7万円」に

 星野リゾートも極めて好調です。主力施設であるリゾナーレは、2023年度(2022年11月-2023年10月)の客室平均単価が6万9943円でした。2019年度は4万3478円。1.6倍に膨らんでいます。客室稼働率は86.4%から74.6%に下がっていますが、単価増で施設全体の収益性は上がりました。

 星のやも客室平均単価が7万4670円から9万995円へと1.2倍に増加しました。稼働率はやはり89.1%から74.9%へと下がっていますが、コロナ前よりも稼ぐ力は上がっています。

 宿泊業界は需要が安定してきたため、無理な値下げで宿泊客を獲得する理由がなくなりました。濡れ手に粟とまではいかないまでも、コロナ禍で失われた穴を埋めるには十分なマーケットが形成されたと言えるでしょう。

◆「宿泊施設のアルバイト求人数」は2倍に膨らむ

 ただし、手放しには喜べない事情があります。深刻な人手不足です。急速な需要回復に、多くの宿泊施設は十分な人員の確保がしきれていません。

 データ分析サービスを提供するナウキャストは、宿泊産業の求人動向について調査を行っています(「「HRog賃金Now」で見る宿泊業の賃金・求人動向および賃金上昇と宿泊料の関係について」)。雇用形態別求人数指数の推移において、2017年2月13日の週を100とした場合、2024年2月1日の正社員の求人指数は130を超えています。アルバイトに至っては200近辺で高止まりしているのです。

 賃金指数においては、正社員が同期間で1.15倍、アルバイトが1.25倍程度まで伸びたことを示しています。特にアルバイトの数が足りておらず、多くの宿泊施設で時給を上げて人員獲得に動いている様子がわかります。

 ホテルや旅館などの宿泊施設は、繁忙期と閑散期の差が激しいうえ、24時間対応する必要があるために人材が集まりづらく、慢性的な人手不足に陥っていました。しかもオペレーションは複雑で、ファミリーレストランのように配膳ロボットの導入で生産性を上げられる業界でもありません。おもてなしの心も重視され、一定の教育も必要な業界です。

 ゴールデンウィーク中の宿泊費が高騰するなか、人手不足や教育不足でサービスの質が低下すれば、ブランドに傷がつくのは間違いないでしょう。今年の連休はホテル業界にとって願ってもいない稼ぎのチャンスである一方、試練を迎える時期でもあります。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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