日本の学生の読解力は“世界3位”。東大生が「手放しで喜べない」納得の理由

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2024年05月12日 16:01  日刊SPA!

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―[貧困東大生・布施川天馬]―
◆世界上位の読解力を持つ日本の実態

 みなさんは日本が世界有数の読解力大国であることをご存じですか? 2022年に行われた世界各国の15歳の学習到達度調査PISAでは、日本の学生の読解力が世界3位になったと伝えられています。

 2018年の同調査では世界15位まで落ち込んだところからの回復でしたので、この結果は誇るべきものとしてもてはやされました。しかし、その実態はどうでしょうか。私が個人的に試した限りでは、そこまで輝かしい未来が待ち受けているようには思えません。

 私はいま現代文の講師として指導を行っています。そこで、受け持ちの生徒たちに「自分の国語力は同世代と比べてどうか」と質問をしてみました。

 私が担当しているのは、比較的国語が苦手なクラスだったので、「劣っている」と答えた生徒が大半でした。そこで、「中学生と比べたら?」「小学生と比べたら?」とどんどん年代を下げてみました。すると、大体の生徒が「中学生くらい、小学生よりは読解力がある」と答えます。

◆読解力に必要なものとは?

 その質問の後で、私は生徒たちに問題を解かせました。全部で4問用意していったのですが、2問を解いたところで手が止まり、そこで時間切れになりました。問題が難しかったのだろうと、仕方ないと考える人もいるかもしれません。ですが、私が出した問題は、すべて中学入試から文章を抜粋した問題だったのです。それも、偏差値50から58程度の学校で、開成や灘(ともに偏差値71)など超難関校の問題ではありません。

 もちろん、中学入試とはいえ、文章自体は新書などからとられます。ですから、文章のレベル自体は高校入試にも引けを取らない。ここでの問題は「自分たちが解けなかった問題が、少し勉強した小学生なら解ける」事実でした。生徒たちは、しばらく絶句していました。

 ですが、これは珍しい現象ではないと私は考えます。高校生になっても読解力が小学生から変わらない子どもは、数多い。読解力には語彙力と経験値、知識幅が大きく影響するからです。

 国語は知識がいらないと考える人もいるかもしれませんが、そうではありません。むしろ大きく経験値の差が出るのが国語。例えば、私は文章の最初の段落を読めば、展開がわかります。いろいろな文章を読んでいるので、主張のパターンが予想できるためです。

 これができれば、文章を有利に読み進められる。逆に、手探りで読む人は、常に新しい概念に直面して考える羽目になりますし、ストレスもかかります。また、自分の知らない常識を知らないままに読み進めれば大きな読み違いをしてしまう可能性もある。

◆世界1位になることも可能

 例えば、『ルポ 誰が国語力を殺すのか』(文藝春秋 石井光太著)では、ごんぎつねにおける兵十の母の葬儀のシーンで、「何かを煮込んでいる」描写について、多くの小学生が真面目に「兵十の母親を煮ている」と答えたと伝えます。本来は「葬式に来ている人々にふるまう料理を作っている」が正解ですが、常識が頭に入っていないので、与えられた情報から「(死んだ)兵十の母親を煮て消毒しているのだ」と、誤った解釈をしてしまう。

 言葉や社会常識に関する知識は読解に大きな役割を果たします。ものを知らなければ、正しく推測することもできません。文章を読む習慣がなければ、国語の経験値が蓄積されないまま成長します。小学生のころから読解力が変わらずに大人になる例も、少なくないのではないでしょうか。

 とはいえ、冒頭でお伝えした通り、日本の高校生は世界でも読解力がかなり高いほう。だからこそ、非常にもったいなく感じられるのはぜいたくな悩みでしょうか。たかだかその程度の読解力で世界3位を取れるのですから、少しトレーニングを積めば、たちまち世界1位に上り詰めることも可能でしょう。

◆世界1位を目指すトレーニング術とは

 適当な漢字の練習帳を解き進め、言葉の学習をするだけで、ずいぶん優位に立てます。『現代文キーワード読解』(Z会編集部)などはビジネスパーソンにもお勧めできる国語の受験参考書ですが、これに載っている言葉の意味を答えられない大人は意外と多いはず。ですが、この程度の言葉も知らなければ新書の一冊も満足に読めません。

 また、読解力を高めるトレーニングは文章の要約が一番です。できれば文章に起こして実際に文字に書くことが望ましいですが、口頭で「どんな話だった?」と聞いて答えてもらうだけでも相当な読解力の向上が見込めます。現状の学校教育ではそこまで手が回っていないので、家庭でフォローするのが望ましい。

 読解力が思っている以上に低い現実は、「少し勉強するだけで大きな差が付けられるチャンス」でもあります。写真や動画中心のSNSが流行っている今だからこそ、文字ベースのやり取りにより一層注意を払ってみてはいかがでしょうか。

―[貧困東大生・布施川天馬]―

【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。(Twitterアカウント:@Temma_Fusegawa)

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  • 『〜知識は読解に大きな役割を果たします。〜正しく推測することもできません。』ここが肝だろう。勉強とは暗記で受験勉強は役に立たないなどとと思っている人に読んでほしい文章だ。
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